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第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち
④
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僕がキリアンに引っ張られてやってきたのは、大通りの端っこにある薬屋だった。
なんでも治療をする際に使う道具なんかも売っているらしくて、僕は店内で棚を見ながら必要になりそうなものを籠に放り込んでいく。
(っと)
僕はあんまり背丈が高くないから、高い位置にあるものを取るときはつま先立ちになるしかない。
この状態で手を伸ばして、なんとか目的のものを取ろうとする。でも、ぎりぎり届かない。
「んっ」
脚がぷるぷると震えている。さすがに誰かに取ってもらおうか――と思ったとき。
後ろから誰かが僕の欲しいものを手に取った。
「これか」
視線を動かすと、キリアンだった。彼は先ほど手に取ったものを僕に差し出して、問いかけてくる。
僕がキリアンの手から商品を受け取ると、彼は不思議そうな表情を浮かべた。
「これは?」
あんまり馴染みがないものみたいだ。
「これはね、魔法使いが魔力を補充する際に使う薬だよ」
透明な瓶の中には色とりどりの飴玉のようなものが入っている。
見ているだけでも楽しいこれは、いわば魔力の塊。摂取しやすいように形状を飴玉のようにしているのだ。
「美味いのか?」
「全然」
僕は首を横に振って答える。
形状こそ飴玉に似ているけど、味は美味しくない。甘いよりも苦いし。好きな人もいるかもだけど、僕は苦手だ。
「あと、普通の人でも魔力が枯渇しちゃった際に使えるんだ」
「ふぅん。それで一般販売してるのか」
魔法使いの中には自分好みの魔力補充の薬を作る者もいる。師匠もそうだった。
――と言っても、師匠の場合はいかに効率的に摂取できるかということに重点を置いていたので、味はそれはもうひどいものだったけど。
(お店で販売しているものも大概だけど、師匠が作ったもののほうがもっと不味いんだよね……)
師匠に言ったら最後「今後は自分でなんとかするんだね」と言われるから、言わないけど。
キリアンの視線は未だに瓶に注がれていた。相当気になるんだろうか。
「味見、してみる?」
きょとんとしつつ問いかけると、キリアンは少し迷った末に頷いた。
「ちょっと待っててね。お会計をしてくるから」
僕は言葉を残して、店員さんを捕まえてお会計をしてもらう。
治療道具と先ほどの魔力補充の薬。あとは塗り薬とかを購入。お金は全然余裕。
「ありがとうございました」
男性の店員さんが頭を下げる。僕も軽く会釈をして、お店の前で待っているキリアンの元に駆け寄った。
「お待たせ」
「あぁ」
キリアンの言葉は素っ気ないけど、僕は気にもしない。実はちょっと、いいことがあったから。
「さっきのお店の人がね、試作品をくれたんだ」
なんでも、このお店の店主は魔力補充の薬が不味いことに関して不満を抱いているらしい。だから、色々な改良を重ねていると。
(味がマシになったら、きっともっとたくさん売れるだろうしね)
今まで味が改良されてこなかったのは、量産するにあたってコストがかかるから。安価で量産できるほうが、利益につながるのは誰だってわかることだ。研究費だってバカにはならない。
「丁度ね、お連れさんと……って、二つくれたんだ」
「そうか」
僕は包みの一つをキリアンに手渡す。
もう一つの包みを開けて、僕はその真っ赤な飴玉のような薬を口に入れてみた。
(うん、味は……今までよりはマシかな)
お世辞にもまだまだ美味しいとは言えないけど、今までよりはマシだ。
控えめな甘さの中に、小さな酸味。まるで味の薄いフルーツを食べているみたい。
(あ、でも効果はきちんとありそう)
味以外にも重要なのが、魔力補充の効果が確かかどうかだ。魔力がふわっと身体の中に吸収されているのが微かにわかる。
「ジェリー」
飴玉を舌で転がしていると、キリアンが僕の名前を呼んだ。僕は彼に視線を向ける。
彼は包みを開けることなく、僕のことを凝視していた。
(もしかして、不安なのかな?)
そりゃあ、誰だって初めて口にするものは不安だろう。
その気持ちがわかるから、僕は「大丈夫だよ」と伝えるつもりで口を開いた――のだけど。
(――え!?)
キリアンの精悍な顔が僕の顔に近づいてきて、視界いっぱいに広がった。
そして、僕が抗議する間もなくキリアンの唇が僕の唇に重なる。
なんでも治療をする際に使う道具なんかも売っているらしくて、僕は店内で棚を見ながら必要になりそうなものを籠に放り込んでいく。
(っと)
僕はあんまり背丈が高くないから、高い位置にあるものを取るときはつま先立ちになるしかない。
この状態で手を伸ばして、なんとか目的のものを取ろうとする。でも、ぎりぎり届かない。
「んっ」
脚がぷるぷると震えている。さすがに誰かに取ってもらおうか――と思ったとき。
後ろから誰かが僕の欲しいものを手に取った。
「これか」
視線を動かすと、キリアンだった。彼は先ほど手に取ったものを僕に差し出して、問いかけてくる。
僕がキリアンの手から商品を受け取ると、彼は不思議そうな表情を浮かべた。
「これは?」
あんまり馴染みがないものみたいだ。
「これはね、魔法使いが魔力を補充する際に使う薬だよ」
透明な瓶の中には色とりどりの飴玉のようなものが入っている。
見ているだけでも楽しいこれは、いわば魔力の塊。摂取しやすいように形状を飴玉のようにしているのだ。
「美味いのか?」
「全然」
僕は首を横に振って答える。
形状こそ飴玉に似ているけど、味は美味しくない。甘いよりも苦いし。好きな人もいるかもだけど、僕は苦手だ。
「あと、普通の人でも魔力が枯渇しちゃった際に使えるんだ」
「ふぅん。それで一般販売してるのか」
魔法使いの中には自分好みの魔力補充の薬を作る者もいる。師匠もそうだった。
――と言っても、師匠の場合はいかに効率的に摂取できるかということに重点を置いていたので、味はそれはもうひどいものだったけど。
(お店で販売しているものも大概だけど、師匠が作ったもののほうがもっと不味いんだよね……)
師匠に言ったら最後「今後は自分でなんとかするんだね」と言われるから、言わないけど。
キリアンの視線は未だに瓶に注がれていた。相当気になるんだろうか。
「味見、してみる?」
きょとんとしつつ問いかけると、キリアンは少し迷った末に頷いた。
「ちょっと待っててね。お会計をしてくるから」
僕は言葉を残して、店員さんを捕まえてお会計をしてもらう。
治療道具と先ほどの魔力補充の薬。あとは塗り薬とかを購入。お金は全然余裕。
「ありがとうございました」
男性の店員さんが頭を下げる。僕も軽く会釈をして、お店の前で待っているキリアンの元に駆け寄った。
「お待たせ」
「あぁ」
キリアンの言葉は素っ気ないけど、僕は気にもしない。実はちょっと、いいことがあったから。
「さっきのお店の人がね、試作品をくれたんだ」
なんでも、このお店の店主は魔力補充の薬が不味いことに関して不満を抱いているらしい。だから、色々な改良を重ねていると。
(味がマシになったら、きっともっとたくさん売れるだろうしね)
今まで味が改良されてこなかったのは、量産するにあたってコストがかかるから。安価で量産できるほうが、利益につながるのは誰だってわかることだ。研究費だってバカにはならない。
「丁度ね、お連れさんと……って、二つくれたんだ」
「そうか」
僕は包みの一つをキリアンに手渡す。
もう一つの包みを開けて、僕はその真っ赤な飴玉のような薬を口に入れてみた。
(うん、味は……今までよりはマシかな)
お世辞にもまだまだ美味しいとは言えないけど、今までよりはマシだ。
控えめな甘さの中に、小さな酸味。まるで味の薄いフルーツを食べているみたい。
(あ、でも効果はきちんとありそう)
味以外にも重要なのが、魔力補充の効果が確かかどうかだ。魔力がふわっと身体の中に吸収されているのが微かにわかる。
「ジェリー」
飴玉を舌で転がしていると、キリアンが僕の名前を呼んだ。僕は彼に視線を向ける。
彼は包みを開けることなく、僕のことを凝視していた。
(もしかして、不安なのかな?)
そりゃあ、誰だって初めて口にするものは不安だろう。
その気持ちがわかるから、僕は「大丈夫だよ」と伝えるつもりで口を開いた――のだけど。
(――え!?)
キリアンの精悍な顔が僕の顔に近づいてきて、視界いっぱいに広がった。
そして、僕が抗議する間もなくキリアンの唇が僕の唇に重なる。
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