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第4章
⑭
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数日後。俺はポエミの店先で配達のための荷造りをしていた。
花を積み終えると、配達先と品物をもう一度確認。間違いはない。
「じゃあ、行ってきます!」
店の奥に声をかけて、品物の入った籠を背負う。
「気を付けるんだよ」
ナイムさんの返事を聞いて、俺は歩き出した。
配達は基本徒歩である。ゆえに、配達を請け負う地域は限定されている。
それに、王都にはたくさんの花屋がある。暗黙の了解として、一定の範囲外の配達は引き受けない――と、ナイムさんは言っていた。
(騎士団の建物って、ぎりぎり範囲内なんだよな)
だから、うちでも引き受けることができたらしい。
お得意さまの元を回りつつ、品物を届けていく。今日の配達先は四件。騎士団は範囲ギリギリなので、自然と最後になる。
(ルーは忙しいだろうし、会えるわけないよな)
そもそも、帰る場所が一緒なのだ。別に仕事中に会う必要なんてない。
でも、ちょっと顔を見たい。仕事中のルーをちらっと見るくらい、許してほしい。
騎士団の建物にたどり着く。騎士の一人を呼び止め、用件を話した。
「担当の者を呼んできますので、少々お待ちください」
彼は騎士の一礼をして、颯爽と建物内に入っていく。
手持無沙汰になった俺は、周囲を見渡してみた。
剣と剣がぶつかる甲高い音。叱責の声と大きな返事。なんだろうか。別世界に来たみたいに錯覚した。
「騎士は俺が想像するよりずっと、危険な仕事なんだよな」
だから、熱心に訓練をするし、厳しく注意をするのだ。些細なことが命取りになり、大けがの元となる。
ただの花屋のアルバイトのままだったら、縁のない世界だった。
「お待たせしました。担当の者の元まで案内します」
ぼうっとしていると、先ほどの騎士が戻ってきた。慌ててうなずくも、彼は気にした様子もなく俺を建物内に通してくれる。
「お、来た来た!」
俺を見て大きく手を振るのは、ほかでもないデヴィットさんだ。彼は入口の側にあるソファーに腰かけている。
あそこは来客に応対するためのスペースだろう。仕切りによっていくつかの空間に分けられている。
「配達大変じゃなかった? 品物預かるな」
デヴィットさんは品物を受け取って、側に待機していた少年に手渡す。少年は品物を受け取ると、頭を下げて立ち去った。
「こちらでも確認していますけど、一応確認してくださいね」
「うん、このあと確認するから大丈夫」
にこにこと笑ったデヴィットさんは、頬杖を突いた。唇の端をあげた仕草は、色っぽい。ただ、同時に嫌な予感が胸中に芽生えた。
「今お茶を準備させてるから、ちょっとゆっくりして行って。休むのも大切だろ?」
それはそうなんだけどデヴィットさんの場合、ほかに狙いがあるような気がしてならない。
彼はフレンドリーだ。しかし、薄気味悪さもあった。悪い意味ではないんだけど……。
デヴィットさんは俺が断るとは思っていないようだ。まぁ、断りはしないよ。
「じゃ、じゃあご厚意に甘えて……」
「うん、人の厚意は無下にするものじゃないからね」
これが純粋な厚意なのか、疑問は残る。だけど、彼が悪い人ではないことはわかっている。素直に受け入れよう。
俺の返事に、デヴィットさんは満足そうにうなずいた。そして、俺のほうに身を乗り出してくる。ぐるりと周囲を視線だけで確認する。
「団長とはいつから?」
直球な問いかけに、目を真ん丸にしてしまった。デヴィットさんは俺の態度に気にする様子もなく、言葉を続ける。
「俺の記憶にある限り、団長にそれっぽい人がいたことないんだよね。これでも情報網がそこら中にあるから、すぐに耳に入るはずなんだけど――」
「こ、怖いですね」
あいまいに笑うことしかできない。
だって、この人マジだから。嘘をついている風にはまったく見えなかったし。
花を積み終えると、配達先と品物をもう一度確認。間違いはない。
「じゃあ、行ってきます!」
店の奥に声をかけて、品物の入った籠を背負う。
「気を付けるんだよ」
ナイムさんの返事を聞いて、俺は歩き出した。
配達は基本徒歩である。ゆえに、配達を請け負う地域は限定されている。
それに、王都にはたくさんの花屋がある。暗黙の了解として、一定の範囲外の配達は引き受けない――と、ナイムさんは言っていた。
(騎士団の建物って、ぎりぎり範囲内なんだよな)
だから、うちでも引き受けることができたらしい。
お得意さまの元を回りつつ、品物を届けていく。今日の配達先は四件。騎士団は範囲ギリギリなので、自然と最後になる。
(ルーは忙しいだろうし、会えるわけないよな)
そもそも、帰る場所が一緒なのだ。別に仕事中に会う必要なんてない。
でも、ちょっと顔を見たい。仕事中のルーをちらっと見るくらい、許してほしい。
騎士団の建物にたどり着く。騎士の一人を呼び止め、用件を話した。
「担当の者を呼んできますので、少々お待ちください」
彼は騎士の一礼をして、颯爽と建物内に入っていく。
手持無沙汰になった俺は、周囲を見渡してみた。
剣と剣がぶつかる甲高い音。叱責の声と大きな返事。なんだろうか。別世界に来たみたいに錯覚した。
「騎士は俺が想像するよりずっと、危険な仕事なんだよな」
だから、熱心に訓練をするし、厳しく注意をするのだ。些細なことが命取りになり、大けがの元となる。
ただの花屋のアルバイトのままだったら、縁のない世界だった。
「お待たせしました。担当の者の元まで案内します」
ぼうっとしていると、先ほどの騎士が戻ってきた。慌ててうなずくも、彼は気にした様子もなく俺を建物内に通してくれる。
「お、来た来た!」
俺を見て大きく手を振るのは、ほかでもないデヴィットさんだ。彼は入口の側にあるソファーに腰かけている。
あそこは来客に応対するためのスペースだろう。仕切りによっていくつかの空間に分けられている。
「配達大変じゃなかった? 品物預かるな」
デヴィットさんは品物を受け取って、側に待機していた少年に手渡す。少年は品物を受け取ると、頭を下げて立ち去った。
「こちらでも確認していますけど、一応確認してくださいね」
「うん、このあと確認するから大丈夫」
にこにこと笑ったデヴィットさんは、頬杖を突いた。唇の端をあげた仕草は、色っぽい。ただ、同時に嫌な予感が胸中に芽生えた。
「今お茶を準備させてるから、ちょっとゆっくりして行って。休むのも大切だろ?」
それはそうなんだけどデヴィットさんの場合、ほかに狙いがあるような気がしてならない。
彼はフレンドリーだ。しかし、薄気味悪さもあった。悪い意味ではないんだけど……。
デヴィットさんは俺が断るとは思っていないようだ。まぁ、断りはしないよ。
「じゃ、じゃあご厚意に甘えて……」
「うん、人の厚意は無下にするものじゃないからね」
これが純粋な厚意なのか、疑問は残る。だけど、彼が悪い人ではないことはわかっている。素直に受け入れよう。
俺の返事に、デヴィットさんは満足そうにうなずいた。そして、俺のほうに身を乗り出してくる。ぐるりと周囲を視線だけで確認する。
「団長とはいつから?」
直球な問いかけに、目を真ん丸にしてしまった。デヴィットさんは俺の態度に気にする様子もなく、言葉を続ける。
「俺の記憶にある限り、団長にそれっぽい人がいたことないんだよね。これでも情報網がそこら中にあるから、すぐに耳に入るはずなんだけど――」
「こ、怖いですね」
あいまいに笑うことしかできない。
だって、この人マジだから。嘘をついている風にはまったく見えなかったし。
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