婚約破棄されたので悪役令嬢辞めます!

如月みつき

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「ケンカしたままって、気分悪いでしょ。早く仲直りすればいいのに。」

翌日、エリザは気遣わしげにセルフィーナへ声をかける。  
リアンとの口論を見ていた彼女には、大体の事情がわかっているようだ。

「分かってるけど……なんか素直に謝れないのよ。あの人もいちいち態度がむかつくし……」

そう言いながら、セルフィーナはちくちくと針仕事をこなす。  
しかし集中できない。気が散って針に指を刺してしまい、思わず声を上げる。

「痛っ……もう、どうして私、こんなにイライラしてるんだろう。」

エリザは苦笑しながら布を渡してくる。

「それは、好きだからよ。」

思わぬ直球に、セルフィーナは針を落としそうになる。

「す、好きって……そんなわけないわ。」

必死に否定しようとするが、胸の奥はざわめきっぱなし。  
リアンのぶっきらぼうな優しさを思い返すと、どうしても嫌いになれないのだ。

「ケンカになるのも、お互い大事に思ってるからでしょ。気にならない相手だったら、あんなにぶつかったりしないわ。」

エリザの言葉に、セルフィーナは何も言い返せなくなる。  
自分でも薄々感じている。本当にどうでもいい相手なら、あれほど感情的にならないはずだ。

「……でも、あんな素行がよく分からない人、近づいたら危ないんじゃないかって不安もあって。」

エリザは大きく首を振る。

「どんな人だって、表だけじゃ判断できないわ。あなたも悪役令嬢なんて言われてたけど、今こんなに頑張ってるじゃない。リアンだって同じよ。」

そう言われて、セルフィーナの中で何かが腑に落ちる気がした。  
確かに、自分の過去の一面だけ見られて敬遠されるのは悲しかった。  
同じようにリアンにも何か事情があるのかもしれない。

「そう……だよね。私、ちゃんと話をしたことがないのに決めつけてたのかもしれない。」

エリザは微笑んでうなずく。

「きっと、ケンカの原因もそこにあるんじゃない? お互い、気持ちを隠しているからぶつかるのよ。」

セルフィーナは針仕事を再開しながら、心の中で考える。  
リアンとちゃんと本音をぶつけて話してみたい。  
だけど、どう言葉を選べばいいのか分からない。

「……会って話す機会、あるかしら。」

そう呟くと、エリザは肩をすくめて答える。

「リアンは結構この辺をうろついてるみたいだし、そのうち顔を出すんじゃない? あなたが素直になれば、案外すぐに仲直りできるはずよ。」

その言葉にセルフィーナは小さく頷く。  
自分の本音を探るためにも、リアンの本心を知るためにも、きちんと向き合わなきゃいけない。  
それが今の彼女にとって、ケンカの先に進む唯一の道だった。
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