公爵夫人は命がけ!

保谷なのめ

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【第1章】婚約・結婚式編

30話 悩みとアドバイス

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「そりゃあやりすぎたな、坊主」
「う……やっぱりそうか……」

 がはは、と豪快に笑ったアンドレアは、体を縮こまらせたキースの頭をかき回す。ここはエドが不在の間、実質的に騎士団長の代理を務めているアンドレアが滞在する騎士団団員達の住まいだ。全員がここに暮らしているわけではないが、夜間の警備を担当するものや、希望するものはここで暮らすことができる。

「お前はまず、自分が怖がられるような顔してるってことを自覚しねえとダメだな」
「怖……そうだろうか……」

 キースは普段、騎士団の運営をほとんどジークとエドに任せているので、事務室や練習場に顔を出すことはほとんどない。そんな彼が珍しく様子を見に、とやってきたのを見て、アンドレアが自室に連れ出したのだ。
 元気のないように見えたキースに「どうした」と尋ねると、どうやらリディアに避けられているらしい。数日前、一緒に初めてダンスの練習をして以来、忙しいからと練習は何度も延期され、朝晩一緒にとっていた食事の場にも来ないと言う。それで一体その練習で何があったのかを聞いてみたというわけだ。

「そうそう。いっつも無表情でこええんだよ。ちょっとは笑っとかねーと、ほら」

 きゅ、と口の端を持ち上げてくるアンドレアの手をキースは「やめろ」と払いのけた。 

「お前はほんっとに人と関わんのが下手だよなあ。すーぐ誤解される」
「し、仕方ないだろう、慣れていないんだから……」

 キースは確かに、これまで関わってきた相手が極端に少ない。大体がこの家の従者か、そうでなければアンドレアやエドくらいのものだ。そんな中で急に現れたリディアという存在に驚いているのだろう。聞いた話によれば、元は形だけの結婚となる予定だったらしい。とにかく誰でもいいから、体裁として公爵夫人となる人間を見つけないといけない。家柄は大きすぎず小さすぎず、年も離れすぎていない、未婚の令嬢となるとなかなか良い相手はおらず、そんななかで見つかったのがリディアだった、とアンドレアは馴染みの執事のウィリアムから聞かされている。

「……で、どうすればいい」
「俺に聞くか? それ」
「聞いてきたのはそっちだろ!」

 心底困った顔をしているキースを揶揄うのは楽しい。助けてやりたい気持ちは山々だが、アンドレアも大抵人付き合いが上手い方ではないし、何かアドバイスをと言われても心当たることはなかった。こういうときエドがいれば、何か上手いアドバイスでもしたのだろうか? と、アンドレアは最近送り出した二人目の弟子のことを考える。

「悪い悪い、ちょっと興味本位だったんだよ」
「趣味の悪い……」

 大きくなっても、キースやエドはアンドレアにとってはいつまでも子どものように見える。キースは元から少し大人びた子どもだったが、こうして揶揄えばそれなりに子どもらしい反応を見せるのだ。それにしても、キースのこんな姿を見るのは初めてだった。いつだってなんでも卒なくこなすので、こうして何かに空回って一生懸命になっているところなんてアンドレアは見たことがない。それが驚きでもあり、嬉しくもあった。いつもすべてを封じ込めてしまいがちなキースのことを、アンドレアはずっとどこかで心配していたのだ。

「……もういい。帰る」
「待てよ」

 アンドレアは、そうして帰ろうとするキースを引き留めた。いくら自分が人付き合いに苦手意識があるからって、愛弟子を助けないわけにはいくまい。

「まず、ちょっと肩の力抜け」
「……」

 役立つかどうかわからないアドバイス。これでも何年間かは帝国の組織の中で上手くやってきたし、それなりにそういう相手だって作ってきた人間だ。なにもないよりはマシだろう。

「……それで?」

 最初は聞く気のないようなそぶりを見せていたキースが、ようやくアンドレアの方を見た。

「笑顔——は、無理だろうけど……あー……そもそもだ、キース」
「……なんだ」

 ほとんど平民と変わらない家の出のアンドレアと違い、キースは帝国の中でも大きな影響を持つローゼンブルク家の当主だ。そういう貴族たちにとって、結婚とは一般市民にとってのそれとは異なる意味を持つ。
 結婚しているからと言って互いに恋愛感情があるとは限らないし、完全に家同士を結びつけ、発展するというそれぞれの思惑のためだけに一緒になるということもある。なんならそういう場合は、お互い想い合う相手が外にいることだってあるのだ。そもそもローゼンブルク家がアークェット家とやろうとしていたことだってこれに近いだろう。
 でも、今はどうか。

「お前は嬢ちゃんと、どうなりたい」

 アンドレアに問われたキースは、ゆっくり深呼吸をした。

「俺は——」
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