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第3章

ライバル登場? 1

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 あれから数日が経ち。その日、俺は大学内の食堂で昼食を摂っていた。

 目の前には苦笑を浮かべる先輩がいる。先輩は水を一口飲んだ後、「で、進展あったか?」と問いかけてきた。

 ……どう、言おうか。

(なんていうか、時間が経つにつれ冷静になったんだよな……)

 頭を抱えて、項垂れる。あの日以来先輩とは予定が合わず、亜玲と話をしてから初めて対面している状態だったりもする。

 先輩は少し心配そうに眉を下げて、俺を見つめてきた。……素直に言いにくい。

「えぇっと、ですね、まぁ、その……」
「……あぁ」

 先輩の視線が俺を射貫く。

 しばらくもごもごと口を動かしていたものの、もうなるようになれと思った。

「生々しい話、いいですか?」
「……まぁ、小声でなら」
「……亜玲と、身体の関係を、持ちました……」

 目を逸らして、先輩の視線から逃れる。……先輩は、なにも言わなかった。多分、唖然としているんだと思う。

「あ、亜玲、俺のことずっと好きだったって……その、言ってて」

 いたたまれなくなって、必死に言葉を紡ぐ。言い訳じみた言葉を並べる。

「なんていうか、亜玲って、思ったよりも悪い奴じゃないんじゃないかって……」

 しどろもどろだ。自分でもなにを言っているのかがわからない。しまいには「すみません」と言って頭を下げることしか出来なかった。……先輩は、相変わらずなにも言わなかった。

「……祈」

 先輩が口を開いて、俺の顔を見つめる。先輩は、真剣な面持ちだった。
「祈がそう思うのは、自由だ。……外野がどうこう言う問題じゃない」

「……はい」
「でも、僕の立場からすれば、祈は流されやすい。……その感情は、本当に祈のものか?」

 それは、本当に外野がどうこうとかそういう意味じゃなかったのだろう。先輩は、ただ純粋に俺のことを心配してくれている。だから、俺は視線を下げた。

「もしも、祈が流されているだけなんだったら……僕は、多分上月を許せそうにない」

 少し不機嫌そうな声。……先輩のこういう声は、レアだなぁ。なんて、何処となく他人事のように思って。俺は、考える。

 亜玲へ向ける俺の感情は、一体なんなのだろうか。もしかしたら、先輩の言う通り流されているだけなのかもしれない。

(昔を思い出して、同情してるのか? それとも、本当に流されて……)

 身体をつなげたから、見捨てられないとか。そういうことも考えられる。

 ……正直なところ、頭の中がめちゃくちゃだ。

「あのな、僕は意地悪で言っているわけじゃないんだよ。……祈の、幸せを」
「……わかってます」

 先輩の心配は、わかっている。亜玲のことを今まで散々相談してきたのだ。きっと、いや、間違いなく。俺以上に俺のことをわかってくれていて、幸せを望んでくれている人だ。先輩は、そういう人だから。

「もう、正直わかんないんです。……亜玲へ向ける感情とか、考えれば考えるほど頭の中がぐちゃぐちゃで……」

 ゆるゆると頭を横に振ってそう零す。……先輩は、俺の頭を優しく撫でていた。

「悪い、僕が焦らせるようなことを言ったよね。……焦って答えを出す問題じゃないから。今は、ゆっくりと考えて」
「……先輩」
「……後悔なんてしても、辛いだけだ」

 まるで、なにか強い後悔をしたことがあるような口調だった。それを問いかけるように先輩の顔を見つめれば、先輩はふっと口元を緩めていた。なんとなく、寂しそうだ。

「……本当、なんていうか祈は鈍いな」
「……なんですか、それ」

 けれどまぁ、どうしてそんな話になるのだろうか?

 きょとんとしつつ先輩を見つめる。先輩は、肩をすくめるだけだった。

「悪いけれど、先に行くね。僕、ちょっと教授に呼ばれてて」
「あ、はい……」

 どうやら、先輩も忙しいのに俺の話を真剣に聞いてくれていたみたいだった。……素直に、ありがたく思う。
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