【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ

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第1部 第6章 嘘と傷痕、そして墓標

 彼の瞳が揺れている。なにか言わなくちゃって思うのに、言葉にならない。

 唇を噛んでうつむいた僕の肩に、誰かが触れた。それはトリスタンさんの手じゃない。人間味のある温かい手だった。

 顔をあげると、双眸が僕を見つめていた。僕を安心させるように笑った彼は、トリスタンさんに向き合う。

「心配されるようなことはない。ジェリーのことは俺が守る」

 堂々とした宣言に、僕の心が震えた。嬉しさが身体にじんわりと広がっていく。

「ほう」

 トリスタンさんは目を細めて、キリアンを見た。視線がぶつかり合う。お互い逸らすそぶりはない。

「俺にとって、ジェリーは特別だ。だから、この身が朽ちても守る」

 誓いの言葉のような雰囲気だった。

 照れくさくて、頬に熱が集まっていく。胸の前で手をぎゅっと握る。

「たとえお前が勇者だったとしても、人間ごときに任せてはおけない。私たちからすると、人間は脆い。同時に愚かだ」
「……愚かなのは、お互いさまだろう」

 空気に含まれた緊張感が大きくなっていくのを、肌で感じ取った。

「確かに人間は異端を排除する。ただし、それはお前たちも同じだ」

 キリアンの言葉は鋭かった。獣の牙のように鋭利。

 けど、相手を傷つけたいわけじゃない。例えるならそう――自分の覚悟を伝えようとしているみたいだ。

 トリスタンさんの状態からして、素直に話し合いに応じるとは思えない。その選択は間違っていない。

「だったら、ジェリーのことを大切に想うやつがいるほうがいいだろ」
「……お前は、私よりもジェリーを想っていると言えるのか?」
「あぁ、望むのならば神にも、悪魔にでも誓ってやる」

 真剣な眼差しと言葉に、心臓の鼓動が早くなる。

 どうしてだろう。僕は、なんで。こんなに、キリアンにドキドキしてるんだろう。

 困惑する僕をよそに、トリスタンさんはこちらに背を向ける。その後、大きくため息をついて振り返った。

「つくづく愚かな者だ。人間など、自分たちのことしか考えていない勝手な種だ」
「なにが言いたい」
「なぁに、大した意味はない。身近にいる敵を討つこともできない臆病者だと言ったのだ」

 それは、多分――。

「まぁいい。大切なのはジェリーの気持ち。ジェリーがどちらの元に行きたいか。私たちは一番にそこを尊重しなくてはならない」

 僕を見るキリアンの瞳は、不安そうだった。安心させるように、うなずく。

 少なくとも、今の僕はキリアンの側にいたいから。

「そして、お前は自らの力を過信している。一度守れなかったというのに、どの面を下げてこんなことを言うのだか」
「……それは」
「過去のことを忘れたのか。はたまた、封印したのか。定かではないが、過去から逃げ続けるお前にジェリーを任せたいとは思えないな」

 次の瞬間、トリスタンさんは跡形もなく消えていた。魔法で移動したんだって、すぐにわかった。

 ただ、今はそれどころじゃない。僕の肩を抱き寄せるキリアンの手に、自らの手を重ねた。

「……キリアン」

 彼の手は震えていた。僕はキリアンを安心させるように、手の甲を何度か撫でる。

「大丈夫だよ。僕は、キリアンの味方だから」

 トリスタンさんの厚意を無下にしたいわけじゃない。彼のこと以上に、キリアンが大切だというだけ。

(僕は異質な存在だ。半分が人間で、半分は魔族。きっと、たくさんの人から怖がられてしまう)

 だけど、それは元々じゃないか。僕は周りからいい扱いを受けてこなかった。そんなの、今更だ。

(だれからも愛されない。だれからも認めてもらえない。そう思ってたけど、今は違うじゃん)

 師匠がいて、キリアンもいる。だから、大丈夫。

 ――僕は、自分としっかり向き合うよ。

「キリアン。僕はキリアンの側にいたい。……大切だって、思ってるんだ」
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