ヘルメースの遺児

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刑事 小林の〔お目覚め〕

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 私は休憩室を出て、やや薄暗い廊下を進む。節電のため廊下の照明は間引きされている。パンプスの足音か静かな廊下に響く。《宿直室》と表記された部屋の前まで来たとき、私はドアをノックした。乾いた音が数回したが中からは返事が無い。
(まさか・・熟睡してるの?)
 私は軽く嫌な予感がして
「小林さん!片倉です!入りますよ!」
 やや強めに中の人に声をかけるとドアを開けた。嫌な予感は的中し、〔あの男〕は寝息を立てていた。私は簡易ベッドの側に行くと、寝ている男の肩を揺する。
「小林さん!起きて下さい!休憩時間は終わりですよ!」
 軽く揺すっても、起きる気配は無い。
(返事がない。ただの屍のようだ)
「・・そんなわけない!!起きろぉ!こ・ば・や・しぃ!」
 私は小林と呼んだ男の頬をはたく。
「くっ!50%の力ではダメか?ならば限界突破の120%の力で!」
 私は拳を握り締めると、渾身のストレートをぶち込むべく構えながら
「こ・ば・や・し~!歯ぁ食いしばれー!」
 殺気を感じたのか、
「待て!片倉!今、起きるよ!」
 揺すっても起きない男が声を上げた。私は握った拳の緊張を解く。その様子を見て取った男は
「・・お前・・まさか、殴るつもりだったのか?」
 私は悪びれず答える。
「あなたを起こすには『これ』しかないと思って・・」
 男は呆れたように口を開く。
「今どき拳で人を起こす奴はいない。昔の軍隊じゃないんだから!」
 男は枕元に無造作に放り投げていた上着を羽織る。そしてややふらつきながら歩き出し、ドアノブに手を掛けた。私は咄嗟に
「黒崎さんが呼んでますよ!物凄い剣幕でした」
 男は振り返り
「目覚めのコーヒー飲んでからにするよ」
 私は男を睨みつけると、男は溜め息をつき
「てなわけにはいかないよな」
 私は
「私もご一緒します。一人では心細いでしょうから」
 とまるで保護者気取りで言った。
 男は返事の代わりに私を一瞥するとドアを開け出て行った。私も後を追った。
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