無敵の【着火】マン ~出来損ないと魔導伯爵家を追放された私なんだが、しかたがないので唯一の攻撃魔法【着火】で迷宮都市で成り上がる~

川獺右端

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幕間: ざまぁ②

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 ビオランテは領都の大通りで馬を歩かせていました。
 お供の騎士と一緒に領城へと行く途中です。

――ああ、この街がもうすぐ俺の物になるんだな。出来損ないのマレンツに感謝だぜ。

 そう考えて辺りを見回しながらゆっくりと馬を歩かせています。

 前方から何やら異様な集団が歩いて来ます。
 幌馬車や荷車に荷物が一杯乗っていました。
 成人男性にしては背が低く横に広く、皆豊かな髭をたくわえておりました。
 鍛冶小人のドワーフたちでした。

「おい、お前達どこに行く? 武器街のドワーフだろう?」
「ああん?」
「誰だこいつ」
「ああ、ビオランテだビオランテ、馬鹿の伯爵に取り入ったクズ」

 そう言ってドワーフはビオランテを冷たい目で見て、行進を止めません。

「貴様っ!! 無礼だぞっ!! 次期領主の俺に向かってっ!!」
「うるせえ、伯爵は馬鹿で、お前はクズだ」
「おい、この者達を捕まえて首をはねろっ!! なんという口から出放題の罵詈雑言かっ、許しがたいっ!」
「はっ、い、いえビオランテさま、御領主様から武器街のドワーフは丁重に扱えとのお達しが」
「ああ? この俺が侮辱されたんだぞっ!! 次期当主のこの俺がっ!!」
「お怒りをお鎮めください、武器街はデズモンド領の稼ぎ頭です」

 ドワーフどもはそれを聞いてゲラゲラと笑った。

「騎士さんよう、かまわねえよ、もう武器街は無くなったからな、ドワーフは誰もいねえ」
「ガルフ殿、街長のあなたが、何を?」
「武器街のドワーフ全員の決定だ、マレンツさまを追い出すような馬鹿な伯爵の街には居られねえってさあ」
「な、なんだと、マレンツの奴め、ドワーフにも媚びを売っておったとは、嘆かわしい奴!」
「何言ってんだ、クズ、俺たちがマレンツさまに心酔してこの街に来たんだ。マレンツさまが追い出されたとあっちゃあ、ここに居る意味もねえよ」

 ビオランテは愕然としました。
 最近のデズモンド領の好景気は武器街から輸出される高品質の武器防具によるものが大きいのに気が付いたからです。

「ビオランテさま、不味いです、ドワーフどもは小さいながらも剛力な戦士ぞろい、この数では押し包まれて殺されかねません」
「よし、俺が引き留めておく、父上に来てもらってくれ」
「はっ!」

 騎士の一人が馬に拍車を入れて領城に早駆けして行きます。

「お前達は詐欺師のマレンツに騙されておるのだっ、今なら間に合う、街に戻れっ」
「ふざけんな小僧っ!」
「マレンツさんが居なくて反射炉のメンテナンスは誰がやるってんだっ!」
「反射炉? そんな物は、その、お前達で何とかできんのか?」
「できねえっ、大学から高い金を積んで技術者に来てもらわなきゃならねえっ、マレンツさんが居たから、俺らは反射炉を使い放題出来てたんでえっ」

――くそっ、マレンツめが、姑息な手でドワーフをてなづけおって!

 ビオランテはそう内心で毒づきました。

 ドワーフたちはビオランテを無視して街門に向けて隊列を動かしていきます。
 ビオランテは軍馬を歩かせ併走していきます。
 領民が家から出て、不安そうにドワーフの隊列(キャラバン)を見つめます。

「ドワーフたちが居なくなったら、この街の経済はどうなってしまうんだ」
「マレンツさまさえいらっしゃれば」

――まさか、マレンツは本当に有能だったのか? いや違う、あんな青びょうたんが有能なはずがない。

 デズモンド伯爵が軍馬にのってやってきました。

「どうした、これは何事だ、ビオランテ」
「はっ、その、ドワーフどもが武器街を放棄して街を出ていこうとしております」
「なにいっ!! 族長のガンツはどこだっ、説明しろっ!」

 伯爵がドワーフの群れに怒鳴ると、幌馬車の中から立派な髭を生やしたドワーフが現れました。

「おい、ガンツ!! これはどういう事だ、貴様はワシを裏切ると言うのか?! 返答しだいでは只ではおかんぞっ!!」
「うるせえっ、俺らはお前みたいな馬鹿伯爵に仕えていたわけじゃねえっ!! ぶっ殺すぞ田舎貴族めっ!!」
「なんだとーっ!! 貴様ーっ!!」
「あの素晴らしいマレンツさまを追い出したお前にワシらは呆れて物も言えねえんだっ! この領はもう終わりだから出て行くんだっ!!」
「りょ、領が終わるなぞと世迷い言をっ、あの攻撃魔法も覚えずに怪しい研究ばかりしていた出来損ないが何だと言うんだっ!! そうか、貴様ら、アルモンド侯爵にでも買収されたなっ、卑劣な奴らめっ!!」

 デズモンド伯爵は顔を真っ赤にして馬上からガンツに向かって怒鳴り散らします。

「うるせえっ、あちこちから買収の話はあったが、そうじゃねえ、俺らはマレンツさんの居る迷宮都市に向かうのよ。お前は領主失格だからな」
「くそっ!! マレンツめ、卑怯な手を使ってドワーフどもを懐柔しおったかっ!!」
「おい、馬鹿伯爵、おまえ本当にあの人の価値が解ってねえのか?」
「あいつは【着火】ティンダーしか使えぬ出来損ないだぞっ!!」
「あの人はなあ、領民みんなを笑顔にしようと頑張って、とんでもない成果を出した偉人だぞ、それをなんだ時代遅れの攻撃魔法が使えないだけで、そんなに馬鹿にしやがって、お前さんには愛想が尽きた、俺たちは出て行く!」

 デズモンド伯爵は軍馬の上で片手を上げました。
 全軍突撃の合図ですが、近くに居るのは騎士が五騎ほどです。

「おいっ!! 領城にもどり、軍を動かせ、謀反人どもの首を取るぞっ!!」
「おやめ下さい伯爵!!」
「な、なんだと? 騎士団長、何を言っている」
「おやめ下さい、たとえ魔法でドワーフを皆殺しにしても、領にとっては何の益もございませぬ。どうか、どうかっ」
「お前は何を言っているのだ、主君が卑しいドワーフに馬鹿にされているのだぞ、単騎で斬り込むのが騎士道では無いのかっ!!」
「おやめください、誰も、誰も喜びませんぞ」
「むううっ」

 デズモンド伯爵は歯ぎしりをした。

 こうして、ドワーフたちは領都を去っていった。
 武器街に残ったのは空の店舗と火の消えた鍛冶場だけだった。

 だが、伯爵はまだ知らない。
 デズモンド領の没落は、今、始まったばかりなのだ。
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