婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます!

如月みつき

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「聞いた? クラヴィス様がセルフィーナ様の婚約を破棄したんですって。」

翌朝、王城で囁かれる噂話がセルフィーナの耳にも嫌でも飛び込んでくる。

「やっぱりね。あんな性格の悪いお嬢様、長く続くはずないわ。」

まるで待ってましたとばかりに、貴族令嬢たちは口々に笑う。  
社交界の廊下を歩くセルフィーナは、心臓が刺されるような痛みを感じた。

「……っ!」

言い返したい気持ちはある。  
だが、どこか先日の屈辱の光景がよみがえり、声が出ない。

「まあ、公爵家の令嬢にしては、育ちが悪かったわよねぇ。」

抑えきれない憤りで胸がいっぱいになる。  
しかし、そんな中でもクラヴィスの言葉が脳裏をかすめる。

「私の……わがままが……」

多くの使用人を振り回し、自分の思い通りにならなければ不機嫌になる日々。  
クラヴィスが耐えられないと言った理由の一端が、今さら少しだけわかってしまう。

「だからって、こんな風に噂されて……!」

悔しくて、歩く先の壁を手で軽く叩いてしまう。  
周囲は見て見ぬふりをしながらも、どこか嘲笑混じりの視線を向けてくる。

「セルフィーナ様……」

小さな声で呼びかけたのは、付き添いの侍女だった。  
彼女だけは心配そうに寄り添ってくれるが、力になれるわけでもない。

「……いいの。大丈夫だから。」

そう言いながら、セルフィーナの声は震えている。  
何が大丈夫なのか、自分でもわからないままだ。

「当のクラヴィス様も、もう婚約破棄の手続きを進められているとか。」

廊下を横切る別の貴族がそう話すのを聞き、セルフィーナはその場から逃げるように駆け出した。

「……私、こんな風に言われ続けるの?」

胸が苦しくて、息ができない。  
かつては自分が周りを見下していたのかもしれないが、今はその立場が一気に逆転している。

「……家に帰りたい。」

ようやく馬車に乗り込むと、セルフィーナは窓を閉めた。  
外の視線から守られたい。ただそれだけだった。

「お父様なら、何か言ってくれるわよね……」

そう願いながら、揺れる馬車の中で唇を噛み締める。  
だけど胸の奥には、嫌な予感が芽生えていた。  
父が自分に失望する姿が目に浮かぶからだ。

「私、どうするの……」

これまで“何でも思い通り”だった人生。  
しかし、今や周囲の全てが敵に回ったようにさえ感じる。  
このままでは、自分の居場所などどこにもないと思えてきた。
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