【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ

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第1部 第2章 旅の始まり、変化する関係

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(これは一体どういう展開!?)

 僕は命を粗末にする彼の態度に怒っただけなのに……。

 どうして、僕はキリアンにある意味迫られているのだろうか。

「な、ジェリー。俺に命じろって」

 とろけるような甘い声に、鼓動がさらに大きくなった。

 もしかしたら、キリアンに聞こえているかも――と思ったら、いたたまれない。

「む、無理、です。そんなの、僕には……」

 そもそも、キリアンはお貴族さまだという。対する僕は庶民。

 命じるなんてこと、僕には出来ない。

「本当にジェリーは自己評価が低すぎる。俺は周りにもお前を正当に評価してもらいたい」
「そ、そそそそんなのはいらないです」

 僕は平穏に毎日を過ごし、平和な日常が欲しいだけだ。

 言っておくけど、称賛とかが欲しいわけじゃない。師匠に認めてもらうことができれば、それでいい。

「僕、僕は――」

 開いた僕の唇に、気が付いたら温かいものが触れていた。

 驚いて目を見開いた。すぐそばにあるキリアンの精悍な顔。少しして離れていく彼の顔。

(く、口づけられた――!?)

 気が付いて、僕は慌てて自分の口元を手で覆った。キリアンが僕の様子を見て、肩を揺らして笑う。

「なんだ。本当にキスの一つも経験がないのか」
「ないです! 恋人がいたことないって、言ったじゃないですか!」

 あれ、言ったっけ?

 エカードさんには言ったような気がするけど、キリアンがそれを聞いていたかどうかは定かじゃない。

 僕は純粋な乙女じゃないから、ファーストキスに夢など見ていない。いきなり奪われたから戸惑っているっていうだけ。

 視線をさまよわせて周囲を見渡す僕。キリアンは喉を鳴らして笑い続ける。

 かと思えば、彼の腕が僕の腰をまた抱き寄せた。

「な、命じろ。――自分のために生きろって」

 繰り返された言葉。

 低い声には確かな甘さが含まれていて、胸焼けしてしまいそうだった。

「お前に命じられるなら、悪くない。俺に生きていてほしいんだろ?」

 それはそうなんだけど――。

「だったら、きちんと命じないと。俺はまたいつ命を投げ出そうとするか、わからないぞ」

 どういう脅しなんだろうか、それは。

 むしろ、この状況の意味さえ理解できていない。

 これって怒ったら懐かれてしまったとか、そういうことなのだろうか?

 頭の中がぐるぐると回って、混乱して。僕が身体の力を抜くと、キリアンさんが自身の膝の上に僕を座らせた。

 向かい合わせになり、キリアンの手が僕の後頭部に回る。

「ジェリー」

 今まで幾度となく呼ばれた名前。

 まさか、自分の名前がこんなにも甘ったるく感じる日が来るなんて、想像もしていなかった。

「き、きり、あん……」
「あぁ」

 間違いなく、僕が言わないと終わらない。

 少なくともそれだけはわかるのに、どうしても命じることが出来ない。ぎゅっと手を握って、僕はキリアンの顔を上目遣いに見つめた。

「僕のために生きて……くだ、さい」

 小心者の僕にはこれが限界だった。

 僕の言葉を聞いたキリアンはぽかんとする。けど、すぐに声を上げて笑い始める。

「なんだそれは。命令じゃなく、お願いだろ」
「う。そ、それはそう、ですけど!」
「まぁいい。これで、俺の命はお前に預けたも同然だ」

 やっぱり、逆なんじゃないだろうか。

 勇者の命を握る魔法使いがいていいはずがない。

 混乱の渦に落ちていく僕をよそに、キリアンが僕の心臓の部分をこぶしでたたいた。大きく音を鳴らす心臓が、今は憎たらしい。

「ジェリー、俺を生かし続けろ」

 僕の腰を抱き寄せ、自身と身体を密着させて。キリアンが囁く。

「――俺には、お前さえいればいいよ」

 キリアンがつぶやいた言葉の真意を僕が知るのは――もっともっと、先のことだった。
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