婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます!

如月みつき

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「お店、そこそこ順調に回り始めたじゃない。」

エリザが店の端で雑貨を整理しながら声をかける。  
開店から数日、初めは冷やかしのような客も多かったが、少しずつ評判が広がってきたようだ。

「本当に……ありがたいわ。まだ少ないけど、お客さんが『かわいい服ね』って言ってくれるの。」

服の在庫は決して多くはない。  
セルフィーナが試行錯誤して作った簡単なワンピースや、リメイクした小物などが中心だ。  
それでも気に入って買っていってくれる人がいるのが、何より嬉しい。

「お客さんが喜んでくれると、こんなに幸せを感じるんだ……」

店が閉まった後、セルフィーナはレジ袋をまとめながらしみじみと呟く。  
自分が縫った服を誰かが着てくれる。そして褒めてもらえる。  
その瞬間に味わう充実感が、心を満たしていく。

「昔は私、自分が着飾ることばかりに興味があったけど……今は人に喜んでもらうほうがずっと嬉しい。」

そう言葉にすると、エリザは微笑んだ。

「人生ってわからないものね。貴族だったころのあなたからは想像できないけど、今のほうがずっとキラキラしてるわ。」

セルフィーナも笑いながら、

「そうかもね。辛かったけど……こうして少しずつだけど、自分の力で生きてるって感じられるから。」

閉店後、二人で店内を簡単に掃除してから帰るのが日課になっている。  
暗くなった下町の街灯が、以前よりも温かく見えるのは、自分の心が変わったからかもしれない。

「一人の幸せって、こういうことだったんだな……」

大きな屋敷に住み、使用人に囲まれ、何不自由なく暮らしていた頃。  
あのときは“幸せ”だったはずなのに、その意味を本当に理解していたとは言えない気がする。

「今日もお疲れさま、セルフィーナ。」

エリザと別れ、家路につく。  
狭い下宿先に帰る道中、街の風が心地よい。  
思わず足を止めて空を見上げると、星がきらきらと輝いていた。

「私の命はそんなに大きなものじゃないけど……今は、この店が私のすべてだわ。」

店を立ち上げるまでに費やした苦労や、支えてくれた人々の笑顔を思い返すと、自分は一人ではないとも感じられる。  
けれど、一番大きいのは、自分自身が変わろうと決意したことだ。

「もっと頑張ろう。お客さんに喜んでもらえる服を、たくさん作りたい。」

そう小さくつぶやくと、夜風がさらりと頬を撫でた。  
ひとりぼっちだったころの孤独を思い出すが、もうあのときと同じではない。  
新しい幸せを掴もうと、自分で行動している今が確かにある。

「明日もまた、頑張ろう。」

そう心の中で誓いながら、セルフィーナは静かな夜道を一歩一歩進んでいった。
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