【R18】政略結婚した夫が、妃の私に求めるのは世継ぎを産むことだけ……のはずだった。あれ? なんだか夫の様子がおかしいのですが?

すめらぎかなめ

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第1章

第4話

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 アンジーの言葉に、イライアスは驚きの表情を見せた。だが、すぐに表情を消してこちらに背中を向ける。

「……だったら、勝手にしろ」

 そのまま歩いていこうとするイライアスに向かって声をかけたのは、意外にもイーノスだった。

「陛下。せっかくですし、アンジーさまと少々お話しなさってはいかがでしょうか?」

 彼はイライアスの前に立ちふさがる。

 これに驚いたのはアンジーだけではなく、イライアスも同様のようだ。

「アンジーさまは陛下のお妃となるのです。交流は必要です」
「交流など不要だ。そもそも、俺は妃のことはイーノスに任せると以前言っただろう」

 大きなため息をついたイライアスは、心底面倒くさそうだった。

「はい。聞いております。しかし、当のアンジーさまがこうおっしゃっているのです」
「俺は忙しいんだ」

 イーノスの提案を、イライアスは一蹴した。

 二人の空気が重くなっていくのを感じて、アンジーはどうしようかと悩む。

(イーノスは私のことを思って行動してくれている。嬉しいけど、彼のことを思うと止めたほうがいい)

 イライアスの機嫌を損ねることは避けたい。それはアンジーもだが、イーノスも同じはずだ。

「陛下のお時間を取らせるわけには、いきませんよね。承知いたしました」

 二人の間に割って入って、アンジーは頭を下げる。背後でイーノスが小さくアンジーの名前を呼んだのがわかった。

「どうぞ、私のことはお気になさらずに。挙式までは必要な準備をしつつ、ゆっくりさせていただきますわ」

 にこやかに笑って声をかけると、イライアスは仏頂面でうなずいた。

 彼の様子を見て、アンジーは振り返る。背後にいるイーノスにも笑いかけた。

「ちょっと疲れてしまったわ。休みたいのだけど、いいかしら?」
「……かしこまりました。専属となる侍女を連れてきます」

 一礼をして、イーノスが廊下を歩いていく。残されたのはアンジーとイライアスの二人だけ。

 アンジーは彼の顔を見上げた。エメラルドグリーンの瞳が、アンジーをじっと見つめている。

「ありがとう、ございます」
「は?」

 突然感謝の言葉を口にしたアンジーに、イライアスの眉間が動いた。同時に、怪訝そうな声をあげる。

「同盟のことです。本当に、ありがたいと思っていて」
「その分の対価はもらっている」

 対価とは、アンジー自身のことだろう。容易に想像がつく。

「キミはこれから慣れない生活に身を投じることになる。……心身ともに、調子が悪くなることもあるだろう」
「その際は、少々お休みをいただけると幸いです」

 冗談めいた声で告げると、イライアスの表情が険しくなった。表情全体で不愉快だと伝えてくるみたいだ。

「キミはどうしてそんな風にのんきなんだ。キミは国の安全のために犠牲になったようなものだろう」

 もしかしたら、彼はアンジーが強がっていると思っているのかもしれない。

 アンジーには手に取るようにわかる。だって、兄たちがまったく同じことを言っていたから。

「そうかもしれません。私は国の平和のために、この身をささげたようなものです」
「ならば」
「けど、それが私の役割です。……いつでも、自分を差し出す覚悟はできておりました」

 王女である自分が国のためにできること。考えたときに真っ先に出てくるのは、いつだって『国のために嫁ぐ』ことだった。

「私にとって、グリーナウェイの民たちは家族も同然です。大切で、守るべきものです」

 小さな国だから、民と王族の距離は他国よりも近かった。誰もが王女のアンジーに気さくに接してくれて、一緒に土いじりをしたことだってある。

「今までの私は、民たちに守ってもらってばかりでした。だから、次は私の番です。私が、みんなを守るのです」

 彼の瞳をじっと見て宣言する。イライアスはなにも言わずに、腕を組んだ。

「……そうか。立派なことだな」

 イライアスがアンジーの隣を通り抜けて、立ち去ろうとした。

 そのとき、アンジーはあることに気づいた。それに気づくとなんだか無性に嬉しくなる。

「陛下、ありがとうございます」

 背中に向かって感謝を述べると、彼が振り向く。

「わざわざ私を気にかけて、ここに立ち寄ってくださったのですよね」
「……なにを根拠に」
「イーノスが言っておりました。――陛下はプライベートに仕事は持ち込まない。そして、ここはプライベートなフロアです」

 仕事中だという彼がここに来る理由はない。

 わざわざアンジーの様子を見に来てくれた可能性が高い。

 アンジーの言葉に、イライアスは顔を背けた。ちょっとだけ見えた耳が、赤いのは気のせいじゃない。

「……別に大した意味はない。ついでだ、ついで」
「それでもとても嬉しいです」

 アンジーは笑う。この人は案外――優しいのかもしれない。

 心に小さな期待が芽生えた。
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