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第1部 第6章 嘘と傷痕、そして墓標
⑦
僕はトリスタンさんから視線を逸らした。彼は僕の髪の毛に触れた。優しい手つきに、涙腺が緩んだ気がする。
「私は償いとして、たびたびここを訪れる。ここはラモントが生きた証だと信じているからだ」
「……トリスタンさんは、人間が嫌いですか?」
突拍子もない問いかけだとわかっていた。でも、知りたかった。
僕の言葉に彼は一瞬驚いたようだけど、穏やかに微笑む。
「私は人間とは友好……とまではいかなくても、持ちつ持たれつの関係を築きたいと思っている。だが、人間とは私の想像をはるかに超えるほど、醜くてもろかったんだ」
彼がかがむ。トリスタンさんと僕の視線が交わった。
「キミはラモントの忘れ形見だ。あいつの子なんだ」
「……僕は、魔族と人間のハーフ、ですか」
「あぁ、そうだよ。だからキミには強大な魔力があるんだよ」
そういえば、師匠もよく言っていた。僕の魔力の量は人間としては異常だと。
(師匠は気づいてたんだよね。それでも、僕のことを側においてくれたんだ)
あの鋭い師匠のことだ。僕の中に魔族の血が混じっていることに、気づいていたはず。
そのうえで、僕にはなにも言わなかった。そして、側においてくれた。
「これは私の自己満足でしかない。だが、言わせてほしい。ジェリー、私はキミを守りたいんだ」
彼の手が僕の肩をつかんだ。強い力はすがっているみたいで、僕には振り払うことができない。
「危険から引き離したい。キミを傷つけるもののすべてから、守ってやりたいんだ」
「……トリスタンさん」
「――私の側においで。必要なら、キミを傷つけるやつらをすべて消したっていいんだよ」
僕の肩をつかむ手は、震えていた。身体をがくがくと揺らされる。僕はなにも言わずに、うつむいていた。
(確かに、僕は今までたくさん傷ついたよ。育ての親はひどい人だったし、僕は必要ない存在だって思ってたんだ)
けど、それは――。
「僕は今までたくさん傷つきました。たくさんたくさん傷ついて、傷がない場所なんてないんじゃないかっていうくらい」
「ジェリー」
「でも、僕を守ってくれた人もいるんです」
師匠は僕を守ってくれた。生きる術を教えてくれた。
「それに、僕は……簡単にあなたの元に行くことはできない」
うすうす気づいている。トリスタンさんの元に行くということは、ここで築いたものをすべて捨てることにつながるのだと。
彼の元に行ったら、僕が傷つくことはないだろう。大切に大切に、守ってくれるはず。
……だけど、今の僕にはそれでは物足りない。
(やっと友人ができたんだよ。師匠以外にも気を許せる人ができたんだ。……それに、キリアンだって)
僕の頭の中にキリアンのいろんな表情が浮かぶ。
僕はキリアンと一緒にいたい。……彼が嫌がっても、一緒にいたい。
「ずっとほしかったものが、最近手に入ったんです」
一緒に笑い合える友人が欲しかった。僕を愛してくれる人が欲しかった。
「だから、その。トリスタンさんの提案はありがたいんですけど、無理です」
首を横に振る。トリスタンさんはなにも言わずに、静かに僕の肩から手を離した。
「キミだって知っているだろう。この世界は残酷だ。異質だと認識したものを、徹底的に排除してくる」
「だったとしても……僕は」
言葉が続かなかった。僕はなにが言いたいのだろうか。
「すぐに答えを出せというほうが、酷だったな。しばらく時間をおこう。頭を冷やしたほうが、冷静な判断ができる」
そりゃあ、二人ともヒートアップしている部分はある。……ただ、いくら待っても僕の答えは変わらない。
「大切なジェリーを守りたい。……この気持ちだけは、今、理解しておいてほしいんだ」
「……はい」
「どうか、わかっておくれ」
彼が僕の前髪を掻きあげて、額にキスを落とす。
冷たい唇の感触に、彼が人間ではないということを思い知らされる。
「私は償いとして、たびたびここを訪れる。ここはラモントが生きた証だと信じているからだ」
「……トリスタンさんは、人間が嫌いですか?」
突拍子もない問いかけだとわかっていた。でも、知りたかった。
僕の言葉に彼は一瞬驚いたようだけど、穏やかに微笑む。
「私は人間とは友好……とまではいかなくても、持ちつ持たれつの関係を築きたいと思っている。だが、人間とは私の想像をはるかに超えるほど、醜くてもろかったんだ」
彼がかがむ。トリスタンさんと僕の視線が交わった。
「キミはラモントの忘れ形見だ。あいつの子なんだ」
「……僕は、魔族と人間のハーフ、ですか」
「あぁ、そうだよ。だからキミには強大な魔力があるんだよ」
そういえば、師匠もよく言っていた。僕の魔力の量は人間としては異常だと。
(師匠は気づいてたんだよね。それでも、僕のことを側においてくれたんだ)
あの鋭い師匠のことだ。僕の中に魔族の血が混じっていることに、気づいていたはず。
そのうえで、僕にはなにも言わなかった。そして、側においてくれた。
「これは私の自己満足でしかない。だが、言わせてほしい。ジェリー、私はキミを守りたいんだ」
彼の手が僕の肩をつかんだ。強い力はすがっているみたいで、僕には振り払うことができない。
「危険から引き離したい。キミを傷つけるもののすべてから、守ってやりたいんだ」
「……トリスタンさん」
「――私の側においで。必要なら、キミを傷つけるやつらをすべて消したっていいんだよ」
僕の肩をつかむ手は、震えていた。身体をがくがくと揺らされる。僕はなにも言わずに、うつむいていた。
(確かに、僕は今までたくさん傷ついたよ。育ての親はひどい人だったし、僕は必要ない存在だって思ってたんだ)
けど、それは――。
「僕は今までたくさん傷つきました。たくさんたくさん傷ついて、傷がない場所なんてないんじゃないかっていうくらい」
「ジェリー」
「でも、僕を守ってくれた人もいるんです」
師匠は僕を守ってくれた。生きる術を教えてくれた。
「それに、僕は……簡単にあなたの元に行くことはできない」
うすうす気づいている。トリスタンさんの元に行くということは、ここで築いたものをすべて捨てることにつながるのだと。
彼の元に行ったら、僕が傷つくことはないだろう。大切に大切に、守ってくれるはず。
……だけど、今の僕にはそれでは物足りない。
(やっと友人ができたんだよ。師匠以外にも気を許せる人ができたんだ。……それに、キリアンだって)
僕の頭の中にキリアンのいろんな表情が浮かぶ。
僕はキリアンと一緒にいたい。……彼が嫌がっても、一緒にいたい。
「ずっとほしかったものが、最近手に入ったんです」
一緒に笑い合える友人が欲しかった。僕を愛してくれる人が欲しかった。
「だから、その。トリスタンさんの提案はありがたいんですけど、無理です」
首を横に振る。トリスタンさんはなにも言わずに、静かに僕の肩から手を離した。
「キミだって知っているだろう。この世界は残酷だ。異質だと認識したものを、徹底的に排除してくる」
「だったとしても……僕は」
言葉が続かなかった。僕はなにが言いたいのだろうか。
「すぐに答えを出せというほうが、酷だったな。しばらく時間をおこう。頭を冷やしたほうが、冷静な判断ができる」
そりゃあ、二人ともヒートアップしている部分はある。……ただ、いくら待っても僕の答えは変わらない。
「大切なジェリーを守りたい。……この気持ちだけは、今、理解しておいてほしいんだ」
「……はい」
「どうか、わかっておくれ」
彼が僕の前髪を掻きあげて、額にキスを落とす。
冷たい唇の感触に、彼が人間ではないということを思い知らされる。
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