【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ

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第1部 第2章 旅の始まり、変化する関係

「冗談は、やめてください……」

 冗談だってわかっているはずなのに、僕の頬には熱が溜まっていく。

 この間。可愛いとかきれいとか言われたときは、なんとも思わなかったのに。

「冗談じゃないぞ。――心の底から、本気で思っている」

 キリアンさんが僕の頬を優しく撫でながら言う。

 頬をするりと撫でられてしまうと、変な気分になってしまいそうだ。

 さらに彼の指が僕のかさついた唇を触った。親指で撫でられてしまうと、いたたまれなくてたまらなくなる。

「キリアンさん――」

 身を引こうとするのに引けなかった。

 まるで磁力かなにかでき引き寄せられているかのように、彼から距離を取ることが出来ない。

 彼をじっと見つめて、ごくりと息を呑んでしまう。

「いい加減呼び捨てにしろ。――ジェリー」

 彼が僕の名前を呼ぶ。どこか甘ったるい空気になって、僕の鼓動が早足になる。

 え。ど、どう、なっているんだろうか?

(なんでこんなおかしな空気になってるの――!?)

 僕はキリアンさんの治療をしただけだ。それ以外はなにも、していない。あ、もしかして。

(これは僕が怒ったことに対する仕返しでは?)

 そうだ。そうに決まっている!

 僕が柄にもなく強い口調で彼を怒ったから。彼はそれが気に食わなかったんだろう。

 彼の命がかかっていたんだから仕方がないと思うのは、僕だけなのか。

「き、キリアンさん」
「さんはいらない」

 繰り返されて、僕は息を呑む。

 キリアンさんの黒色の目が僕を見つめて、射貫いてくる。心臓がバクバクと大きく音を鳴らす。

 もう、どうすればいいかわからないよ――。

「それともなんだ。俺の言うことが聞けないのか?」
「ひっ」

 滅相もございません!

 首を横にぶんぶんと振る。すると彼は僕の唇を撫で「キリアン」と自身の名前を口にした。

 これは繰り返せということんだろう。

「き、りあん」

 彼の名前をゆっくりと口にしてみた。彼は満足そうにうなずく。

 唇を緩めた表情はどこか艶めかしくて、僕の鼓動は加速するばかり。

「これからはそうやって呼べ。いつまでも他人行儀にするな」
「あ、はい……」

 ようやくキリアンが僕の唇から指を離した。

 なのにどうしてか僕はそれがさみしくて、視線が自然と彼の指を追っていた。

 彼は僕の視線に気が付いたのか、息をふぅっと吐く。

「なんだ」
「い、いえ」

 先ほどよりも優しいキリアンの声。慌てて首を横に振った。

 もう、首がちぎれてしまいそうなほどの勢いだ。

「あのな、俺はいつ死んでもいい存在なんだ」

 しばらくして彼がしみじみと言う。

「だから、この役割だって引き受けた。死に場所を求めている」

 さも当然のように言うから、僕はなにも返せない。

 薄々感じていたことは真実だったらしい。

「まさか、怒られるとはな。しかも、お前みたいな気の弱いちっこいやつに」
「う……」

 気が弱いのもちっこいのも真実だけど。人から言われると、なんか無性に腹が立つ。

「でも、案外心配されるのも悪くはない。お前の表情がころころと動くのも見ていて面白い」
「お、面白いって」

 それはいわば、珍獣扱いじゃないか。不本意すぎる。

「可愛いその顔が、俺の言動や行動一つで目まぐるしく動くんだ。面白いとしか言えないだろ」

 彼の手が僕の手首をつかみ、自身のほうに引き寄せた。気が付いたら、僕はキリアンの胸にダイブしていた。

 たくましい腕が僕の背中に回され、抱きしめられているような体勢になる。

「――お前は、俺のことが心配か?」

 問いかけられて、困って、うなずいた。

 心配なのは間違いないから。

「そうか。じゃあ、もっと心配してくれ」
「え、えっと」
「俺の手綱はお前が握れ。ジェリー。お前の言うことなら、俺は聞いてやるよ」

 えっと、えぇっと。意味が、よく、わからないのですが。

「きり、あん?」
「――俺に命じればいい。自分のために生きろって」

 彼の両手が僕の両頬を挟み込む。

 絡み合う視線はねっとりとしているように感じた。

「な、ジェリー」

 吐息さえも当たるような距離に、キリアンがいる。

 黒曜石のような目には、ぼくの戸惑う顔だけが映っていた。
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