失恋模様

霧雨 紫貴

文字の大きさ
1 / 7

change

しおりを挟む
僕、「吉原 葵」(よしばら あお)は1人の少女に恋をしていた。
そのキッカケは、単純だった。
僕は昔から女顔とよく言われ女の子が欲しかったお母さんにとっては、好都合だった。
そのため、髪型はいつも少し女子っぽいボブにさせられた。
しかし、僕はそれが嫌で嫌で仕方なかった。
小・中と好きな女の子に告白するたびにキモいだのと罵倒されフられていたからである。
でも、彼女「三和 柚月」(みわ ゆづき)は違った。
僕と彼女は名前が近かったため席が隣だった。
彼女は、明るくて気さくな性格でクラスの男女問わず人気があったため、僕にも時折喋りかけてくれた。

「ねぇ、吉原君。」

「な…なに…?」

「葵君って呼んでいー?」

「べ…別にいいよ。」

「やった!」
「じゃあ、私のことも柚月でいーよっ(^ν^)」

「う…うん。」

「ところで、葵君ってさー。髪綺麗でサラサラだよね~。私なんてボサボサでさぁ((汗
シャンプー何使ってるの?!笑」

「別に…市販のやつだよ。」

「そーなんだぁ~。やっぱ、髪質の問題なのかな…?」 

などと、柚月は無邪気に笑いながら喋っていた。
そして、その数ヶ月後僕たちは付き合うことになった。なんでも、柚月が僕みたいな髪型の人がタイプだったらしい。
僕は、初めてこのコンプレックスを認めてもらえたようで嬉しかった。
だが、この幸せな時間はそう長くは続かなかった。
柚月はバイトで僕は、大学受験に向けての勉強。
お互いに、忙しくて一緒に居る時間も減っていった。
そして、とうとう…

「あのね…。大事な話があるの。聞いてくれる?」

「何?」

「………………………………………………………………………………別れ…よ…う。」

あまりに唐突な言葉だった。
柚月は、涙を浮かべながらそう言った。

「…………うん。」

これ以上何も言えなかった。
僕はその日、初めて失恋の痛みを知った。
ご飯をまともに食べることもできないし、誰かが面白い話をしてても笑えない。
ただただ、ベッドで泣くことしかできなかった。

三日三晩、トイレとお風呂以外は部屋の中。

「……もう。彼女のことなんて全て忘れてやる。」
少し怒り交じりにそう思った。

彼女との写真やペアストラップなどの思い出の物は、全て燃やした。
若干、やりすぎたと後悔してしまった。
が、過ぎたことは仕方ない。自業自得だ。
いっそのこと、柚月が褒めてくれたこの髪も切ってしまおうか。 
「そうだ。そうしよう。気分転換にもなるだろう。きっと。」

「葵ー。どこ行くの~?」

母が、反射的に問う。
しかし、母に床屋などと言うと止められるので

「コンビニ。」
と、適当に返事をした。

3日ぶりに出た外は心地よかった。
雨がシトシトと降っていたが今、気持ちが上がらない葵にとって、濡れるのはどうでも良かった。
15分ほど歩いた、町外れにあるその床屋さんはどこか懐かしい感じの温かそうな店だった。

チリリーン
「いらっしゃいませー!」と、威勢のいい店員の声が聞こえる。
日曜日の夕方だからなのか、人は全然いない。
すぐに、椅子に座らされる。

「お客様ー。どのような髪型にいたしましょう?」
その店にそぐわない、若い女の店員さんが言う。

「み…短くしてください。」
若干、緊張気味の葵は頬を赤く染めながら言った。

「わかりましたー!」

髪を霧吹きで濡らされたあと、ブラシで整えられいよいよカットだ。

シャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキシャキ…………………

髪を切る音以外沈黙が流れる。

シャキシャキシャキシャキ…
ザクッザクッ…
バサッッッ…

どんどん短くなっていく。
今、思えばいつぶりだろうかこんなに短くするのは。
家に帰ったらお母さんに怒られるだろうなぁ…
なんて、思いながら寝てしまった。

「……さまー。客さまー。…お客様ー!」
店員の声が聞こえる。

「はっ…。すいません。」

「いえいえー!お客様仕上がりましたよ!」
と、嬉しそうに語る彼女はどことなく柚月に少し似ていた。忘れるために切りに来たのにこれでは、意味がない。まぁ、仕方ないか…

鏡を見ると、今まで頑張れば結ぶことができるくらいあった髪は結べない長さにカットされ、目にかかってヘアピンで留めていた前髪も眉毛が見えそうなほど切られていた。
そして、代金を払って外に出た。
少し頭が軽くなったような気がした。

家に帰ると、案の定母に怒られた。

「葵っ…。どうしたの?!その髪型は?!?」

「切った。」

「なんで…!長いほうが可愛らしくて良かったのに…。」
お母さんは、残念そうに見てきたがもうめんどうなので、さっさと自分の部屋に入った。

ー翌日ー
教室に入ると、教室の中に居た人全員の視線が葵に向いた。
その理由は、明確だったもののクラスメイトの1人が駆け寄ってきて…
「葵!髪切ってる!前よりいいじゃん!」
と、意外な反応を示した。

「でも、なんで切っちゃったの~?」
と、不思議そうに問われたので。

「まぁ。なんとなくかな!」
と、明るく振舞って見せた。

しかし、元カノと同じクラスと言う状況は極めて深刻だった。
なぜなら、忘れようにも忘れられないからだ。

しかし、この時の僕が考えもしないようなことが数年後起こるのであった。

次回へ続く。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...