婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます！

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「セルフィーナ・エルフレッド。貴女との婚約は、これをもって破棄する。」

王城の舞踏会の真っ最中、クラヴィスの突然の声がホール全体に響き渡った。

「な……なにを仰っているのですか、クラヴィス様！」

周囲の貴族たちがざわめき、音楽が止まる。  
セルフィーナの胸は一気に締め付けられ、息が詰まるようだった。

「言葉通りだ。これ以上、君との婚約を続けるわけにはいかない。」

あまりに冷たい口調。  
セルフィーナは周囲の視線を感じながら、必死で取り繕おうとする。

「そ、そんな……いったい何がいけなかったと……？」

息苦しさに耐えながら問いかけるも、クラヴィスはまるで感情を見せない。

「これまでの君の態度や行いは、あまりにわがまま過ぎる。公爵令嬢としての品位を逸脱していると、王城内でも評判なんだよ。正直、これ以上耐えられない。」

静まり返ったホールにはクラヴィスの言葉だけが突き刺さる。  
その場にいた貴族の婦人たちが、口元を覆いながらくすくすと笑うのが聞こえた。

「そ、そんな……」

セルフィーナは言い返そうと口を開く。  
だが、声が震え、どんな言葉を選べばいいのか分からない。

「これで終わりだ。」

クラヴィスは一方的に言い放つと、踵を返して去っていく。  
まるでその背中は、もう二度と振り返る気がないかのようだった。

「待って……クラヴィス様、待ってくださいっ！」

必死に呼びかけるセルフィーナの声も、虚しく大広間に吸い込まれていく。  
誰一人、彼女を助けようとはしない。

「……嘘、でしょう……」

ドレスの裾を握りしめ、体の震えをどうしようもなく感じる。  
周囲の視線は好奇の色を含んでいて、心をズタズタに切り裂くようだった。

「セルフィーナ様、落ち着いて……」

慌てて駆け寄ってきた侍女の声も、彼女の耳には届かない。  
つい先ほどまで「未来の王城の花嫁」と持ち上げられていた自分が、今やすべてを失ったのだ。

「婚約破棄……そんなの……どうして……」

頭が真っ白になる。  
これまで当然のように約束されていた地位、栄誉、そして愛……。  
それらが一瞬にして砕け散った感覚に、立っているのがやっとだった。

「……私、どうすれば……」

言葉にならない動揺を胸に抱えたまま、セルフィーナはうつむいて動けない。  
王宮の衛兵に促されるように、舞踏会を後にするしかなかった。

「……終わり……なの……？」

広すぎる廊下を歩く足取りは重い。  
薄暗い夜の帳が落ちかけた王城の外で、セルフィーナはようやく涙をこぼした。  
かつてあれほど誇りに思っていた“貴族の誇り”が、今はあまりにも虚しい。

「どうして……あんなに突然……」

泣きながら問いかけても、答えてくれる人はもういない。  
こうして彼女の人生は大きく変わってしまうのだと、まだ信じられない気持ちのまま、夜の風にあてられて立ち尽くすしかなかった。