35 / 73
第1部 第4章 最悪とハジメテ
⑤
それから、僕たちは手早く荷物をまとめ、宿を出た。
「僕が同行するのは次の街までだ。――歩いている最中にいろいろと話そうと思ってな」
シデリス殿下は真剣な面持ちで言う。
ゆっくりと話せばいいのに――と思ったけど、どうやらシデリス殿下にはシデリス殿下なりのお考えがあるらしい。
真面目な様子で彼が伝えてくるから、僕は口を挟むこともできなかった。
「さて、まぁ。いろいろと話さないとならないことはあるんだが」
クリムシュの街を出て、少し歩いた頃。
シデリス殿下が神妙な面持ちで口を開いた。
そういえば、シデリス殿下には護衛とかはいないのだろうか?
宿にいたときは三人ほどいたはずなんだけど。
「殿下、お言葉ですが」
「うん? どうしたジェリー?」
声をおずおずと上げた僕に、殿下は笑みを向ける。ひぇっ、まぶしい――!
(僕みたいな日陰の存在を消し去りそうなほどに、美しい笑みっ――!)
もう、僕とは住む世界が全然違うよ――と現実逃避しそうになる。けど、意を決して口を開く。
「お、おつき……というか、護衛の方は、どうなさったのですか?」
上ずったような声で必死に言葉をつむいだ。
僕の言いたいことがわかったらしい。シデリス殿下は「あぁ」と納得したように声を上げ、手をポンっとたたいた。
「アイツらは帰らせたさ」
「――え」
「先ほども言ったが、僕の母上は騎士の家系の出身でね。僕も幼少期からそれなりに戦えるように訓練されている」
そうは言っても、限度があるんじゃあ――と思う僕の気持ちを、読み取ったのだろう。シデリス殿下はどこかさみしそうな笑みを浮かべていた。
「それに、いざとなれば僕は亡くなろうが構わないんだ」
「あの、それって」
「あぁ、別に深く考えないでくれ。第四王子など、いてもいなくても一緒ということさ」
シデリス殿下は当然のように言うけど、僕はそうは思わない。
いてもいなくても一緒なんていう人間は、いない。
(僕にそれを教えてくれたのは、ほかでもない師匠だった)
自分をずっと卑下してきた僕に対して、師匠は根気強く言い聞かせてくれた。
そりゃあ、もちろん。未だに自分を卑下することはあるけど、少しはマシにはなっている。
「それに、魔物退治に同行して死ぬとするなら、それは名誉の死だ。僕からすれば、これ以上国の役に立つ術はないと思うね」
「そ、そんなの、違う気が……します」
勇気を振り絞った言葉だった。
彼がぽかんと僕を見つめているように見える。
注目されるのは怖いけど、僕は必死に言葉をつむいだ。
「そんなの、違うんです。そんなの、役に立ったなんて言えない」
シデリス殿下にはシデリス殿下にしか出来ないことが、生きているうちにあるはずだ。
死ぬことが最も役に立つことだなんて、言ってほしくない。
「シデリス殿下には――その、役目があるはずなんです」
自分の手を握った。震えそうな声を抑え込んで、僕は必死に自分の考えを言葉にしていく。
「だって、この世に生まれた人にはみんな、確かな役目があるんだって。――師匠が、言ってた、から」
こんなことを言って、不敬罪だと処罰されたらどうしようか。
不安を抱く僕。そんな僕を見つめるシデリス殿下。彼の表情は、驚くほどに柔らかかった。
「そうか。そう言ってくれると、とても嬉しいよ。ありがとう」
「っ――!」
シデリス殿下が僕に笑いかけてくれた。う、本当に日陰の人間にはまぶしすぎる笑みだ。
「キミはとても清らかな心を持っているようだ。――どこぞの勇者と違ってね」
「おい」
キリアンを一瞥したシデリス殿下。キリアンは彼の言葉に不満そうな声を上げていた。
「ぜひとも、ジェリーとは今後も交流を深めたく思うね」
「え、えっと――その」
「ことが片付いたら、一緒に王城でお茶でもしよう。そこで、よかったら――」
彼の手が僕の頬に触れたとき。パンっと渇いた音が聞こえた。
驚いて目を瞬かせると、キリアンがシデリス殿下の手を叩き落としていた。
「軽々しくジェリーに触れるな」
地を這うような低い声で、キリアンが言う。
僕はすぐに反応することが出来なかった。
「僕が同行するのは次の街までだ。――歩いている最中にいろいろと話そうと思ってな」
シデリス殿下は真剣な面持ちで言う。
ゆっくりと話せばいいのに――と思ったけど、どうやらシデリス殿下にはシデリス殿下なりのお考えがあるらしい。
真面目な様子で彼が伝えてくるから、僕は口を挟むこともできなかった。
「さて、まぁ。いろいろと話さないとならないことはあるんだが」
クリムシュの街を出て、少し歩いた頃。
シデリス殿下が神妙な面持ちで口を開いた。
そういえば、シデリス殿下には護衛とかはいないのだろうか?
宿にいたときは三人ほどいたはずなんだけど。
「殿下、お言葉ですが」
「うん? どうしたジェリー?」
声をおずおずと上げた僕に、殿下は笑みを向ける。ひぇっ、まぶしい――!
(僕みたいな日陰の存在を消し去りそうなほどに、美しい笑みっ――!)
もう、僕とは住む世界が全然違うよ――と現実逃避しそうになる。けど、意を決して口を開く。
「お、おつき……というか、護衛の方は、どうなさったのですか?」
上ずったような声で必死に言葉をつむいだ。
僕の言いたいことがわかったらしい。シデリス殿下は「あぁ」と納得したように声を上げ、手をポンっとたたいた。
「アイツらは帰らせたさ」
「――え」
「先ほども言ったが、僕の母上は騎士の家系の出身でね。僕も幼少期からそれなりに戦えるように訓練されている」
そうは言っても、限度があるんじゃあ――と思う僕の気持ちを、読み取ったのだろう。シデリス殿下はどこかさみしそうな笑みを浮かべていた。
「それに、いざとなれば僕は亡くなろうが構わないんだ」
「あの、それって」
「あぁ、別に深く考えないでくれ。第四王子など、いてもいなくても一緒ということさ」
シデリス殿下は当然のように言うけど、僕はそうは思わない。
いてもいなくても一緒なんていう人間は、いない。
(僕にそれを教えてくれたのは、ほかでもない師匠だった)
自分をずっと卑下してきた僕に対して、師匠は根気強く言い聞かせてくれた。
そりゃあ、もちろん。未だに自分を卑下することはあるけど、少しはマシにはなっている。
「それに、魔物退治に同行して死ぬとするなら、それは名誉の死だ。僕からすれば、これ以上国の役に立つ術はないと思うね」
「そ、そんなの、違う気が……します」
勇気を振り絞った言葉だった。
彼がぽかんと僕を見つめているように見える。
注目されるのは怖いけど、僕は必死に言葉をつむいだ。
「そんなの、違うんです。そんなの、役に立ったなんて言えない」
シデリス殿下にはシデリス殿下にしか出来ないことが、生きているうちにあるはずだ。
死ぬことが最も役に立つことだなんて、言ってほしくない。
「シデリス殿下には――その、役目があるはずなんです」
自分の手を握った。震えそうな声を抑え込んで、僕は必死に自分の考えを言葉にしていく。
「だって、この世に生まれた人にはみんな、確かな役目があるんだって。――師匠が、言ってた、から」
こんなことを言って、不敬罪だと処罰されたらどうしようか。
不安を抱く僕。そんな僕を見つめるシデリス殿下。彼の表情は、驚くほどに柔らかかった。
「そうか。そう言ってくれると、とても嬉しいよ。ありがとう」
「っ――!」
シデリス殿下が僕に笑いかけてくれた。う、本当に日陰の人間にはまぶしすぎる笑みだ。
「キミはとても清らかな心を持っているようだ。――どこぞの勇者と違ってね」
「おい」
キリアンを一瞥したシデリス殿下。キリアンは彼の言葉に不満そうな声を上げていた。
「ぜひとも、ジェリーとは今後も交流を深めたく思うね」
「え、えっと――その」
「ことが片付いたら、一緒に王城でお茶でもしよう。そこで、よかったら――」
彼の手が僕の頬に触れたとき。パンっと渇いた音が聞こえた。
驚いて目を瞬かせると、キリアンがシデリス殿下の手を叩き落としていた。
「軽々しくジェリーに触れるな」
地を這うような低い声で、キリアンが言う。
僕はすぐに反応することが出来なかった。
あなたにおすすめの小説
【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は?
最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか?
人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。
よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。
ハッピーエンド確定
※は性的描写あり
【完結】2021/10/31
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ
2021/10/03 エブリスタ、BLカテゴリー 1位
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)
てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。
言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち―――
大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡)
20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!