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第2章
最悪だ! 3
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目の前に置かれた、朝食。それをぼうっと見つめて、顔を上げる。亜玲は、俺のことを見て笑っていた。
「食べないの?」
ニコニコと笑って、亜玲がそう問いかけてくる。……正直、腹は減っている。でも、どうしてこんなことになったのかと思うと、食べる気になんてならなかった。
「……亜玲」
亜玲のことを呼ぶ。奴はきょとんとしつつも、トーストをかじっていた。食事の姿も様になるのだから、美形とは本当に得な生き物だ。平々凡々な俺に、その顔の良さを少し分けてほしい。
「お前は、どういうつもりなんだよ」
端的にそう問いかけた。俺の問いかけを聞いて、亜玲がきょとんと小首をかしげる。……わかっているくせに。
「お前は、いつだって俺の恋人を寝取った」
「……寝取ったっていうのは心外だけれど、まぁ、そういうことになるのかな」
亜玲はあっさりと俺の言葉を認めた。だから、余計に腹が立つ。
「なのに、お前は俺のことを抱いた。……これって、おかしいだろ」
目つきを鋭くして、亜玲を見つめる。寝取るのは、俺が嫌いだから。抱くのも、俺が嫌いだから。そう思えればいいのに、そう思えなかった。まるで、別の感情が亜玲を動かしているような。そんな気さえ、してしまう。
「なにがおかしいの?」
コーヒーを一口飲んだ亜玲が、俺を見つめてそう言葉を投げつけてきた。
「祈の恋人を奪うのも、祈を抱くのも。元はといえば、同じ感情からの行動なのに」
つまり、俺が嫌いだから、か……。
(俺、そこまで亜玲に恨まれるようなことしたっけな……)
確かにひどい言葉は浴びせたかもしれない。けれど、なにもここまでしなくても……と、思う気持ちがあって。
俺は、亜玲の顔を見つめてぐっと唇をかみしめていた。
「……ねぇ、祈」
目の前に座る亜玲が、俺のほうに手を伸ばして、頬を撫でた。するりと撫でられて、背筋がぞわぞわとする。
「多分、俺と祈が考えている感情は違うと思うんだよ」
「……は?」
「祈は、俺が祈のことを嫌いだから嫌がらせとして抱いて、嫌がらせとして恋人を奪っているって、思ってる」
亜玲のその言葉に、首を縦に振る。むしろ、それ以外なにも考えられないじゃないか。そういう意味を込めた視線を、亜玲に送った。亜玲は、笑っていた。
「でも、残念だね。……俺は、祈のことが嫌いじゃないんだよ」
頬杖を突いて、亜玲が笑う。その笑みはとても美しくて、かつ妖艶だった。色気をたっぷりと孕んだと、言えばいいのか。まぁ、とにかく。身体の奥底がきゅんとするような、魅力的な笑みだ。
「……じゃあ、大嫌いなのか。それとも、憎んでいるのか」
嫌いじゃないっていうことは、そういうことなのだろう。憎まれるほどのことは、した覚えがない。が、無意識のうちに、もしかしたら……。
「はははっ、どうしてそうなるの?」
突如、亜玲が笑った。腹を抱えて笑いだして、俺はなんと反応すればいいかわからなくて。結局、きょとんとしてしまう。亜玲は、おかしいとばかりに目元を拭った。笑いすぎたからなのか、目元には微かに涙が浮かんでいる。
「祈、自己評価低すぎだよ。……ちょっと、こっちにおいで」
そう言って、亜玲は両手を広げた。……なんだ、これ。
(抱きしめてやるって、ことなのか……?)
いやいや、それはないだろ!
自分で想像して、自分で即否定。だけど、さすがに亜玲の手が疲れるだろうと思って、そちらに寄る。
もしかしたらだけれど、身体をつなげたことで亜玲への嫌悪感が減っているのかも……なんて。
(いや、違う。単に、キスで殺すとかこいつが言うから……!)
そうだ。これは、自分の身を守るためだ。自分自身にそう言い聞かせて、亜玲に近づく。奴は、俺の手首を引っ張って自身の腕の中に閉じ込めてしまった。
「……可愛い俺の祈。……きちんと、聞くんだよ」
「……あぁ」
そこまで言って、亜玲が俺の耳元に唇を近づけた。
「俺は、祈りがだーいすきなの。俺だけのものにしたい。ずっと、そう思っているんだよ?」
「食べないの?」
ニコニコと笑って、亜玲がそう問いかけてくる。……正直、腹は減っている。でも、どうしてこんなことになったのかと思うと、食べる気になんてならなかった。
「……亜玲」
亜玲のことを呼ぶ。奴はきょとんとしつつも、トーストをかじっていた。食事の姿も様になるのだから、美形とは本当に得な生き物だ。平々凡々な俺に、その顔の良さを少し分けてほしい。
「お前は、どういうつもりなんだよ」
端的にそう問いかけた。俺の問いかけを聞いて、亜玲がきょとんと小首をかしげる。……わかっているくせに。
「お前は、いつだって俺の恋人を寝取った」
「……寝取ったっていうのは心外だけれど、まぁ、そういうことになるのかな」
亜玲はあっさりと俺の言葉を認めた。だから、余計に腹が立つ。
「なのに、お前は俺のことを抱いた。……これって、おかしいだろ」
目つきを鋭くして、亜玲を見つめる。寝取るのは、俺が嫌いだから。抱くのも、俺が嫌いだから。そう思えればいいのに、そう思えなかった。まるで、別の感情が亜玲を動かしているような。そんな気さえ、してしまう。
「なにがおかしいの?」
コーヒーを一口飲んだ亜玲が、俺を見つめてそう言葉を投げつけてきた。
「祈の恋人を奪うのも、祈を抱くのも。元はといえば、同じ感情からの行動なのに」
つまり、俺が嫌いだから、か……。
(俺、そこまで亜玲に恨まれるようなことしたっけな……)
確かにひどい言葉は浴びせたかもしれない。けれど、なにもここまでしなくても……と、思う気持ちがあって。
俺は、亜玲の顔を見つめてぐっと唇をかみしめていた。
「……ねぇ、祈」
目の前に座る亜玲が、俺のほうに手を伸ばして、頬を撫でた。するりと撫でられて、背筋がぞわぞわとする。
「多分、俺と祈が考えている感情は違うと思うんだよ」
「……は?」
「祈は、俺が祈のことを嫌いだから嫌がらせとして抱いて、嫌がらせとして恋人を奪っているって、思ってる」
亜玲のその言葉に、首を縦に振る。むしろ、それ以外なにも考えられないじゃないか。そういう意味を込めた視線を、亜玲に送った。亜玲は、笑っていた。
「でも、残念だね。……俺は、祈のことが嫌いじゃないんだよ」
頬杖を突いて、亜玲が笑う。その笑みはとても美しくて、かつ妖艶だった。色気をたっぷりと孕んだと、言えばいいのか。まぁ、とにかく。身体の奥底がきゅんとするような、魅力的な笑みだ。
「……じゃあ、大嫌いなのか。それとも、憎んでいるのか」
嫌いじゃないっていうことは、そういうことなのだろう。憎まれるほどのことは、した覚えがない。が、無意識のうちに、もしかしたら……。
「はははっ、どうしてそうなるの?」
突如、亜玲が笑った。腹を抱えて笑いだして、俺はなんと反応すればいいかわからなくて。結局、きょとんとしてしまう。亜玲は、おかしいとばかりに目元を拭った。笑いすぎたからなのか、目元には微かに涙が浮かんでいる。
「祈、自己評価低すぎだよ。……ちょっと、こっちにおいで」
そう言って、亜玲は両手を広げた。……なんだ、これ。
(抱きしめてやるって、ことなのか……?)
いやいや、それはないだろ!
自分で想像して、自分で即否定。だけど、さすがに亜玲の手が疲れるだろうと思って、そちらに寄る。
もしかしたらだけれど、身体をつなげたことで亜玲への嫌悪感が減っているのかも……なんて。
(いや、違う。単に、キスで殺すとかこいつが言うから……!)
そうだ。これは、自分の身を守るためだ。自分自身にそう言い聞かせて、亜玲に近づく。奴は、俺の手首を引っ張って自身の腕の中に閉じ込めてしまった。
「……可愛い俺の祈。……きちんと、聞くんだよ」
「……あぁ」
そこまで言って、亜玲が俺の耳元に唇を近づけた。
「俺は、祈りがだーいすきなの。俺だけのものにしたい。ずっと、そう思っているんだよ?」
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