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第1章
第7話
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それから、あっという間に時間が過ぎ。
披露宴の招待客に酒が回り始めたころ。アンジーは侍女に促され、王城に引っ込むこととなった。
専属侍女たちに披露宴用のドレスを脱がせてもらい、アンジーはようやく一息つく。
イライアスの言葉通り、着替えの際にも休憩時間はあった。しかし、披露宴で妃としてうまく振る舞えるか――などと考えると、どうしてもゆっくりすることができず。結果、身体はゆっくりできたが、脳内は様々なことを考えてまったく休めなかったのだ。
湯あみを済ませ部屋に戻ると、侍女たちは一人を残して退室していた。残っているのは専属侍女のリーダーとなるオパールという女性だ。
「たくさんの人に囲まれていては、気は休まらないでしょう」
オパールはにこりと笑い、ナイトドレスに身を包んだアンジーの身体を鏡台の前に座らせる。
彼女はアンジーの濡れた髪を手際よく乾かして、ひとまとめにした。
「……わがままを言ってしまって、ごめんなさいね」
本来、湯あみとは侍女たちに手伝ってもらうものらしい。だが、どうしても一人になりたくて、アンジーはその提案を断った。
「いえいえ、お気になさらず。やはり、文化の違いというものはありますでしょうから」
気にした様子もなく、オパールはサイドテーブルにティーカップを置く。とても落ち着く香りが鼻腔に届いた。
「ハーブティーをご用意いたしました。本日はお疲れでしょうから」
「……ありがとう」
ティーカップを手に取る。両手で包み込むように持つと、温かさがじんわりと手のひらに伝わって、少しだけ気持ちが落ち着く。
ほっと一度息を吐いて、カップに口を付ける。緊張のせいか味はよくわからない。だが、ちょうどいい温度は身体の強張りをほどくには十分だ。
緊張がほどけると、わずかに余裕も出てくる。入室した当初はまじまじと見ることができなかった室内を、ぐるりと見渡した。
侍女いわく、ここは夫婦の寝室ということだ。確かに、設置されている寝台は私室のものよりもずっと大きい。
(最低限、ここでも身支度を整えることができるのね)
鏡台が設置されているため、ここでの身支度も想定内なのだと考える。
「陛下は、いつ頃いらっしゃるの?」
小首をかしげてオパールに問いかける。彼女は「ふぅむ」と声をあげた。
「そうですね。予定ではあと三十分ほどでいらっしゃるかと」
「……三十分」
時刻は午後十時半。十一時頃にはここに来る予定らしい。
「このときばかりは、陛下もさっさと外交を切り上げられたらよろしいのですけどね」
「……ううん。外交はとても大切だから」
外交官として奮闘する兄を見ていると、外交がいかに大変で重要なことなのかがよくわかる。
「ですが、本日は初夜ですのに」
むっとしたオパールの表情は、とても愛らしい。だけど、アンジーは彼女の表情を気に留めるどころではなかった。
彼女が口にした『初夜』という単語に反応してしまい、肩が跳ねる。顔に急速に熱が集まるのを自覚する。
「アンジーさま?」
「な、なんでもないわ!」
上ずった声で「なんでもない」は、さすがに無理がある。アンジーは赤い顔を隠すために、両手で顔を覆った。
(今の今まで考えないようにしていたけど、今日は……)
妃の一番の役割は、世継ぎを産むことだ。イライアスも世継ぎを求めているし、身体を重ねる必要がある。
しかし、恥ずかしいものは恥ずかしい。
(閨ごとについて、あまり詳しく習っていないし……)
もちろん最低限のことは習ったが、あくまでもぼんやりとしたものに過ぎない。
具体的に教えられると、それはそれで自分は困ったはず。けど、こうなるのならしっかり学んでおけばよかったと後悔になる。
(そもそも、陛下はこんな私に……よ、欲情してくださるの? 私、陛下よりもずっと年下なのに)
アンジーは二十歳だ。比べ、イライアスは二十七歳。
彼の周りには年相応に大人っぽくて美しい女性がいるだろう。そして、美しい女性を見慣れているイライアスにとって、アンジーは貧相な部類のはずだ。
披露宴の招待客に酒が回り始めたころ。アンジーは侍女に促され、王城に引っ込むこととなった。
専属侍女たちに披露宴用のドレスを脱がせてもらい、アンジーはようやく一息つく。
イライアスの言葉通り、着替えの際にも休憩時間はあった。しかし、披露宴で妃としてうまく振る舞えるか――などと考えると、どうしてもゆっくりすることができず。結果、身体はゆっくりできたが、脳内は様々なことを考えてまったく休めなかったのだ。
湯あみを済ませ部屋に戻ると、侍女たちは一人を残して退室していた。残っているのは専属侍女のリーダーとなるオパールという女性だ。
「たくさんの人に囲まれていては、気は休まらないでしょう」
オパールはにこりと笑い、ナイトドレスに身を包んだアンジーの身体を鏡台の前に座らせる。
彼女はアンジーの濡れた髪を手際よく乾かして、ひとまとめにした。
「……わがままを言ってしまって、ごめんなさいね」
本来、湯あみとは侍女たちに手伝ってもらうものらしい。だが、どうしても一人になりたくて、アンジーはその提案を断った。
「いえいえ、お気になさらず。やはり、文化の違いというものはありますでしょうから」
気にした様子もなく、オパールはサイドテーブルにティーカップを置く。とても落ち着く香りが鼻腔に届いた。
「ハーブティーをご用意いたしました。本日はお疲れでしょうから」
「……ありがとう」
ティーカップを手に取る。両手で包み込むように持つと、温かさがじんわりと手のひらに伝わって、少しだけ気持ちが落ち着く。
ほっと一度息を吐いて、カップに口を付ける。緊張のせいか味はよくわからない。だが、ちょうどいい温度は身体の強張りをほどくには十分だ。
緊張がほどけると、わずかに余裕も出てくる。入室した当初はまじまじと見ることができなかった室内を、ぐるりと見渡した。
侍女いわく、ここは夫婦の寝室ということだ。確かに、設置されている寝台は私室のものよりもずっと大きい。
(最低限、ここでも身支度を整えることができるのね)
鏡台が設置されているため、ここでの身支度も想定内なのだと考える。
「陛下は、いつ頃いらっしゃるの?」
小首をかしげてオパールに問いかける。彼女は「ふぅむ」と声をあげた。
「そうですね。予定ではあと三十分ほどでいらっしゃるかと」
「……三十分」
時刻は午後十時半。十一時頃にはここに来る予定らしい。
「このときばかりは、陛下もさっさと外交を切り上げられたらよろしいのですけどね」
「……ううん。外交はとても大切だから」
外交官として奮闘する兄を見ていると、外交がいかに大変で重要なことなのかがよくわかる。
「ですが、本日は初夜ですのに」
むっとしたオパールの表情は、とても愛らしい。だけど、アンジーは彼女の表情を気に留めるどころではなかった。
彼女が口にした『初夜』という単語に反応してしまい、肩が跳ねる。顔に急速に熱が集まるのを自覚する。
「アンジーさま?」
「な、なんでもないわ!」
上ずった声で「なんでもない」は、さすがに無理がある。アンジーは赤い顔を隠すために、両手で顔を覆った。
(今の今まで考えないようにしていたけど、今日は……)
妃の一番の役割は、世継ぎを産むことだ。イライアスも世継ぎを求めているし、身体を重ねる必要がある。
しかし、恥ずかしいものは恥ずかしい。
(閨ごとについて、あまり詳しく習っていないし……)
もちろん最低限のことは習ったが、あくまでもぼんやりとしたものに過ぎない。
具体的に教えられると、それはそれで自分は困ったはず。けど、こうなるのならしっかり学んでおけばよかったと後悔になる。
(そもそも、陛下はこんな私に……よ、欲情してくださるの? 私、陛下よりもずっと年下なのに)
アンジーは二十歳だ。比べ、イライアスは二十七歳。
彼の周りには年相応に大人っぽくて美しい女性がいるだろう。そして、美しい女性を見慣れているイライアスにとって、アンジーは貧相な部類のはずだ。
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