【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ

文字の大きさ
28 / 71
第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち

しおりを挟む
 宿の人に簡易の寝台をお部屋に運んでもらった。

 元々一人用のお部屋は、寝台が二つあるだけで手狭となる。僕は静かになったお部屋で、簡易の寝台に腰掛けて息を吐いた。

「ごめんね、キリアン」

 謝罪の言葉を口にすると、キリアンが僕のほうを見る。

 彼の目はどうして僕が謝っているのかわからないと言いたげだ。

「その、うん。僕に気を遣ったんだよね。だから、相部屋なんて……」

 キリアンはエカードさんと相部屋なんて絶対に嫌だと言っていた。

 僕もエカードさんと相部屋はちょっと気まずいなぁって思っていた。

 だから、キリアンは妥協案を提示してくれたんだ。

 感謝してもしきれない。

「別に気を遣ったわけじゃない。妥協案っていうのは真実だが」

 キリアンが移動して僕の隣に腰を下ろす。腰を下ろした衝撃で、僕の身体が一瞬だけ宙に浮いたような感覚に襲われた。

「エカードさんがね、キリアンはこういうとき真っ先に一人部屋を選ぶ人だって、言ってたんだ」

 僕がエカードさんの言葉を口にすると、キリアンは顔をしかめた。もしかしたら、余計なことを言ってしまったのかもしれない。

 微かな心配を抱く僕をよそに、キリアンは「そうだな」と僕の言葉を肯定する。

「確かに俺はそういうやつだよ。今だって、そうだ」
「けど、キリアンは」
「ジェリーとだから、相部屋でもいいって思っただけだ」

 僕の言葉を無視したキリアンが、はっきりと言う。驚いて目を見開いた。

 キリアンを見つめると、彼は口元をふっと緩めている。やっぱり、とっても色っぽい。

「ほかのやつとだったら、相部屋なんて死んでもごめんだ。ジェリーは俺にとって特別だ」
「特別?」
「だって、俺の保護者だろ?」

 ――保護者になると了承した覚えは、ないんだけど。

 心の中で付け足しつつも、言葉にする勇気は僕にはなくて。僕はあいまいに笑うことしか出来なかった。

「俺は、これをお前に尋ねるべきか悩んでいるんだ」

 不意にキリアンが真剣な面持ちになって、話題を切り替えた。

 僕は俯いた。

「お前は迷子のガキの母親を見たとき、逃げたな」
「そ、れは」
「知り合いだったのか?」

 僕を一瞥したキリアンが問いかけてくる。

 ――答えたくない。

 この答えは許されるのだろうか。

「キリアン、あのね」
「答えたくない。そう言いたいのなら、別に俺は構わない」

 僕の言葉を遮って、キリアンは告げる。

 彼の腕が僕の腰に回った。強い力で引き寄せられ、胸がドキドキとしてしまう。

「ただ、俺は好奇心から聞いているわけじゃない。――心配だから、聞いているんだ」

 自身の胸に僕の顔を押し付けて、キリアンは言葉を付け足す。

 心配、だから。

「お前は俺を心配した。それと同じくらい、いいや、それ以上に俺はジェリーが心配なんだ」
「キリアン」
「お前の不安を俺は取り除きたいと思っている。――だから、教えてくれ」

 まるで縋るみたいな言葉。僕の心臓がぎゅうっとつかまれたみたいに、苦しくなる。

 懇願されても、僕には過去を口にする勇気が出ない。

「ジェリー」

 頭上からキリアンの声が降ってくる。顔を上げることが出来ない僕の身体を、キリアンはただ抱きしめた。

 彼の力は僕を逃がさないと伝えているようだった。ぎゅっと抱きしめられてしまうと、決意が壊れてしまいそうだ。

「き、りあん」
「残念なことに、俺は物わかりが悪くてな。思い込んだら、一直線なんだ」

 それくらいは、理解しているつもりだ。

 この短い付き合いで、僕はキリアンの本質を知ってしまった。

「な、ジェリー」

 キリアンの手が僕の腰を撫でる。

 ――っていうか、これは、その。なんだか、危ない雰囲気ではないだろうか?

(ただでさえ、キリアンは色気がすごいのに)

 僕みたいになよなよとしていない。それだけじゃなくて、顔立ちも整っていて、精悍で。身体もすっごくたくましい。

 男の僕でもドキドキとしてしまう。心臓が爆発しそうだった。

「そのね、キリアン」
「――あぁ」
「少し、近すぎるんだけど……」

 とにかくまずは逃げようと思って。僕はキリアンに自分の気持ちを伝える。

 けど、キリアンは僕のことを放してはくれない。それどころか、僕の後頭部に手を回した。

「俺のことは、信頼できないか?」

 そして、キリアンは僕に優しい声で尋ねた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

処理中です...