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第1部 第5章 違和感と謎の人
⑪
言葉の意味を理解するのに数秒を要した。
トリスタンさんと僕たちの間に暴風が吹き抜ける。思わず目を瞑って、次に目を開けると彼の雰囲気ががらりと変わっていた。
他者を寄せ付けない圧倒的な強者。
今の彼の雰囲気を表すにはそれだけで十分だ。
「――魔王!」
なにかあったときのためなのか、いつでも剣を引き抜ける体勢をとるキリアン。
「ジェリーを傷つけたら容赦しない」
地を這うような低い声でキリアンが宣言する。
まるで僕たち三人だけが周りから切り離されているみたいだった。周囲の人たちは僕たちの空気を気にも留めない。
「別に私はジェリーを傷つけるつもりはない。ただ、一つだけ教えてほしい。――お前はジェリーを愛しているのか?」
トリスタンさんがキリアンを見つめる。じっと見つめる目には真剣な色が宿っているようだった。
僕を背後に隠し、キリアンが大きくうなずいたのがわかった。
「あぁ、俺はジェリーを愛している。責任を取って結婚するとも決めている」
「勝手に結婚まで決めないで!」
口を挟むべきではない。わかっていたけど、どうしても口を挟まなきゃダメだった。
だって、このままだと僕、完全にキリアンのお嫁さんになることが確定しちゃう。
「ふぅむ。そうか。だが、当のジェリーはこう言っているようだが?」
「だったら、今から振り向かせるだけだ。俺なしじゃ生きていけない身体にしてやる」
キリアンは真剣な表情だけど、僕からしたらたまったもんじゃない。
どうして勝手に僕の身体を変える宣言をするの! 勘弁してよ!
「では、問いかけを変えよう。お前はジェリーの正体がなんであれ、愛せるのか?」
風が僕たちの間を吹き抜ける。先ほどのような暴風ではなく、優しい風のはずなのに。
どこか冷たくて、刃物のような風だった。
「もしも愛せないのならば、思い上がるな。お前はジェリーに相応しくない」
目元を吊り上げたトリスタンさん。表情、迫力。さすがは魔王というべきなのか、すごい。
僕が息を呑む。キリアンはじっとトリスタンさんを見据えている。
「ジェリー」
トリスタンさんが僕の名前を呼んだ。そして、僕のほうに手を伸ばす。頬を撫でる指先は人間味がなくて、氷のように冷たい。
「私はキミを守りたい。キミはここにいるべきじゃない。このまま悪意の中に置くくらいならば、私が助ける」
じっと見つめ合う。僕の喉が鳴る。トリスタンさんは指を僕の頬から、移動させた。
喉元に触れたかと思うと、僕の皮膚を長い爪で引っかいた。小さな痛みに顔をしかめてしまう。
「私を信じてくれ。キミを守る。打算や悪意から、私なら守ることができる」
彼の言葉はまるで麻薬だ。僕の脳髄をしびれさせ、冷静な思考を奪っていく。
(どうして、そこまで)
どうして彼は僕を守ろうとするのだろうか。
彼と僕は深く関わっていないというのに。
僕がトリスタンさんに手を伸ばそうとした。そのとき、その手を引っ張られる。
「ジェリー、魔王の元になんて行くな」
身体をぎゅううっと抱きしめられ、すがるようにささやかれた。
――キリアンだった。
「魔王なんかに頼らなくていい。俺が守る。俺がずっと、お前を大切にする」
「キリアン」
「だから、俺を捨てるな。俺の側にいてくれ。俺にはお前しかいない」
身体が苦しい。キリアンの言葉が脳髄のしびれを取り除いていく。
僕を愛してくれている。この人は、間違いなく――。
「魔王、俺はジェリーがなんであれ、愛する。俺はジェリーを絶対に守ると誓う」
キリアンはトリスタンさんに向かって宣言する。
二人の視線が絡み合って、時間が止まったみたいだった。
「まったく、どんな運命のめぐりあわせなんだろうな。魔族を滅ぼすために選ばれた勇者が、魔族の子を愛するなどな」
トリスタンさんと僕たちの間に暴風が吹き抜ける。思わず目を瞑って、次に目を開けると彼の雰囲気ががらりと変わっていた。
他者を寄せ付けない圧倒的な強者。
今の彼の雰囲気を表すにはそれだけで十分だ。
「――魔王!」
なにかあったときのためなのか、いつでも剣を引き抜ける体勢をとるキリアン。
「ジェリーを傷つけたら容赦しない」
地を這うような低い声でキリアンが宣言する。
まるで僕たち三人だけが周りから切り離されているみたいだった。周囲の人たちは僕たちの空気を気にも留めない。
「別に私はジェリーを傷つけるつもりはない。ただ、一つだけ教えてほしい。――お前はジェリーを愛しているのか?」
トリスタンさんがキリアンを見つめる。じっと見つめる目には真剣な色が宿っているようだった。
僕を背後に隠し、キリアンが大きくうなずいたのがわかった。
「あぁ、俺はジェリーを愛している。責任を取って結婚するとも決めている」
「勝手に結婚まで決めないで!」
口を挟むべきではない。わかっていたけど、どうしても口を挟まなきゃダメだった。
だって、このままだと僕、完全にキリアンのお嫁さんになることが確定しちゃう。
「ふぅむ。そうか。だが、当のジェリーはこう言っているようだが?」
「だったら、今から振り向かせるだけだ。俺なしじゃ生きていけない身体にしてやる」
キリアンは真剣な表情だけど、僕からしたらたまったもんじゃない。
どうして勝手に僕の身体を変える宣言をするの! 勘弁してよ!
「では、問いかけを変えよう。お前はジェリーの正体がなんであれ、愛せるのか?」
風が僕たちの間を吹き抜ける。先ほどのような暴風ではなく、優しい風のはずなのに。
どこか冷たくて、刃物のような風だった。
「もしも愛せないのならば、思い上がるな。お前はジェリーに相応しくない」
目元を吊り上げたトリスタンさん。表情、迫力。さすがは魔王というべきなのか、すごい。
僕が息を呑む。キリアンはじっとトリスタンさんを見据えている。
「ジェリー」
トリスタンさんが僕の名前を呼んだ。そして、僕のほうに手を伸ばす。頬を撫でる指先は人間味がなくて、氷のように冷たい。
「私はキミを守りたい。キミはここにいるべきじゃない。このまま悪意の中に置くくらいならば、私が助ける」
じっと見つめ合う。僕の喉が鳴る。トリスタンさんは指を僕の頬から、移動させた。
喉元に触れたかと思うと、僕の皮膚を長い爪で引っかいた。小さな痛みに顔をしかめてしまう。
「私を信じてくれ。キミを守る。打算や悪意から、私なら守ることができる」
彼の言葉はまるで麻薬だ。僕の脳髄をしびれさせ、冷静な思考を奪っていく。
(どうして、そこまで)
どうして彼は僕を守ろうとするのだろうか。
彼と僕は深く関わっていないというのに。
僕がトリスタンさんに手を伸ばそうとした。そのとき、その手を引っ張られる。
「ジェリー、魔王の元になんて行くな」
身体をぎゅううっと抱きしめられ、すがるようにささやかれた。
――キリアンだった。
「魔王なんかに頼らなくていい。俺が守る。俺がずっと、お前を大切にする」
「キリアン」
「だから、俺を捨てるな。俺の側にいてくれ。俺にはお前しかいない」
身体が苦しい。キリアンの言葉が脳髄のしびれを取り除いていく。
僕を愛してくれている。この人は、間違いなく――。
「魔王、俺はジェリーがなんであれ、愛する。俺はジェリーを絶対に守ると誓う」
キリアンはトリスタンさんに向かって宣言する。
二人の視線が絡み合って、時間が止まったみたいだった。
「まったく、どんな運命のめぐりあわせなんだろうな。魔族を滅ぼすために選ばれた勇者が、魔族の子を愛するなどな」
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