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第1章
第8話
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(そういう目で見られないと言われてしまったら、どうしよう)
現状アンジーの役割は、世継ぎを産むことだけだ。それさえ満足にできないとなると、自分の存在価値などないに等しい。
嫌な想像をすると、顔から血の気が引いていく。アンジーのただならぬ様子を見たためか、オパールはアンジーの手を握ってくれた。
「不安かもしれませんが、陛下にお任せすればよろしいのですよ」
「……でも」
うつむいてぽつりと言葉をこぼした。
そのとき、寝室の扉がノックされる。驚いたアンジーをよそに、オパールは立ち上がった。
「申し訳ございませんが、私は退室させていただきますね」
「え、えぇ、ありがとう……」
一礼をしたオパールが部屋を出ていくと、入れ替わりでイライアスが入ってきた。
彼は普段と変わらぬ仏頂面だ。アンジーを一瞥した彼は、無言で寝台のほうに向かう。
「今日はどうだった」
寝台に腰かけたイライアスが、問うてくる。少し迷って、アンジーは首を縦に振った。
「と、とてもよかったです。みなさま、祝福してくださいましたし……」
たとえそれが表向きだけだったとしても、嬉しかったことに変わりはない。
「そうか」
会話が終わる。
気まずくてアンジーは室内をきょろきょろと見渡した。
きっと、イライアスの目にアンジーの行動は挙動不審に見える。でも、落ち着かないのだから仕方がない。
胸の前で手を握っていると、イライアスが自身の隣を軽くたたいた。
「こっちにこい。いつまでもそこにいると話せるものも話せないだろ」
「は、はい」
椅子から立ち上がって、一歩を踏み出そうとした。――だが、脚がもつれてその場に転んでしまう。
幸いにも顔面を打ち付けることはなかった。絨毯のおかげで、怪我もない。だけど、心はずたずただ。
(まさか、陛下の前で転んでしまうなんてっ……!)
恥ずかしくてたまらない。羞恥心から顔をあげられずにいると、目の前で誰かがしゃがみこんだのが気配でわかる。
「立てるか」
手を差し出され、アンジーはおずおずとその手に自らの手を重ねる。すると、強い力で引っ張り上げられた。
「どうして顔を隠す」
慌てて顔を両手で覆ったアンジーを怪訝に思ったのか、イライアスが問いかけてくる。
……恥ずかしくて、顔を見ることができないだけだ。
「恥ずかしい、のです」
消え入りそうなほど小さな声で訴える。
「だって、こんな、失態を」
言葉を続けると、アンジーの手をイライアスの手がつかむ。そして、顔から手を引きはがされた。
「失態というほどの失態ではないだろ。誰だって緊張すれば、脚が絡まることはある」
動揺するアンジーをなだめるように、大きな手のひらがアンジーの背中を撫でる。
ほんのわずかな安堵が生まれ、じんわりと胸の中に広がった。
「気にするな」
アンジーの目を見た彼がはっきり告げる。
先ほどまでの羞恥心はしぼんでいく。だけど、心臓の音は逆で大きくなっていくみたいだ。
彼の目に見つめられていると、心臓ははち切れそうなほどに大きな鼓動を刻む。
「アンジー」
イライアスがアンジーの名前を口にした。
反応するようにごくりと息を呑むと、彼はそっと目を伏せる。一瞬だけ悲しそうな色を宿した瞳は、次の瞬間にはアンジーだけを映していた。
「安心しろ。ひどくするつもりはない」
身体を寝台の上に倒される。イライアスが寝台に乗り上げて、アンジーを見下ろす。心臓はさらに早く鼓動を刻む。
「俺とするのが嫌ならば、さっさと済ませる」
アンジーの返答を聞くことなく、イライアスがアンジーの頬に手のひらを当てた。
軽く頬を撫でられたかと思うと、間髪入れずに唇が重なった。
触れるだけのキスを数回落とされて、アンジーの身体の強張りがほどけていく。
イライアスの大きな手のひらが、アンジーの肌に布越しに触れた。たったそれだけなのに、アンジーの身体は熱を持っていくみたいだった。
現状アンジーの役割は、世継ぎを産むことだけだ。それさえ満足にできないとなると、自分の存在価値などないに等しい。
嫌な想像をすると、顔から血の気が引いていく。アンジーのただならぬ様子を見たためか、オパールはアンジーの手を握ってくれた。
「不安かもしれませんが、陛下にお任せすればよろしいのですよ」
「……でも」
うつむいてぽつりと言葉をこぼした。
そのとき、寝室の扉がノックされる。驚いたアンジーをよそに、オパールは立ち上がった。
「申し訳ございませんが、私は退室させていただきますね」
「え、えぇ、ありがとう……」
一礼をしたオパールが部屋を出ていくと、入れ替わりでイライアスが入ってきた。
彼は普段と変わらぬ仏頂面だ。アンジーを一瞥した彼は、無言で寝台のほうに向かう。
「今日はどうだった」
寝台に腰かけたイライアスが、問うてくる。少し迷って、アンジーは首を縦に振った。
「と、とてもよかったです。みなさま、祝福してくださいましたし……」
たとえそれが表向きだけだったとしても、嬉しかったことに変わりはない。
「そうか」
会話が終わる。
気まずくてアンジーは室内をきょろきょろと見渡した。
きっと、イライアスの目にアンジーの行動は挙動不審に見える。でも、落ち着かないのだから仕方がない。
胸の前で手を握っていると、イライアスが自身の隣を軽くたたいた。
「こっちにこい。いつまでもそこにいると話せるものも話せないだろ」
「は、はい」
椅子から立ち上がって、一歩を踏み出そうとした。――だが、脚がもつれてその場に転んでしまう。
幸いにも顔面を打ち付けることはなかった。絨毯のおかげで、怪我もない。だけど、心はずたずただ。
(まさか、陛下の前で転んでしまうなんてっ……!)
恥ずかしくてたまらない。羞恥心から顔をあげられずにいると、目の前で誰かがしゃがみこんだのが気配でわかる。
「立てるか」
手を差し出され、アンジーはおずおずとその手に自らの手を重ねる。すると、強い力で引っ張り上げられた。
「どうして顔を隠す」
慌てて顔を両手で覆ったアンジーを怪訝に思ったのか、イライアスが問いかけてくる。
……恥ずかしくて、顔を見ることができないだけだ。
「恥ずかしい、のです」
消え入りそうなほど小さな声で訴える。
「だって、こんな、失態を」
言葉を続けると、アンジーの手をイライアスの手がつかむ。そして、顔から手を引きはがされた。
「失態というほどの失態ではないだろ。誰だって緊張すれば、脚が絡まることはある」
動揺するアンジーをなだめるように、大きな手のひらがアンジーの背中を撫でる。
ほんのわずかな安堵が生まれ、じんわりと胸の中に広がった。
「気にするな」
アンジーの目を見た彼がはっきり告げる。
先ほどまでの羞恥心はしぼんでいく。だけど、心臓の音は逆で大きくなっていくみたいだ。
彼の目に見つめられていると、心臓ははち切れそうなほどに大きな鼓動を刻む。
「アンジー」
イライアスがアンジーの名前を口にした。
反応するようにごくりと息を呑むと、彼はそっと目を伏せる。一瞬だけ悲しそうな色を宿した瞳は、次の瞬間にはアンジーだけを映していた。
「安心しろ。ひどくするつもりはない」
身体を寝台の上に倒される。イライアスが寝台に乗り上げて、アンジーを見下ろす。心臓はさらに早く鼓動を刻む。
「俺とするのが嫌ならば、さっさと済ませる」
アンジーの返答を聞くことなく、イライアスがアンジーの頬に手のひらを当てた。
軽く頬を撫でられたかと思うと、間髪入れずに唇が重なった。
触れるだけのキスを数回落とされて、アンジーの身体の強張りがほどけていく。
イライアスの大きな手のひらが、アンジーの肌に布越しに触れた。たったそれだけなのに、アンジーの身体は熱を持っていくみたいだった。
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