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Epilogue
しおりを挟む彼女が遺した手紙を読み終え、僕は震える心を落ち着けるように息を吐き出した。
この手紙を受け取ってから数十年が経ち、僕はそれなりに有名な画家として海外で成功をおさめた。
彼女に会わなかったあの二日間、僕は彼女を驚かせようと大きなキャンバスに絵を描いた。
しかしそれは彼女の目に映ることはなく、僕が病室に着いた頃には彼女は息絶えていた。
彼女の家族に出会ったのも、その日だった気がする。
あの頃僕が彼女に渡した絵は彼女と共に天国へ逝った。
今日は今まで描いてきた絵の展覧会。
漸く僕は有名な画家たちに近付くことが出来たのだ。
大勢の絵画の評論家たちが幾つも並べられた僕の絵を見ては話し合っている。
その中でも特に彼らが称賛してくれたのは彼女の絵だった。
目の前にある大きな額縁を見つめる。
真っ白なシーツの上で微笑を浮かべる彼女。
その手の中には僕があげた絵が何枚も大事そうに抱き締められている。
死んでいるとは思えないほど穏やかな顔をして彼女は最期を迎えたのだろう。
絵を見て感嘆の溜め息を漏らした評論家たちは、下に書かれた題に誰もが皆驚く。
‘最期の微笑み’
清らかで儚く、他人よりもずっと早くに散ってしまった彼女の命。
その最期の美しさをどうしても残しておきたかった。
「先生」
評論家の一人が声をかけてくる。
「あの絵は大変素晴らしい作品ですね。彼女はまるで天使のようです。先生は彼女と一体どのような御関係だったのですか?」
関係。それは言葉で表すにはとても難しい気がした。
友人というには彼女への僕の想いは強かったし、恋人とは言えないあの頃の関係は恐らくこの先もずっと言葉にすることはできないだろう。
「そうですね。しいて言うなら、彼女は僕の絵の初めてのファンで……僕の想い人でもあります」
そっと懐に仕舞った手紙は僕の大切な宝物。
天国へ僕の絵を持っていった彼女と同様に、僕もこの手紙を天国へ持って行こう。
そうして、いつの日にか、向こうで出会うことができたその時に、僕の人生を土産話として聞かせてあげられたらと願う。
「僕は今でも、彼女に恋をしているんですよ。」
彼女が僕のために拾ってくれた小さな貝殻は、ネックレスになって僕の夢を支え続けている。
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