【完結】【R18】モブに転生した俺は、推しのトラウマにはなりません!

すめらぎかなめ

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本編

 その日は近くの町に買い物に出ていた。護衛も従者もつけず、一人でぶらぶらと町を歩く。

 両親には護衛くらいつけていけと言われるけど、一人のほうが気楽なのだ。

(あ、ここゲームにあった建物だ)

 確か、背景素材がこんな感じだったな……。

 時折来るけど、訪れるたびに新しい発見がある。そして、気づくたびに俺は感動するのだ。

「……あれから九年、か」

 シナリオ通りならルドヴィックのトラウマになっているはずの俺、ノアム。

 でも、俺たちの交流は絶えず続いている。今では『親友』になるほどだ。

 ルドヴィックにはトラウマがなく、俺も引きこもっていない。

 ここはもう、【星をちりばめた恋】の世界じゃないのではないか。最近、思うようになった。

「舞台としてはそのままだけど、俺らは違うんだよな」

 ノアムも、ルドヴィックも。シナリオとかけ離れている。

 もちろん、ここからシナリオの強制力が発動する可能性だってある。ルドヴィックがリュリュと結ばれるために必要なら、俺はルドヴィックに嫌われても、納得――できるのだろうか。

(俺、ルドヴィックのこと好きだ)

 この九年の思い出が頭の中で次から次へと流れていく。

 たくさん笑って、たくさん泣いて。いろんな困難に直面しつつも、二人で乗り越えてきた。

(『推し』としてじゃない、俺はルドヴィックという人が好きだ)

 この間、ルドヴィックに自分と結婚できるか問われた。

 冗談にしたかったのに、ルドヴィックはたとえ話だと言った。

 ……冗談にしたほうがずっとずーっと楽だったのに。

(自分の気持ちに気づくのが、遅すぎるって)

 胸が苦しい。涙があふれてしまいそうだった。

(俺はリュリュじゃない。ノアムだ。……俺じゃ、ルドヴィックの『運命』にはなれない)

 目元をこする。せめて、笑顔で二人を祝福したい。

 二人の結婚生活に、幸福が待っていることを――祈りたいのに。

「俺、ルドヴィックが好き……」

 今の状態ではできない。とにかく、気持ちを落ち着けなくては。

(今から帰って、しばらく引きこもろう。落ち着くまでルドヴィックには会わない)

 そうしないと、自分の気持ちを伝えてしまいそうだ。

 俺を見て、俺を好きになって。俺を――愛して。

 ルドヴィックにすがって、愛を強請りそうだ。

 こんなのはダメだから、ルドヴィックを避けよう。

「よし、とにかく屋敷に帰って――」

 俺が顔を上げたとき。視界の端っこに、見知った人物を見た。

 華やかな金髪。目を細めて、人懐っこく笑う男。

 ずっと一緒にいた俺には、見せなかった笑み。

「リュリュは本当に頼りになるな」

 風に乗って聞こえてきた声に、俺の胸が鋭く痛んだ。

(ルドヴィック)

 そこにいたのはルドヴィックで、隣を歩くのは――このゲームの主人公リュリュ・デュロン。

 長身のルドヴィックと小柄なリュリュが並んで歩くと、まるで大人と子供みたいだった。

「けど、本当に好きなんですね」

 立ち尽くす俺に気づかない二人は、少し離れた場所を並んで歩いていく。

「あぁ、好きだ。――この世で一番愛おしくてたまらない存在だよ」

 愛情のこもった声。ルドヴィックのまなざしはリュリュに向いている。

 ――我慢できなかった。

(一番見たかった光景だろ――!)

 ルドヴィックがリュリュに愛をささやくのは、一番見たかった光景だったはずだ。

 それなのに、今、俺はとても苦しい。呼吸さえ満足にできないのではないか。このまま胸が張り裂けて死んでしまうのではないか。

 たくさんの錯覚に襲われ、身体中が痛くてたまらない。

「……好き」

 二人の背中が遠のいていく。俺は、二人が近くの角を曲がったのを確認して、へたり込んだ。

「好き、今更だけど、好きだよ。……ルドヴィックが、好き」

 甘えん坊で、本気を出したらすごいのにどこか怠惰で。

『ノアムは、俺のこと本当に親友って思ってる?』

 頭の中で繰り返される言葉。

 ルドヴィックは、気づいていたんだろうか。――俺の本当の気持ちに。

「違うよ。俺、お前に恋してたわ」

 『親友』なんて心地いい距離を保とうとしていた。

 だけど、本当はお前の一番になりたかった。

 お前の「愛してる」が欲しかった。
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