【完結】【R18】モブに転生した俺は、推しのトラウマにはなりません!

すめらぎかなめ

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本編

 あたり一帯に強い風が吹いた。

 暴風という言葉では表せないほどに、強い風だ。

「――ノアム、ノアム!」

 身体をがくがく揺らされて、俺は目を開ける。

(あれ、なんだこれ……)

 なんか異様に身体が小さい気がする。というか、わき腹が焼けるように痛い。

「やだ、死なないで! ねぇ、ノアム!」

 だったらせめて身体を揺らさないでほしい――という俺の願いは言葉にならない。

 顔に落ちてくる水滴。焼けるように熱いわき腹。

 意識が遠のいていく。俺は――どうしたのだろうか。

 ◇

 平凡な大学生だった。趣味はゲームで、いつも携帯ゲーム機を持ち歩いていた。

 俺の友人もみんな似たようなゲーマーで、似たようなやつらばかり。互いに好きなゲームの布教をしたり、逆に布教されたり。

 ただ唯一、俺は友人に言えなかったことがある。

 ――俺が腐男子だということだ。

 俺には五つ上の姉がいた。姉はいつもキラキラしていて、人に囲まれていた。一見すると一軍女子の姉は――超が付く腐女子だったのだ。

永遠とわ、これおすすめの新刊ね!」
「姉ちゃん、ありがと」

 姉と俺の趣味は近く、いつもおすすめのマンガや小説を交換していた。

 大学生になって一人暮らしを始めた俺の元に、姉は月一で訪れておすすめの新刊を持ってくる。

 普段は渡して終わり――だったのに。どうしてかその日は思いついたようにスマホの画面を見せてきた。

「そういや、最近私の界隈で話題になってるゲームがあるんだ。永遠、やってみなよ」
「……公式サイトのリンクかなにか送っといて」

 とまぁ、こんな感じで姉のおすすめのゲームをやることになった俺は――めちゃくちゃ後悔した。

 だって、まさか十八禁のBLゲームだなんて思わなかったから。

「見た目はギャルゲーとか乙女ゲーっぽい?」

 ダウンロード版を購入して、立ち上げた。

 タイトルは【星をちりばめた恋】。中世ヨーロッパ風の異世界が舞台らしい。

 主人公のリュリュは貧乏貴族の次男。家のために婚活をしていて、その中で四人の攻略対象と愛をはぐくんでいくという内容だ。

 俺はギャルゲーや乙女ゲーも何度かやっている。だから恋愛ゲームは経験済み。しかし、十八禁、それもBLゲームは初体験だった。

「……とにかく、一人攻略したら終わろう」

 意を決して、俺はマウスをクリックした。


 あれから三日後。俺はゲームを完全クリアしていた。

 ――というか、はまった。

 攻略対象ごとの個性的なシナリオ。美麗でエロいスチル。音楽もとてもよく、臨場感があった。

 とにかく――よかった。ここ最近プレイしたゲームのどれよりも良かった。

(特にキャラクターがいいんだよなぁ)

 主人公のリュリュをはじめ、幼馴染のエリート騎士やおじさま魔法使い。ヤンデレ従者など。

 個性的なキャラクターの中で俺が最も好きになったのは――ルドヴィック・トゥラチエだった。

 ルドヴィックはメイン攻略対象で、伯爵家の長男。幼少期の『とある出来事』がトラウマで、誰も信じることができない。

 リュリュに対してもはじめは警戒心たっぷりで接していたのに、どんどんほだされていく。だけど、あるとき勘違いからリュリュに逃げられたと思い――強引に押し倒すのだ。あのスチルは鼻血ものだった。うん。

(あぁ、続編がプレイしたい!)

 なんて思いつつ横断歩道を渡る。目の前の信号が点滅しはじめて、少し急ごうと駆け足になったとき。

 勢いよく乗用車が突っ込んでくるのが見えた。

 周囲の悲鳴が聞こえる。俺の身体に大きな衝撃が襲い掛かって――跳ね飛ばされた。

 頭を地面に強くぶつける。周囲の喧騒が遠のいていく。

(なんだよ、この終わり方……!)

 神さまがいるなら抗議したい!

 俺はこんな終わり方望んでいなかった!

 ◇

 重たい瞼を開けると、真っ白な天井が見えた。

 俺はずきずきと痛む頭を押さえ、起き上がる。

 すると頭の中に『二人分の記憶』が流れ込んできた。

 もう一つは大学生の永遠としての記憶。そして、もう一つは――。

「ノアム・カンブリーヴ……!」

 それは、今回の俺の名前だった。

 カンブリーヴ伯爵家の長男。小さなころは身体が弱くて、ベッドの上が世界のすべてだった。

 そんな俺には大好きな幼馴染がいる。それこそ、ルドヴィック・トゥラチエ。

 【星をちりばめた恋】の攻略対象の一人だ。

「ってことは、俺って――ルドヴィックのトラウマ!?」

 顔からサーっと血の気が引いた。倒れこもうとして、部屋の扉が開く。顔のぞかせたメイドが、血相を変えて飛んでくる。

「坊ちゃま! 目を覚まされてよろしゅうございました!」

 あまりの必死さに、俺は頬をひきつらせた。そんな俺に気づかずに、メイドは泣いている。

「あぁ、旦那さまや奥さまにもお知らせしなくては。少々お待ちくださいませ!」

 とんでもないスピードでかけていくメイドを見送って、俺は呆然とした。

 どうやら俺は、推しのトラウマに転生してしまったらしい。
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