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第1部 第1章 出逢う
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◇◇◇
僕たちが案内されたのは、先ほどの間からかなり離れたお部屋だった。
室内はまさに豪華絢爛。きょろきょろと室内を見渡す僕をよそに、共に旅をする仲間だという二人はソファーに腰掛ける。
長いソファーに先ほどの黒曜石の瞳の彼。僕ともう一人はそれぞれ一人掛けのソファーに腰掛けた。
王城の侍従さんが紅茶と軽食を持ってくる。軽食はサンドイッチ。挟んである具材は一つ一つ違うらしく、見ているだけでも楽しい。
(すっごくお腹が空いてたんだよねぇ)
緊張のせいで朝から食事が喉を通らなかった。だから今になってお腹はぺこぺこ。
ただ、室内の空気はサンドイッチをつまめるような状態じゃない。僕はこっそりと落胆した。
誰も口を開かない中、僕はティーカップに手を伸ばし、口に運んだ。鼻腔に届くいい香り。僕の心が少しだけ落ち着く。
「このまま黙っていてもなにも進まないな。とりあえず、自己紹介をしよう」
口を開いたのは黒曜石の瞳の彼――ではなく、もう片方の人だった。
彼は銀色の髪の毛を後ろに撫でつけていて、真っ赤な目は鋭い形をしている。そして、とても大柄だ。
背丈が高くて、身体つきもがっしりとしている。雰囲気も顔立ちも全部ひっくるめて、第一印象は迫力のある人。
でも、彼はよく人を見ているというか、気配りが出来る人だって今までの様子でわかっていた。
「俺はエカード。ハイネン男爵家の三男坊だ」
先ほどから一人でお話をしている彼――エカードさんが自己紹介をする。
どうやら、彼はお貴族さま出身らしい。
「知ってる。お前の自己紹介なんていらない」
対して、黒曜石の瞳の彼はエカードさんを一瞥し、言葉を吐き捨てた。エカードさんは気分を悪くすることはなく、肩をすくめる。
「お前は俺のことを知ってる。だけど、彼は知らないだろ。お前もさっさと自己紹介をしろ」
「はぁ……。キリアン・レヴィン。二十二歳。これでいいか?」
エカードさんに促され、黒曜石の瞳の彼――キリアンさんが名乗った。
彼の目が僕をちらっと見る。あ、そうだ。先ほどの会話からして、僕だけが初対面になる。キリアンさんの自己紹介を聞くのは僕だけ。あと、僕も名乗る必要がある。
「はい、えぇっと僕は――」
自己紹介をしようとして、口ごもってしまった。
(どうしよう、自己紹介なんて、なにを言ったらいいの――?)
シンプルに名前と年齢くらいでいいのか。それとも職業を付け足したほうがいい? 僕が魔法使いだってわからないと、お二人は困るよね?
僕の頭の中がパニックに陥っていると、露骨なため息が耳に届いた。
ため息のほうに視線を向けると、キリアンさんが退屈したような表情で僕を見つめている。
彼はサンドイッチに手を伸ばし、乱暴にかじった。
「必要なのは名前くらいだろ。誰もお前の趣味嗜好性癖になんて興味はない」
素っ気ない彼の言葉。なのに節々から伝わってくるのは、優しさ。
彼の優しさや気遣いが嬉しくて、僕の緊張が緩んだ。先ほどの言葉の中で性癖は余計だったけど。
「はい。僕はジェリー・デルリーンと言います。魔法使いです」
必要かもって思って、僕は職業を付け足した。僕の自己紹介を聞いたエカードさんが「あぁ」と声を上げる。
「俺は剣士だ。で、こっちのキリアンが神託に選ばれた勇者――ということになってる」
「本当に一応な。こんな面倒なことを押し付けられて、こっちは散々だ」
キリアンさんはティーカップを口に運ぶ。いい食べっぷりと飲みっぷり。
あ、僕もサンドイッチ食べたい。
(このままだとキリアンさんに食べつくされちゃいそう)
それだけは絶対にごめんだ。
僕は手を伸ばして、一つのサンドイッチを手に取った。トマトと厚焼き玉子が挟んであって、色彩的にも楽しいサンドイッチ。
両手で持ってかじる。――美味しい。
(パンが違うのかな。それに厚焼き玉子がすっごく美味しい。こんなにも美味しいサンドイッチ、初めて食べた!)
実は師匠と二人暮らしだと美味しいものは食べることが出来ない。これだとちょっと語弊があるか。
師匠は何事にも無頓着だ。だから、食事に求めるものは栄養的価値。
師匠は味よりも栄養が摂れる食事を好んだ。食事係は僕だったけど、別々に作るのが面倒だったこと。そもそも僕自体が料理が得意じゃなかったことから、味付けは薄味のさっぱりとしたものばかり。
(美味しいものを食べると、こんなにも幸せな気持ちになるんだ……! 今後はもうちょっと味にもこだわろうかな)
全身で感動を味わって、僕は一口、もう一口とサンドイッチを頬張る。
美味しくて口元がほころぶ。僕は夢中で食事を続ける。
(なんか、静かだなぁ)
しばらくして場の空気に気が付いて、顔を上げた。
キリアンさんとエカードさんが僕を見て固まっていた。え、僕、なにか変なことでもしたの!?
僕たちが案内されたのは、先ほどの間からかなり離れたお部屋だった。
室内はまさに豪華絢爛。きょろきょろと室内を見渡す僕をよそに、共に旅をする仲間だという二人はソファーに腰掛ける。
長いソファーに先ほどの黒曜石の瞳の彼。僕ともう一人はそれぞれ一人掛けのソファーに腰掛けた。
王城の侍従さんが紅茶と軽食を持ってくる。軽食はサンドイッチ。挟んである具材は一つ一つ違うらしく、見ているだけでも楽しい。
(すっごくお腹が空いてたんだよねぇ)
緊張のせいで朝から食事が喉を通らなかった。だから今になってお腹はぺこぺこ。
ただ、室内の空気はサンドイッチをつまめるような状態じゃない。僕はこっそりと落胆した。
誰も口を開かない中、僕はティーカップに手を伸ばし、口に運んだ。鼻腔に届くいい香り。僕の心が少しだけ落ち着く。
「このまま黙っていてもなにも進まないな。とりあえず、自己紹介をしよう」
口を開いたのは黒曜石の瞳の彼――ではなく、もう片方の人だった。
彼は銀色の髪の毛を後ろに撫でつけていて、真っ赤な目は鋭い形をしている。そして、とても大柄だ。
背丈が高くて、身体つきもがっしりとしている。雰囲気も顔立ちも全部ひっくるめて、第一印象は迫力のある人。
でも、彼はよく人を見ているというか、気配りが出来る人だって今までの様子でわかっていた。
「俺はエカード。ハイネン男爵家の三男坊だ」
先ほどから一人でお話をしている彼――エカードさんが自己紹介をする。
どうやら、彼はお貴族さま出身らしい。
「知ってる。お前の自己紹介なんていらない」
対して、黒曜石の瞳の彼はエカードさんを一瞥し、言葉を吐き捨てた。エカードさんは気分を悪くすることはなく、肩をすくめる。
「お前は俺のことを知ってる。だけど、彼は知らないだろ。お前もさっさと自己紹介をしろ」
「はぁ……。キリアン・レヴィン。二十二歳。これでいいか?」
エカードさんに促され、黒曜石の瞳の彼――キリアンさんが名乗った。
彼の目が僕をちらっと見る。あ、そうだ。先ほどの会話からして、僕だけが初対面になる。キリアンさんの自己紹介を聞くのは僕だけ。あと、僕も名乗る必要がある。
「はい、えぇっと僕は――」
自己紹介をしようとして、口ごもってしまった。
(どうしよう、自己紹介なんて、なにを言ったらいいの――?)
シンプルに名前と年齢くらいでいいのか。それとも職業を付け足したほうがいい? 僕が魔法使いだってわからないと、お二人は困るよね?
僕の頭の中がパニックに陥っていると、露骨なため息が耳に届いた。
ため息のほうに視線を向けると、キリアンさんが退屈したような表情で僕を見つめている。
彼はサンドイッチに手を伸ばし、乱暴にかじった。
「必要なのは名前くらいだろ。誰もお前の趣味嗜好性癖になんて興味はない」
素っ気ない彼の言葉。なのに節々から伝わってくるのは、優しさ。
彼の優しさや気遣いが嬉しくて、僕の緊張が緩んだ。先ほどの言葉の中で性癖は余計だったけど。
「はい。僕はジェリー・デルリーンと言います。魔法使いです」
必要かもって思って、僕は職業を付け足した。僕の自己紹介を聞いたエカードさんが「あぁ」と声を上げる。
「俺は剣士だ。で、こっちのキリアンが神託に選ばれた勇者――ということになってる」
「本当に一応な。こんな面倒なことを押し付けられて、こっちは散々だ」
キリアンさんはティーカップを口に運ぶ。いい食べっぷりと飲みっぷり。
あ、僕もサンドイッチ食べたい。
(このままだとキリアンさんに食べつくされちゃいそう)
それだけは絶対にごめんだ。
僕は手を伸ばして、一つのサンドイッチを手に取った。トマトと厚焼き玉子が挟んであって、色彩的にも楽しいサンドイッチ。
両手で持ってかじる。――美味しい。
(パンが違うのかな。それに厚焼き玉子がすっごく美味しい。こんなにも美味しいサンドイッチ、初めて食べた!)
実は師匠と二人暮らしだと美味しいものは食べることが出来ない。これだとちょっと語弊があるか。
師匠は何事にも無頓着だ。だから、食事に求めるものは栄養的価値。
師匠は味よりも栄養が摂れる食事を好んだ。食事係は僕だったけど、別々に作るのが面倒だったこと。そもそも僕自体が料理が得意じゃなかったことから、味付けは薄味のさっぱりとしたものばかり。
(美味しいものを食べると、こんなにも幸せな気持ちになるんだ……! 今後はもうちょっと味にもこだわろうかな)
全身で感動を味わって、僕は一口、もう一口とサンドイッチを頬張る。
美味しくて口元がほころぶ。僕は夢中で食事を続ける。
(なんか、静かだなぁ)
しばらくして場の空気に気が付いて、顔を上げた。
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