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既にBADENDしている世界から
1話-① 絶望と絶望[改稿済]
しおりを挟む[絶対]なんて俺達の世界には無い。
時折現れる、旅人が俺達以外の村や街の話をしてくれる。
どうして旅人が訪れるって?
こいつの故郷がもう無くなっちまってるからだ。
だから、旅人というより避難民に近い。
俺達は旅人の話に耳を傾け、魔族に恐怖する。
だが、何処か他人事の様な感覚で聞いていたんだろうな。
世の中には恐ろしい事があるものだ、我々は平和で良かったと。
「母さん! 飯はまだ?」
そんな事を言ってる少年は、本作の主人公のナウス。
彼が住む家はお世辞にも広いとも綺麗とも言えないが、それでも家族四人で楽しく暮らしていた。
父さんに、母さん、それと妹と俺の四人だ、たまに幼なじみのエイミーが、家に遊びに来て、母さんを手伝ってくれたり、妹と遊んだりしていく。
エイミーの家は父親と二人暮しだが、父親は出稼ぎの為、殆ど家に居ない。
見兼ねた母さんが、エイミーを家に呼んで、一緒にご飯を食べている。
「なんであんたは仕事もしないで、ダラダラしてるだけなのにお腹が減るんだい! ちょっとはお隣のエイミーちゃんを見習いな!」
「母さん。 他所はよそ、家はうちだぜ?」
「馬鹿な事言って無いでちょっとは仕事しな! とりあえず、お父さんがまだ仕事してると思うから、呼んできなさい!」
「面倒くさっ! 遠いじゃん」
バンッ、と言う、炸裂音と同時に、母さんの手にあった真っ赤なりんごが破裂した。
……
「って言う奴は最低だよね? ね母さん? 俺はそんな事言わない良い子だから、急いで父さんを呼んでくるね!」
目が笑っていない。 母さんから逃げるように外に飛び出したのであった。
(いやー母さんはどうしてあんな馬鹿力があるのに、力仕事を父さんがやってるんだよ。 絶対に逆でも良かった)
そんな事を思いながら、駆け足で父さんの居る畑の方に向かい始めた。
すると、前方から籠をもって楽しそうに歩いてくる2人組の少女達、というか妹とエイミーだ。
「おう、お前らきちんと働いているか? 俺も今は仕事中だ!」
俺は先程まで、ぐぅたらしていた事実が無かったかの様に、歩いて来たエイミーに話掛けた。
「仕事中? あ、畑に迎えに行ってるのね」
「ナウス兄ぃが今日もサボったから、エイミーと木の実をいっぱい取って来たんだよ!」
優しく、察してくれている幼馴染に対して、妹は毒舌だ。
「まて妹よ、兄はサボってない、思考労働をしていたんだ」
三度言うが、決してサボってゴロゴロしていた訳では無いと何処かの誰かにまで、わかる様に言う。
--だんだんと辺りが暗くなり始め、俺は畑に向かっている事を思い出す。
「お前ら、もう暗くなって来たから、帰りは気をつけろよ? すっころんだりするなよ」
妹が、すっ転んで籠をひっくり返す様は容易に想像が出来る。
だが、エイミーも意外とおっちょこちょいであり、け躓いて零しそうになる危ない場面を何度も見た事があるからの、忠告だ。
急いでその場を後にする俺に、元気いっぱいに返事をする妹と、優しく微笑んだエイミーをみた俺は、父を呼ぶ仕事を頑張れる気がした。
エイミーの笑顔に癒されて、張り切っている俺は、至極単純な思考だ。
だからだろう。 俺は明日からなら仕事が、頑張れそうな気がした。
ーー父さんの仕事場、つまりは畑だ。
後、少しで到着するするだろう。
父さんの畑は、西の森の近くにあり、そこを流れる川の近くに畑を作っている。
俺が駆け足で畑に向かっていると、道の真ん中辺りに'何か'が見えた。
(動物の死体か? かなり大きいが.........)
俺は駆け足をやめて、恐る恐る辺りを見渡しながら近づく。
万が一獣の死骸なら、肉食獣が辺りで見張っているかもしれない。
俺は、周囲を警戒しながら、その'何か'に近づく。
その'何か'の輪郭がはっきり見えてくる頃には俺は驚き慌てて駆け寄る。
「大丈夫ですか?!」
人であった。
この辺りじゃ珍しいが金貨の様に眩い輝きの髪に、そのスラッと伸びた手足は明らかに俺より年上だろう。
そして僅かに長い耳は人間のそれとは異なっていた。
'亜人'か? 俺達は禄に村から出た事がない為、旅人づてにしか、世界を知る方法が無い。
その中でも、'亜人'と呼ばれる人界に住む、人間と似て非なる存在の事だ。
亜人を、旅人達が見掛ける事は滅多に無いらしいが、それは亜人が人間を嫌っているからだと言う。
(だけどまぁ、このまま放って行く訳にもいかないか……)
何がどうなって、こんな所で倒れているかは分からないが、ひとまず俺は、担いで父さんの所に向かうーー
急いで父さんの畑まで走ると、父さんは丁度に仕事が終わったのか、片付けを始めていた。
「父さん! この人が道に倒れてたんだ!」
突然の事に父さんは驚いていたが、俺が女性を担いでいたのが見えたのか、直ぐに荷台を空けてくれた。
俺と父さんは女性を荷台に下ろして、簡単に事情を伝えた。
結果として、女性が相手という事もあり、家で待っている女性陣に任せる方が、荷台で横たわっている彼女も安心出来るだろう、という事になった。
道中は乗り心地があまり良く無いであろう荷台を、俺がなるべく丁寧に押して、事情を説明しに、父さんが一足早く家に向かった。
家に着くなり、慌ただしくなったが、母さんが意外にも冷静であり、彼女を丁寧に床へ運んで、容態を見てくれた。
我が家は狭いが、俺だけ個室を貰っていた。
何故かと言えば、男子の諸君は理解してくれるだろう。
年齢が十七になる血気盛んな年頃少年が、五つも離れた妹や、両親と同じ寝室で寝る事が難しい事を。
だが、只でさえ狭い家なのだから、部屋と言っても殆ど物置だ。
しかし、それは俺にとっては、どうでも良い事であり、横になれれば十二分に満足出来るのだ。
それでも、今回の場合は発見したのも、連れて来たのも俺な訳であり、半ばその責任をとる形で、俺の部屋を病棟代わりに使っている。
「ナウス兄ぃ。 あの人、大丈夫かな……」
俺達、家族の中で彼女を一番心配したのは妹であった。
突然訪れた非日常は、幼い妹にとっては不安しかないのだろう。
それに……
「あれが'亜人'なのかい? 母さん初めて見たよ」
亜人。 妹を不安にさせる要素なのだろう。
まだ、本人から聞いた訳では無かったが、旅人から聞いた特徴と一部が合致している。
耳が長い事だ。 発見した時にも気が付いたが、やはり俺達の誰よりも長く感じる。
それに、ここに居る誰よりも肌が白い。
肌に関しては倒れていた事で、体調が悪いだけかも知れないが、十中八九で彼女が人間では無いのは間違えないだろう。
「まぁ、大きな怪我も無かったし、これといった外傷も無さそうだね。 とりあえずアンタの部屋で今日はゆっくり寝かせてやりな」
この言葉のお陰で、俺を含め話を聞いていた妹も安堵した。
「もう夜も遅いし、アンタらも寝る準備しな」
確かに外は既に真っ暗であり、妹も疲れている様子で、既に眠たそうだ。
それじゃあと言わんばかりで、俺も寝ようとするが……
「あれ、俺って今日は一体どこで、寝れば良いんだ?」
「あんたは、外の納屋で寝な」
ーー何と言う酷い'仕打ち'だろうか、今日の俺は午後からではあるが、勤勉に働き、人命救助もした訳であり、英雄視され尊敬されるべき存在であるのにも関わらず、納屋って! そりゃ無いぜ。
全く、息子を何だと思っているんだ。
父さん、いやあのクソ親父とでも呼ぼう。
息子の事を変出者扱いしやがって、俺が何かするとでも思ったのか?!
確かに、髪も眩い輝きを放っていて、艶やかでサラサラとして綺麗だったし、目鼻も整っていて、寝顔も綺麗だった。
それに、胸だって担いだ時に気づいたが、エイミーよりも少し大きい気がした。
(まぁ、エイミーの胸を触った事は無いけど)
ゴホンッ、まぁ総評しよう。
外見的にはエイミーに勝らぬとも劣らない、これは事実として、胸は彼女の方が勝っていた。
だが、中身はどうだ? エイミーの微笑みに比べれば、あんな所で倒れていた彼女は碌な女じゃ無いはずだ!
そうだ、そうに決まっている。
エイミーより、ちょっとばっかし大人びているから、勘違いしただけだ。
エイミーもあと数年すれば、あれくらいのいい感じに育つはずだ。
普段の俺なら、こんな事は考え無かったはずだが、さっきの家での発言で俺は少しだけ、エイミーを意識してしまったのだったーー
「外が嫌なら、家に泊まってく?」
そんな事を言い出したのはエイミーだった。
「いや、え、まぁ」
俺が突然の事に戸惑っていると、父さんと母さんがニヤニヤしながら、こちらを見ている。
(これが狙いだったのか)
日頃から、父さんと母さんはエイミーとの関係を妙に気にしてくるが、何となく理由もわかる。
(面倒見も良いし、仕事も積極的にやってくれる、それに料理も上手い。 後、可愛い)
あ、やっぱり今のは無しで!
「確かに、俺が家に連れて来た『責任』があるからして、誠に遺憾ではあるが、この俺が責任を取るために納屋で寝るよ」
(というか、エイミーの家に泊まるのはぶっちゃけ恥ずかしい)
少し残念そうにしているエイミーを横目に、精一杯の見栄を張り、照れている事を全力で隠す為、そそくさと納屋へ向かうーー
俺は、納屋に着いてから、横になり、しばらく家の方を眺めていた。
俺が家を出た後は、母さんと父さんは妹を連れて寝室に向かったのだろう。
エイミーが家から出て来たと思えば、寝室の灯りが灯ったからだ。
エイミーは家から出て行き、自分の家の方へ向かって行く。
(あ、会いには来てくれないのね……)
俺はボロい納屋の屋根の隙間から見える夜空を見ながら、眠りにつく。
ゴソゴソ
ん? 妙な音が聞こえた。
いや、思春期の男の子の部屋ではありがちの音ではあるが、ここは外だ。
俺は音の正体を探るべく、ゆっくりと目を開ける。
エイミーが俺の納屋に訪れてきた。
「あれ? エイミーじゃないか、家に帰ったんじゃないのか?」
「冷えたら良くないからね。 毛布持って来たよ」
そういうと、寝ていた俺に優しく毛布を掛けてくれた。
「ねぇ、私が来て嬉しかった? それとも毛布だけで良かった?」
俺は恐らく顔が真っ赤になったかもしれない、照れくさそうにそっぽを向く。
クスクスと笑うエイミーは、そのまま俺の隣に寝転ぶ。
俺とエイミーは、無造作にかき集められた藁の上で、横になっているが、別に寝心地が言い訳でも無い、むしろチクチクして痛い。
「あの人大丈夫かな?」
あの人って言うのは今日倒れていた金髪の彼女の事だろう。
「まぁ、母さんは大丈夫みたいな子と言ってたけどな」
「そうだね、でも、このまま目が覚めなかったらどうしようって思ったの」
俺は黙ったまま話を聞く。
「なんだか、この辺りも最近じゃ物騒みたいじゃない? だからね。 私はやりたい事を見つけたの」
何の脈絡も無く、突然エイミーは将来に関して話始めた。
「やりたい事?」
「うん。 私ね、お医者様になりたいの」
俺は初めてエイミーの将来の話を聞いた。
「私のお母さんの事は知ってるよね?」
「あぁ、数年前だったな、確か俺たちが丁度十歳になった時だったよな」
「うん。 本当に突然の事だったの、それまでは普通に暮らしていたのに……」
エイミーの口調は、決して落ち込んでいる訳でも無く、元気な訳でも無く、至って真剣な語りだ。
「あの時はお父さんも、私も本当に慌てていたの。 それで街に行って、お医者様に診てもらったの。 馬車の中で、私は何日も掛けて街に向かうのが怖かったの。 もしも、途中でお母さんに何かあったらって思うとね」
「だから医者になりたいのか?」
「うん! もしもこの村で何かあった時も私が何とかする! って思ってるしさ」
(それじゃあ、来年辺りにこの村を出るって事か……)
「親父さんの所に行くのか?」
エイミーの父親は少し特殊であり、普段はこの村に居ない。
「そうだね。 魔道学院に行けば治癒魔法なんかも身に付いたりするかもね」
「そうか」
俺は呆然としながら、ポツリと返事をした。
「だからね? 来年私達が成人したら、一緒に行かない?」
「え、魔道学院に?」
いや、それよりも俺は、置いてかれる寂しさで、つい、不貞腐れていたが、確かにその手があった。
(それに成人さえすれば、俺もエイミーも村を自由に出る事が出来るんだ)
俺達の村では、法律や厳守しなければいけないルールって言う訳では無いが、余っ程の事が無ければ子供は村から出れない慣例があった。
そんな事を考えながら、エイミー顔をふと見ると、顔を真っ赤にしながらエイミーは起き上がっていた。
「そ、それじゃ、考えておいてね? もう眠くなって来たからもどるね」
俺が声を掛ける隙もなく、そそくさとエイミーは自分の家に向かって行く。
考えておいてとは言われたものの、答えは決まっていた。
(そうと決まれば、しっかり俺の両親から許しが貰える様に明日から頑張るか)
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