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序章
プロローグ
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「俺がキミに求めることは、世継ぎを産むことだけだ」
夫となる人物との顔合わせの場。ソファーに腰かけた男は、アンジーを見ることなく吐き捨てた。
「世継ぎさえ産んでくれるのなら、大体のことは許容する。王妃として公の場に出るときは、それなりの振る舞いが欲しくはある。しかし、そんなこと数えるていどだろう」
アンジーの意見を聞くこともなく、男は言葉を並べた。
そして、自身の意見を言い終えると、立ち上がる。
「顔合わせは以上だ。三日後の結婚式まで、くつろいでいてくれて構わない」
一度だけアンジーを見下ろし、男はさっと部屋を出て行ってしまった。
残されたアンジーは、ぽかんとする。小首をかしげて、頬に手を当てた。
「……これは、どういうことなのかしら?」
いや、男の言いたいことはわかる。アンジーは世継ぎを産むためだけに娶られた妻。政略結婚ならよくある話だ。
実際、アンジーと男の結婚も二つの国の結びつきを強くするためのもの。完全な政略結婚である。
これにより、アンジーの祖国は男が治める国から庇護を得られる。当初の目的は達成された。
しかし――。
「まさか、私が王妃になるなんて……」
男は言った。王妃として公の場に出るときは――と。
アンジーはてっきり、側室の一人になるものだと思っていた。書簡には『妃として』としか書いていなかったし、自分が王妃になる未来など想像したこともない。
たとえ王女だったとしても、アンジーの祖国は小さな国だ。比べ、嫁ぎ先は世界有数の大国。
……小国の王女に、大国の王妃など務まるのだろうか。
(ほかにお妃さまがいないことは、知っていたわ。でも、いずれ王妃として別の女性を迎え入れるものだとばかり……)
うなるアンジーを見て、壁際に立っていた一人の青年が近づいてくる。
「我が主の振る舞いに、お気を悪くされたのなら本当に申し訳ございません。ですが、あの方は元からああいう人で――」
確か、この青年は未来の夫の側近だったはず。ここまで案内してくれたのも彼だった。
「いえ、そういうわけではございませんの。ただ、意外だったのです」
「意外、でございますか?」
「えぇ、だって。私はてっきり妃は妃でも、側室になるものだと思っておりましたから」
胸の前で手を振ると、青年は眉尻を下げた。
「前もってお伝えできず、申し訳ございません。国の中枢で意見が割れておりまして。正式に決まったのが一週間前で」
「責めているわけではありません。さっきほども言った通り、意外で驚いただけですの」
慌てて言葉を付け足す。青年はほっとしたように、胸をなでおろした。
「決まったのなら、私がなにかを言うつもりはありませんわ。……ご期待に沿えるように、がんばります」
自身の胸に手を当てて、アンジーは微笑んだ。
人はアンジーが嫁いだ理由を知れば、身売りのようだと思うかもしれない。でも、アンジーは納得している。
王女として生を受けた以上、国のために尽くすのは当然だから……。
(私が嫁ぐことで、国を守れるのならそれでいいの)
アンジーは祖国が大好きだ。温かい民たちと、自分に愛情をたくさん注いでくれた両親と兄たち。
彼らを守れるのなら――自分の身一つ捧げることくらい、当然のことだ。
夫となる人物との顔合わせの場。ソファーに腰かけた男は、アンジーを見ることなく吐き捨てた。
「世継ぎさえ産んでくれるのなら、大体のことは許容する。王妃として公の場に出るときは、それなりの振る舞いが欲しくはある。しかし、そんなこと数えるていどだろう」
アンジーの意見を聞くこともなく、男は言葉を並べた。
そして、自身の意見を言い終えると、立ち上がる。
「顔合わせは以上だ。三日後の結婚式まで、くつろいでいてくれて構わない」
一度だけアンジーを見下ろし、男はさっと部屋を出て行ってしまった。
残されたアンジーは、ぽかんとする。小首をかしげて、頬に手を当てた。
「……これは、どういうことなのかしら?」
いや、男の言いたいことはわかる。アンジーは世継ぎを産むためだけに娶られた妻。政略結婚ならよくある話だ。
実際、アンジーと男の結婚も二つの国の結びつきを強くするためのもの。完全な政略結婚である。
これにより、アンジーの祖国は男が治める国から庇護を得られる。当初の目的は達成された。
しかし――。
「まさか、私が王妃になるなんて……」
男は言った。王妃として公の場に出るときは――と。
アンジーはてっきり、側室の一人になるものだと思っていた。書簡には『妃として』としか書いていなかったし、自分が王妃になる未来など想像したこともない。
たとえ王女だったとしても、アンジーの祖国は小さな国だ。比べ、嫁ぎ先は世界有数の大国。
……小国の王女に、大国の王妃など務まるのだろうか。
(ほかにお妃さまがいないことは、知っていたわ。でも、いずれ王妃として別の女性を迎え入れるものだとばかり……)
うなるアンジーを見て、壁際に立っていた一人の青年が近づいてくる。
「我が主の振る舞いに、お気を悪くされたのなら本当に申し訳ございません。ですが、あの方は元からああいう人で――」
確か、この青年は未来の夫の側近だったはず。ここまで案内してくれたのも彼だった。
「いえ、そういうわけではございませんの。ただ、意外だったのです」
「意外、でございますか?」
「えぇ、だって。私はてっきり妃は妃でも、側室になるものだと思っておりましたから」
胸の前で手を振ると、青年は眉尻を下げた。
「前もってお伝えできず、申し訳ございません。国の中枢で意見が割れておりまして。正式に決まったのが一週間前で」
「責めているわけではありません。さっきほども言った通り、意外で驚いただけですの」
慌てて言葉を付け足す。青年はほっとしたように、胸をなでおろした。
「決まったのなら、私がなにかを言うつもりはありませんわ。……ご期待に沿えるように、がんばります」
自身の胸に手を当てて、アンジーは微笑んだ。
人はアンジーが嫁いだ理由を知れば、身売りのようだと思うかもしれない。でも、アンジーは納得している。
王女として生を受けた以上、国のために尽くすのは当然だから……。
(私が嫁ぐことで、国を守れるのならそれでいいの)
アンジーは祖国が大好きだ。温かい民たちと、自分に愛情をたくさん注いでくれた両親と兄たち。
彼らを守れるのなら――自分の身一つ捧げることくらい、当然のことだ。
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