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第1部 第5章 違和感と謎の人
⑧
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翌日。僕たちは話し合った結果、街で情報収集をすることにした。
エカードさんやシデリス殿下との合流には少し時間がかかるそう。だから、なにかすることを考えて、やっぱり情報収集が大切だという結論にいたったのだ。
「平和そのものだねぇ」
キリアンと並んで街を歩いて、僕は小さくつぶやいた。隣を歩くキリアンも「あぁ」と同意してくれる。
「こうしていると、デートしてるみたいだしな」
ただ、キリアンが続けた言葉に僕はむせてしまいそうになる。
この人真顔でなに言ってるの!?
「デート?」
「違うのか?」
違う違う絶対に違う!
――なんて言えるわけもなく、僕はあいまいに笑ってごまかしてみる。キリアンはきょとんとしているだけだ。
「デートだったら、もっと密着したほうがいいかもな」
思いついたようにキリアンが零して、僕の肩を抱き寄せる。僕の頭がキリアンの肩に当たって、身長差を思い知らされた。
僕がいろいろと考えていると、キリアンが立ち止まる。
「あそこにでも入ってみるか」
キリアンが指で示したのは、大衆食堂のような場所だ。確かに情報収集にはいいかもしれない。
「丁度昼だし、たくさん人はいるだろ。俺も腹減ったし」
と、言う彼だけど。
(朝どれだけ食べたと思ってるの……)
軽く僕の三倍くらい食べてたよね? なのに、もうお腹空いたの?
「本当、キリアンって大食いだよね」
僕がぽつりと零した言葉を聞いたキリアンは、「そうか?」と小首をかしげていた。
まぁ、勇者さんだから仕方がないのかも――って、どういう理屈なんだろうか、それは。
大衆食堂に入ると、中から女性の「いらっしゃい!」という元気のいい声が聞こえてきた。
食堂内は相席になっているようで、僕たちは空いている席にそれぞれ腰掛けた。目の前には職人らしき男性が三人いる。
お水を持ってきた女性についでに注文を聞いてもらって、僕はお水を口に運ぶ。
「よぉ、兄ちゃん。ここら辺じゃ見ない顔だな」
三人組の中の一番で一番小柄な人がキリアンに声をかける。キリアンは無愛想にもうなずく。
「俺とこいつは旅をしているんだ」
キリアンが僕を一瞥して言う。僕はぺこりと頭を下げた。
「こんな辺境までご苦労なこったねぇ。なんにもない街だが、楽しんで行ってくれよ」
どうやらもうお酒が入っているらしい。彼らは口々に僕とキリアンに質問をしてくる。
さて、どう本題に入ろうか。……いい加減話題を変えたほうがいいよね?
「俺たち王都から来たんですが、ここら辺の治安とかって、どうなってます?」
キリアンがいきなり話題を変えた。
男性たちは少し驚いたみたいだけど、深く考えはしなかったようだ。顔を見合わせて、けらけらと笑う。
「治安とかはいいよ。王都のほうがよっぽど物騒だ」
「魔物の被害も滅多なことではないしな!」
一番大柄な男性は笑いながらジョッキをぐいっと傾けた。
(魔物の被害は、滅多なことではないの?)
やっぱり話が違う。
「その、王都のほうでは辺境って魔物の被害がすごいっていううわさが出回ってるんですけど――」
「なんだそれは。魔物の被害なんて、年に一回あるかないかだよ。農作物の被害は確かにいくつかあるが、人が襲われたなんて事例はそんなもんさ」
彼の言葉に僕とキリアンは顔を見合わせていた。
(クレメンスさんが、嘘をついているっていうことだよね?)
もしくは、彼の部下なのか――。
(一体なんの目的で魔物退治をしようなんて思ったんだろう)
無駄な退治は生態系を壊す以上に、魔族との間に争いの種を生む。
あちらが先に手を出してきたならばまだしも、この状態だと人間側が手を出したことになりかねない。
(クレメンスさんにはなにかの狙いがあるの? 魔族と人間を争わせたいの?)
考えても僕にはわからなかった。
せめてここに師匠がいてくれたら――って思ってしまって、やめた。
いつまでも師匠に頼りっぱなしだと、ダメだろうから。
エカードさんやシデリス殿下との合流には少し時間がかかるそう。だから、なにかすることを考えて、やっぱり情報収集が大切だという結論にいたったのだ。
「平和そのものだねぇ」
キリアンと並んで街を歩いて、僕は小さくつぶやいた。隣を歩くキリアンも「あぁ」と同意してくれる。
「こうしていると、デートしてるみたいだしな」
ただ、キリアンが続けた言葉に僕はむせてしまいそうになる。
この人真顔でなに言ってるの!?
「デート?」
「違うのか?」
違う違う絶対に違う!
――なんて言えるわけもなく、僕はあいまいに笑ってごまかしてみる。キリアンはきょとんとしているだけだ。
「デートだったら、もっと密着したほうがいいかもな」
思いついたようにキリアンが零して、僕の肩を抱き寄せる。僕の頭がキリアンの肩に当たって、身長差を思い知らされた。
僕がいろいろと考えていると、キリアンが立ち止まる。
「あそこにでも入ってみるか」
キリアンが指で示したのは、大衆食堂のような場所だ。確かに情報収集にはいいかもしれない。
「丁度昼だし、たくさん人はいるだろ。俺も腹減ったし」
と、言う彼だけど。
(朝どれだけ食べたと思ってるの……)
軽く僕の三倍くらい食べてたよね? なのに、もうお腹空いたの?
「本当、キリアンって大食いだよね」
僕がぽつりと零した言葉を聞いたキリアンは、「そうか?」と小首をかしげていた。
まぁ、勇者さんだから仕方がないのかも――って、どういう理屈なんだろうか、それは。
大衆食堂に入ると、中から女性の「いらっしゃい!」という元気のいい声が聞こえてきた。
食堂内は相席になっているようで、僕たちは空いている席にそれぞれ腰掛けた。目の前には職人らしき男性が三人いる。
お水を持ってきた女性についでに注文を聞いてもらって、僕はお水を口に運ぶ。
「よぉ、兄ちゃん。ここら辺じゃ見ない顔だな」
三人組の中の一番で一番小柄な人がキリアンに声をかける。キリアンは無愛想にもうなずく。
「俺とこいつは旅をしているんだ」
キリアンが僕を一瞥して言う。僕はぺこりと頭を下げた。
「こんな辺境までご苦労なこったねぇ。なんにもない街だが、楽しんで行ってくれよ」
どうやらもうお酒が入っているらしい。彼らは口々に僕とキリアンに質問をしてくる。
さて、どう本題に入ろうか。……いい加減話題を変えたほうがいいよね?
「俺たち王都から来たんですが、ここら辺の治安とかって、どうなってます?」
キリアンがいきなり話題を変えた。
男性たちは少し驚いたみたいだけど、深く考えはしなかったようだ。顔を見合わせて、けらけらと笑う。
「治安とかはいいよ。王都のほうがよっぽど物騒だ」
「魔物の被害も滅多なことではないしな!」
一番大柄な男性は笑いながらジョッキをぐいっと傾けた。
(魔物の被害は、滅多なことではないの?)
やっぱり話が違う。
「その、王都のほうでは辺境って魔物の被害がすごいっていううわさが出回ってるんですけど――」
「なんだそれは。魔物の被害なんて、年に一回あるかないかだよ。農作物の被害は確かにいくつかあるが、人が襲われたなんて事例はそんなもんさ」
彼の言葉に僕とキリアンは顔を見合わせていた。
(クレメンスさんが、嘘をついているっていうことだよね?)
もしくは、彼の部下なのか――。
(一体なんの目的で魔物退治をしようなんて思ったんだろう)
無駄な退治は生態系を壊す以上に、魔族との間に争いの種を生む。
あちらが先に手を出してきたならばまだしも、この状態だと人間側が手を出したことになりかねない。
(クレメンスさんにはなにかの狙いがあるの? 魔族と人間を争わせたいの?)
考えても僕にはわからなかった。
せめてここに師匠がいてくれたら――って思ってしまって、やめた。
いつまでも師匠に頼りっぱなしだと、ダメだろうから。
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