【R18】政略結婚した夫が、妃の私に求めるのは世継ぎを産むことだけ……のはずだった。あれ? なんだか夫の様子がおかしいのですが?

すめらぎかなめ

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第1章

第5話

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 迎えた挙式の日。気温はちょうどよく、空も晴れ渡っている。絶好の門出となりそうだ。

 花嫁の控室にて、準備を終えたアンジーはお茶を飲んでいた。

「とてもきれいだよ、アンジー」

 にこやかに笑うのは、三番目の兄。グリーナウェイからは、彼だけが挙式に参列する。そして、アンジーのエスコート役も彼が担うことになっていた。

「ありがとう、お兄さま」
「父上や母上たちも参列したかったみたいだけどね」
「いいのよ。長く国を空けるわけにはいかないわ」

 アンジーの言葉に同意した兄は、ティーカップを手に取った。一口飲んだあと、思い出したように口を開く。

「イライアス陛下とはどうだい? うまくやっていけそうか?」

 小首をかしげた兄の問いかけに、アンジーはどう答えようかと悩む。

 しかし、隠しても無駄だ。素直に白状しよう。

「ごめんなさい、まだわからないわ」

 実はアンジーがイライアスと対面できたのは、初日だけだった。あれ以来、今日にいたるまで一度も対面していない。

 アンジーの世話は専属となった侍女の仕事だし、問題が起きた場合解決に奔走するのはイーノスだ。

「でも、たぶん大丈夫だと思う」
「……だったら、いいんだけど」

 兄の眉尻が下がったのに気づいて、アンジーはなんとか空気を変えようとする。

 手をパンっとたたいて、明るい表情を浮かべた。

「陛下とうまくやっていけるかはわからないけど、使用人たちとはそれなりにうまくやっていけそうよ」

 アンジーにつけられた専属侍女は三人。それから、随時ローテーションで何人か付くそうだ。

「陛下の側近もとても良くしてくれるの。だから、なんとかなると思うわ」

 笑ったアンジーの言葉に、兄は納得していない様子だ。だが、本人がこう言っている以上、口を出すべきではないと思ったのだろう。なにも言わなかった。

(それに、私は陛下のことを悪い人だとは思わないわ。優秀な侍女たちに、話しやすいイーノスを付けてくれたのだもの)

 うん、だから、大丈夫。

 アンジーが自分に言い聞かせていると、控室の扉がノックされた。

「アンジーさま。そろそろ、移動しましょうか」

 顔をのぞかせたのは、自身の専属侍女の一人だ。アンジーはティーカップに残った紅茶を飲み干して、立ち上がる。

「お兄さま、行きましょう」
「……そうだね」

 兄も紅茶を飲み干して、立ち上がる。アンジーに手を差し出してくるので、素直にエスコートを受ける。

 控室を出て、廊下を歩く。隣を歩く兄の表情は、険しいものだ。

(お兄さま、やっぱりいろいろと思われることがあるのね……)

 もし、今日。アンジーが胸を張って幸せになれると言えたら、兄の不安をいくらか取り除けたのだろうか。

 アンジー自身には、イライアスといい関係を築けそうな予感がある。

 しかし、予感などでは兄は納得しないはずだ。

(いつか、胸を張って幸せになったよって言えたらいいのに)

 もちろん、そんな日が来るかどうかは未知数だが……。

 あっという間に大聖堂の入り口にたどり着く。兄の腕をぎゅっとつかむと、兄はアンジーに顔を向けた。

「アンジー……」

 切なさをはらんだ声で呼ばれて、泣きそうになる。

 兄のこんな声、聞きたくなかった。

 ゆっくり顔をあげて、兄の顔を見る。口を開こうとしたとき、扉が開き始めた。

(夫の陛下は悪い人じゃない。それで、十分じゃない)

 心から愛し合えなくても、人として尊敬できる人物ならそれでいい。

 対面した日。胸に芽生えた期待は、この数日で少ししぼんでしまった。

 それでも、がんばろう。王妃として、彼を支えることが自分の役目だから……。

「……アンジー、行こうか」

 兄の声に、うなずいて一歩を踏み出した。
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