【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ

文字の大きさ
1 / 73
第1部 第1章 出逢う

 ステパット王国の辺境は冬になると寒さが厳しい。雪も多く、場所によっては孤立してしまう地域もあるほどだ。

 窓の外では雪が少し降っていて、僕は寒さから自然と息を吐いた。

 室内にある暖炉の火はぱちぱちと音を鳴らしている。一瞥すると、そろそろ薪をくべなくてはならないことに気が付く。

(薪は、ええっと)

 僕が行動するよりも早く、宙を薪がふわっと移動した。

 引き寄せられるかのように暖炉の火の中に吸い込まれていく薪。新しい薪が入った暖炉の火は、勢いが強くなっていく。

 僕は入り口のほうに視線を向けた。

「全く、キミの倹約っぷりにはいつも驚かされる。八年も一緒にいるのに、キミはいつも私の想像を超えてくるな」

 入り口の扉の前に立つ真っ赤な髪の男性が、僕に向かって言葉を吐いた。そして僕の側を通り抜けて、ソファーに腰掛けたかと思うと、流れるような動きで横になる。

「――師匠、お帰りなさい」

 彼が聞いているかはわからないけど、出迎えの言葉を口にする。彼はしばらくして「あぁ」とだけ返してくる。

 僕が見つめていると、彼はソファーの背もたれにかけてある毛布を頭からかぶった。

 毛布をかぶった彼はもごもごと動く。この動きは芋虫に近い――と思う。あいにく僕は芋虫の生態には興味がないから、よく知らないのだけど。

「師匠。お着替えいいんですか?」

 小さな声で問いかけると、師匠は毛布から顔だけを出し僕を見つめた。

 彼の目が僕を責めているような色を宿している。

「着替えるもなにも、この寒い中では凍死してしまうだろうに。私は寒さに弱いんだ」
「し、知ってます。僕一人だから大丈夫かなって思っただけで――。帰宅時期がわかっているのならば、室内くらい温めておきました」

 そうだ。寒がりの師匠が帰ってくるとわかっていたら、僕だって室内を適温にしておいた。

「私は普段のキミの姿が知りたいんだ。時折抜き打ちチェックくらいするだろう」
「そんなの、大げさです」
「全く大げさなものか。キミの倹約っぷりは常軌を逸している」

 師匠は僕のことを『常軌を逸した倹約家』なんていうけど、僕と師匠は思考の根本が違うのだ。

 王家からの信頼も厚い魔法使いの師匠と、小さな商家の息子である僕。価値観も金銭感覚も合うはずがない。

 師匠だって、それくらいはわかっているはずなんだけど――。

「ただでさえ面倒なことを押し付けられ、苛立っているというのに。そのうえキミまでこの調子では、私は憤死してしまうだろう」
「面倒なこと――ですか?」
「そうだ。クソ国王め。私をこき使うことしか考えのない男だ」

 国王陛下のことを軽々しく「クソ」なんて言えるのは、間違いなくこの世の中で師匠だけだろう。

 僕はそう考えるけど、なんだかちょっとおかしいなって。

(確かに師匠は王城に呼び出されると機嫌が悪くなるけど、今日はもっとひどいというか)

 普段から国王陛下のことを「バカ」だの「アホ」だの。挙句の果てには「顔だけの男」と言ってはいる。

 ただ、「クソ」とまで言っているのは初めてだった。

「大体私ももう年だ。三十路を過ぎているんだ。二十代の頃のように動き回れるはずもないだろうに!」
「師匠って、割と元気――」
「そういう問題ではない。三十を過ぎれば、人間の身体というものはがくっと衰えるものさ。キミもいずれわかる!」

 僕をジト目で見つめ、師匠が早口で言葉をつむぐ。かと思うと、起き上がってソファーに腰掛けた。彼の手が僕を招く。

「ジェリー、キミは元気かい?」
「師匠、今更なにを言っているんですか?」
「そういう意味じゃない。長旅に耐えることが可能なほど、身体は元気で丈夫かと聞いているんだ」

 表情を整えた師匠が問いかけてくる。彼の真剣な表情は、権力者と渡り合うための武器である。

 この人は過去には王家のお抱え魔法使いという名誉を持っていた人。今ではすっかり辺境の主となり、定例報告以外ではほとんど王都に寄り付かない。でも、過去には王城の権力者とやり合っていたという。結果、国王陛下からの信頼も勝ち取った。

「そりゃあ。僕はまだ若いですから」
「キミは私に皮肉を言うのが好きだな。まぁいい。私からキミに試練を与えよう」

 人差し指を立てた師匠が僕のことをじっと見つめる。背中に嫌な汗が伝って、本能的に足を引いた。

「ジェリー・デルリーン。キミに私の代役を命じる。今から三ヶ月後、勇者の旅に同行し魔物退治をしてきなさい」

 師匠の言葉をすぐには理解できなかった。

 しばらく呆然と師匠を見つめた。必死に言葉をかみ砕き、理解しようとする。

 ようやく意味が分かった頃、僕は口をあんぐりと開けて――。

「え、えぇっ!?」

 大絶叫。部屋中に響き渡る僕の声に、師匠は自身の耳を両手でふさいでいた。

 まるでうるさいとばかりに。
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は? 最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか? 人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。 よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。 ハッピーエンド確定 ※は性的描写あり 【完結】2021/10/31 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ 2021/10/03  エブリスタ、BLカテゴリー 1位

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない

タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。 対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!