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【第1章】婚約・結婚式編
22話 師匠と弟子
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アンドレアに対して、キースはとても気を許しているようだった。キースは作中、ヒロインであるアリシアに自分のことを打ち明けるうちの一環として、師匠であるアンドレアの存在を語る。剣の師匠で、幼い頃に稽古をつけてくれた人。父親が不安定だった彼にとっては父親代わりともいえるような存在だったのだ。
「剣術を?」
「おう、そうだぜ。俺はあちこちフラフラしてんだけどよ、むかーし一時期ここにいたんだ」
坊主に剣術教えたのもその時だ、とアンドレアは懐かしそうに語る。もう十年近くも前のことだという。アンドレアとキースの出会いは、キースにまだ両親とも揃っていた頃のことだ。
「コイツの親父に拾われたんだよ、俺は」
前公爵、キースの父親。妻を亡くして不安定になり、キースの孤立の原因を作った人。キースの母親が生きていた頃、前公爵は人格者として有名だった。それが急におかしくなってしまったというのも、ローゼンブルク家が社交界から遠ざけられたきっかけのひとつだ。悪魔が憑いたとか、魔物にやられて精神をおかしくしたんだとか、そんな噂が流れた。この世界では科学がそこまで発展していない分、宗教やスピリチュアル的なことが一定の力を持っている。
「アンドレアは以前、帝国騎士団にいたんだ」
「よせよ、昔のことだ」
帝国騎士団。それは王族直属の軍隊で、集められた貴族子女のなかでも特に優れた才能を持つものだけが選ばれる、名誉ある隊。アンドレアはそこに所属し、良い成績を収める優秀な剣士で、そのまま行けばソードマスターや騎士団長だって狙える位置にいたのだが、権力闘争を好まないのと自由な性質のために追い出され、あちこちをフラフラ彷徨っていた、という設定だ。ここまでのことを、リディアはすべて知っていた。
「……アンドレア様」
「アンドレアでいい」
「……アンドレア。それで今は、何を?」
ただし、リディアが知っているのはそこまで。彼女が作者としてアンドレアにつけた設定は彼の過去と、キースの師匠だということ、そして既に死んでいるということだけだ。キースの師匠としてローゼンブルク家にいた彼がどうしてそこを出て、今は何をしているのか。それに関してはまったく物語の外の出来事だった。
「今はまあ、フラフラしながらあちこち回って……って感じだな」
そもそも一か所に留まること自体が性に合わないのだとアンドレアは続けた。ここ、ローゼンブルク家にいた時間もそんなには長くなかったようだ。
「今も旅の途中で立ち寄ったついでにコイツの顔見てやろうと思って来たわけよ」
この世界にそういう呼び方があるかはわからないが、どうやらアンドレアは冒険者に近いような生き方をしているらしい。あちこちで魔物を討伐したり、困りごとを助けるような形で生計を立てているのだとキースが補足した。
「俺とエドも、少し同行したことがあるんだ」
「まだコイツらはガキだったから見てただけだけどな」
そんな話をしていると、遠くからバタバタ足音がして、部屋の扉がバーンと大きく開け放たれた。
「団長! ちょっと——」
「アンドレア!」
飛び込んできたのは嬉しそうに満面の笑みを浮かべるエドだった。疲れた表情のジークがそれに引きずられるようにして続く。
「おー、久々だなあ」
「来るなら連絡してよ!」
「急なことだったんだよ」
心なしか幼い言葉遣いのエドは、表情までも子どものようになっている。きっとキースと一緒にアンドレアに可愛がられてきたのだろう。主人を出迎える犬のように尻尾を振るエドに、ジークはため息を吐き頭を抱え、「申し訳ありません」とキースとリディアに謝ってくる。
「すごく仲がいいのね」
リディアがそうキースに耳打ちすると、キースは「コイツはものすごくアンドレアに懐いていたからな……」と呆れ顔で答えた。もしかすると、エドの振る舞いや言葉遣いのうちいくつかは、アンドレアをロールモデルとしたものなのかもしれないな、とリディアは考えた。こうして見ると、キースとエドは本当に、兄弟同然に育ってきたようだ。
「今回はいつここを発つんだ?」
「お? ああ、別に細かく決めてるわけじゃねえけど、そんなに長居は——」
「しばらくいたらいいじゃん。なあ、キース」
結婚式もあるし、とエドはキースの方を振り返る。キースは彼の期待で満ちた視線に、頷かざるを得なかった。
「ああ、まあ……」
「ええ、そうよ。式にも出てもらいましょう、ね?」
リディアもそれに加勢する。このままだといつアンドレアが死ぬかわからないのだ。運命が本当に変えられるかわからないとはいえ、無関係な、生きた人間をこれ以上物語なんかの都合で死なせることは避けたい。彼にはまだここにいてもらい、その間に少しでも死の確率を避けられるよう策を立てる必要がある。それには結婚式はピッタリの口実だった。
「しゃーねえなあ、久々に稽古つけてやるか!」
アンドレアはどこか嬉しそうにそう言って、キースとエドの頭を乱暴に撫でた。
「剣術を?」
「おう、そうだぜ。俺はあちこちフラフラしてんだけどよ、むかーし一時期ここにいたんだ」
坊主に剣術教えたのもその時だ、とアンドレアは懐かしそうに語る。もう十年近くも前のことだという。アンドレアとキースの出会いは、キースにまだ両親とも揃っていた頃のことだ。
「コイツの親父に拾われたんだよ、俺は」
前公爵、キースの父親。妻を亡くして不安定になり、キースの孤立の原因を作った人。キースの母親が生きていた頃、前公爵は人格者として有名だった。それが急におかしくなってしまったというのも、ローゼンブルク家が社交界から遠ざけられたきっかけのひとつだ。悪魔が憑いたとか、魔物にやられて精神をおかしくしたんだとか、そんな噂が流れた。この世界では科学がそこまで発展していない分、宗教やスピリチュアル的なことが一定の力を持っている。
「アンドレアは以前、帝国騎士団にいたんだ」
「よせよ、昔のことだ」
帝国騎士団。それは王族直属の軍隊で、集められた貴族子女のなかでも特に優れた才能を持つものだけが選ばれる、名誉ある隊。アンドレアはそこに所属し、良い成績を収める優秀な剣士で、そのまま行けばソードマスターや騎士団長だって狙える位置にいたのだが、権力闘争を好まないのと自由な性質のために追い出され、あちこちをフラフラ彷徨っていた、という設定だ。ここまでのことを、リディアはすべて知っていた。
「……アンドレア様」
「アンドレアでいい」
「……アンドレア。それで今は、何を?」
ただし、リディアが知っているのはそこまで。彼女が作者としてアンドレアにつけた設定は彼の過去と、キースの師匠だということ、そして既に死んでいるということだけだ。キースの師匠としてローゼンブルク家にいた彼がどうしてそこを出て、今は何をしているのか。それに関してはまったく物語の外の出来事だった。
「今はまあ、フラフラしながらあちこち回って……って感じだな」
そもそも一か所に留まること自体が性に合わないのだとアンドレアは続けた。ここ、ローゼンブルク家にいた時間もそんなには長くなかったようだ。
「今も旅の途中で立ち寄ったついでにコイツの顔見てやろうと思って来たわけよ」
この世界にそういう呼び方があるかはわからないが、どうやらアンドレアは冒険者に近いような生き方をしているらしい。あちこちで魔物を討伐したり、困りごとを助けるような形で生計を立てているのだとキースが補足した。
「俺とエドも、少し同行したことがあるんだ」
「まだコイツらはガキだったから見てただけだけどな」
そんな話をしていると、遠くからバタバタ足音がして、部屋の扉がバーンと大きく開け放たれた。
「団長! ちょっと——」
「アンドレア!」
飛び込んできたのは嬉しそうに満面の笑みを浮かべるエドだった。疲れた表情のジークがそれに引きずられるようにして続く。
「おー、久々だなあ」
「来るなら連絡してよ!」
「急なことだったんだよ」
心なしか幼い言葉遣いのエドは、表情までも子どものようになっている。きっとキースと一緒にアンドレアに可愛がられてきたのだろう。主人を出迎える犬のように尻尾を振るエドに、ジークはため息を吐き頭を抱え、「申し訳ありません」とキースとリディアに謝ってくる。
「すごく仲がいいのね」
リディアがそうキースに耳打ちすると、キースは「コイツはものすごくアンドレアに懐いていたからな……」と呆れ顔で答えた。もしかすると、エドの振る舞いや言葉遣いのうちいくつかは、アンドレアをロールモデルとしたものなのかもしれないな、とリディアは考えた。こうして見ると、キースとエドは本当に、兄弟同然に育ってきたようだ。
「今回はいつここを発つんだ?」
「お? ああ、別に細かく決めてるわけじゃねえけど、そんなに長居は——」
「しばらくいたらいいじゃん。なあ、キース」
結婚式もあるし、とエドはキースの方を振り返る。キースは彼の期待で満ちた視線に、頷かざるを得なかった。
「ああ、まあ……」
「ええ、そうよ。式にも出てもらいましょう、ね?」
リディアもそれに加勢する。このままだといつアンドレアが死ぬかわからないのだ。運命が本当に変えられるかわからないとはいえ、無関係な、生きた人間をこれ以上物語なんかの都合で死なせることは避けたい。彼にはまだここにいてもらい、その間に少しでも死の確率を避けられるよう策を立てる必要がある。それには結婚式はピッタリの口実だった。
「しゃーねえなあ、久々に稽古つけてやるか!」
アンドレアはどこか嬉しそうにそう言って、キースとエドの頭を乱暴に撫でた。
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