【R18】政略結婚した夫が、妃の私に求めるのは世継ぎを産むことだけ……のはずだった。あれ? なんだか夫の様子がおかしいのですが?

すめらぎかなめ

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第1章

第6話

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 兄のエスコートで、大聖堂に足を踏み入れる。

 聖堂内は厳かな空気に包まれており、アンジーは緊張をほぐすように深呼吸をした。

 隣を歩く兄の顔をちらりと見てみる。いつも通りに見えるが、彼の表情はわずかに強張っていた。

(お兄さまも、緊張しているのね)

 聖堂の奥では神父とイライアスが待っている。朗らかな笑みを浮かべた神父に対し、イライアスは無表情だ。

「……行っておいで」

 エスコートが兄からイライアスに移る。

 イライアスの顔を見上げる。視線は合わない。

(もう少し、私を見てほしいのに)

 けど、口に出すことはなかった。

 神父のありがたい言葉を聞きながら、アンジーはこれからの生活に不安を覚える。

 自分はイライアスの妃として、王妃としてやっていけるのか――。

 つい、怖くなってしまった。

「……おい」

 神父の言葉の最中、隣から声が聞こえた。視線だけ向けると、前を向いたイライアスが言葉を紡いでいく。

「辛気臭い顔はやめろ。最低限堂々としていろ」
「……わかっております」

 アンジーの声は、自分でも驚くほどに沈んでいた。

 それから少しして、神父の言葉が終わる。婚姻誓約書にサインをして、アンジーはイライアスと向き合った。

 いよいよ、誓いのキスの時間だ。

 イライアスの手がアンジーのヴェールをあげる。クリアになった視界で見るイライアスは、想像していた以上にずっと美しかった。

 数日前に見たときよりも、ずっと、ずっと……。

「言っておくが、俺はキミに期待しない」
「……はい」

 追い打ちをかけるような言葉に、アンジーは唇を軽く噛んでしまう。

「……だが、そうだな。ひどい扱いをするつもりもない。そこは、安心しろ」
「え、っと」

 瞬きをして小首をかしげるアンジーの唇になにかが触れた。

(――え?)

 気づいたときには、誓いのキスは終わっていた。

 神父が夫婦関係が成立したことを宣言する。大聖堂が拍手に包まれる。

 アンジーは、現状をなに一つとして理解できなかった。

(陛下のお言葉は、どういう意味? それに、覚悟する間もなくキスが終わって)

 立ち尽くすアンジーの身体を、イライアスが横抱きにした。突然浮遊感に襲われて、縋りつくようにイライアスの首に腕を回す。

「へ、陛下――!」
「暴れるな。このままじっとしていろ」

 アンジーにだけ聞こえる声量でささやいて、イライアスが大聖堂の中央を歩いていく。

「このまま馬車に乗って、王城に戻る。そのあとは披露宴だ」
「ぞ、存じて、おります」
「着替えの時間はゆっくり取ってある。その間に、休息も取っておけ」

 彼の言葉はアンジーにとって予想外だった。

 だって、披露宴の時間は一分一秒だって惜しいはずなのに……。

(本来、着替えはさっさと済ませろというはずなんだけど)

 披露宴だって、立派な外交の時間。ほんの少しでも、多く時間を取りたいに決まっている。

「意外そうな顔だな」

 アンジーの顔を見たイライアスの言葉に、ためらいながらもうなずく。彼はアンジーの素直な答えに、ふっと口元を緩めた。

「キミが疲れていることは、よくわかっている。長旅の疲れは、数日では取れないだろ」

 もしかして、こうやって運んでくれるのも、彼の思いやりの一環なのだろうか?

(でも、恥ずかしい!)

 自分の顔は真っ赤に違いない。ごまかすようにイライアスの首に回した腕に力を込める。

「……それでいい」

 イライアスがぽつりとつぶやく。大聖堂の入り口が開くと、眼下に広がるのはたくさんの民衆の姿だ。

 彼らの表情は明るくて、アンジーは目を見開く。

(この国の人たちは、陛下をお慕いしているのね)

 そうじゃないと、こんな風に祝福してくれないはずだ。

「――行くぞ、アンジー」

 イライアスの言葉に、アンジーはうなずいた。
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