【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ

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第1部 第4章 最悪とハジメテ

 兄さんの視線から逃れるように、僕はうなずいた。

 握った僕の手のひらに爪が食い込んだのがわかる。

「今のお前がなにをしているのかはわからないが、お仲間が可哀想だな」

 兄さんがちらりと僕の側にいる面々を見て、吐き捨てた。

 声は明らかにバカにしたようなものだった。僕は唇を震わせてしまう。

(なにか言い返さなくちゃ……でも……)

 僕の口から声は出なかった。

 幼少期に兄さんにされたことが頭の中をよぎっていく。

(僕はもう、兄さんの玩具じゃないのに――)

 言わなくちゃって思う気持ちはたくさんあるのに、声は出なくて。

 そんな僕の肩に、誰かが手を置いたのがわかった。

「――ジェリー」

 僕に触れて、名前を呼んだのはキリアンだった。

 彼は僕の肩を撫でたかと思うと、兄さんのほうに視線を向ける。

「随分と偉そうな口だな」
「――は?」

 キリアンが突然口を挟んだからか、兄さんが一瞬だけぽかんとした。

 でも、すぐに目を吊り上げる。僕の身体が震えた。キリアンは僕の身体を抱き寄せる。

「――俺はお前とジェリーの関係を知らない」
「だったら!」
「かといって、俺はお前の話を聞き流せるほど、人間が出来ているわけじゃない」

 キリアンの手が僕の背中を撫でる。

 ――落ち着けって、言ってるみたいだ。

 手のひらの感触に僕の呼吸が徐々に落ち着いていくのがわかる。

「俺はジェリーのことを大切に思っている」

 凛とした声だった。聞いていて心地のいい声。僕は無意識のうちにキリアンの衣服の端っこをつかむ。

「たとえお前がジェリーとどういう関係であろうとも。――ジェリーを傷つける存在は、俺の敵だ」

 最後のほうの声は、地を震わせるかのような低さで。兄さんをちらりと見ると、兄さんも怯んでいるのがわかった。

 でも、すぐに「はっ」と声を上げて笑う。

「お前らはそいつがどんなやつなのか知らないから、そんなことが言えるんだ。教えてやろうか? そいつはとんでもない疫病神で――」
「――疫病神だろうが、なんだっていい」

 最後まで聞くことなく、キリアンがはっきりと兄さんの言葉を切り捨てる。

 僕は顔を上げた。キリアンの眼差しがとてもかっこよく見える。

「お前にとって疫病神だったとしても、俺にとってはそうじゃない。少なくとも、俺はジェリーを疫病神だなんて思わない」
「――キリアン」
「ジェリーはすごい。たくさん努力をしているし、優しい。お前のように罵詈雑言を吐き捨てるしか能のないやつはジェリーの足元にも及ばない」

 キリアンの言葉は、まるで挑発だった。

 兄さんが顔を真っ赤にしている。まさか、自分が攻撃されるとは思っていなかったんだろう。

「お、お前がどういう立場なのかは知らないが! 俺はデルリーン商会の――」
「あーはいはい。お二人さん、そこまでにして」

 エカードさんが手をぱんぱんとたたいて割り込んだ。

 彼の口調はいつも通りの穏やかなものだったけど、トーンは少し低いだろうか。

「こんなところで口論とか、やめてくれ。――王子殿下の前で見苦しい」

 シデリス殿下を一瞥して、エカードさんが言う。シデリス殿下は少しして「ふむ、苦しゅうない」と言って胸を張った。

 シデリス殿下が兄さんのほうに一歩を踏み出す。

「人を貶すのはいいが、キミ自身は一体なにをしたというんだ? どうせ、親から引き継いだ商会を経営しているだけだろう」
「そ、それはっ――」
「偉そうにするのは、キミ自身がなにかを成し遂げてからのほうが、いいと思うがな」

 目を細めたシデリス殿下の言葉を聞いて、兄さんは唇を噛んだ。かと思えば、男の子を連れて馬車のほうに戻っていく。

「最後に言っておきますが、ジェリーは本当に不気味なやつですよ! ――後悔しても、知りませんから」

 言葉を残した兄さんは、慌ただしくも馬車を走らせていく。

 見る見るうちに遠のいていくデルリーン商会の馬車。馬車を見送った僕は、その場に崩れ落ちていた。
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