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第1章
第3話
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――という経緯があり、アンジーはハジェンズの若き王イライアスの妃となることが決まったのだ。
(顔合わせ、あっさり終わりすぎじゃないかしら?)
彼と一緒にいた時間は五分にも満たないと思う。話も一方的で、アンジーの意見を聞くそぶりもなかった。
(うまくやっていけると、いいのだけど……)
しかも、妃は妃でも王妃となるのだ。予想外のことばかりで、アンジーはついため息を漏らした。
「アンジーさま。なにか不安なことでも……?」
前を歩いていた青年が振り向く。彼はほかでもない、イライアスの側近だ。
彼に王城を案内してもらっている最中だったことを思い出す。
「い、いえ。長旅だったから、疲れがたまっているだけよ」
嘘ではない。実際、十日間の旅で疲労はピークだ。
「さようでございますか。では、挙式までゆっくりお休みくださいね」
「そうさせてもらうわ」
幸いにも挙式は三日後。休む時間はそれなりにある。
「挙式の衣装は大まかには作っております。しかし、サイズを合わせる必要がありますので、その点はご協力いただきたく」
「大丈夫よ」
青年と話をしながら王城を歩く。
すれ違う使用人たちは、アンジーを見て深々と頭を下げた。彼らの態度にアンジーは恐縮してしまう。
「堂々となさってください。あなたさまは王妃となるお方なのですから」
アンジーの態度に、青年が苦笑を向けてくる。だが、慣れないのだから仕方がないだろう。
「……がんばって、慣れます」
ここはハジェンズ。郷に入っては郷に従え。きちんとこの国の文化に馴染まなくては。
「……ご無理はなさいませんように」
青年はそう言って、近くの扉に近づいた。鍵を開けて、扉を開ける。
「こちらがアンジーさまの私室になります。どうぞ」
中に入るように促されて、アンジーはそっと室内に足を踏み入れた。
室内には紺色の絨毯が敷かれている。家具はどれも白を基調としたもので、アクセントに金色があしらわれていた。
とても上品な雰囲気で、アンジーは一瞬でこの部屋を気に入った。
「もし、ご要望などございましたら遠慮なくお伝えください。ご希望に沿うものを用意させていただきます」
などと言われたが、アンジーに要望などない。今のままで十分素敵だし、アンジーの好みにぴったりなのだから。
「ううん、これでいい……いえ、これがいいわ。とっても気に入ったの!」
「でしたら、ようございました」
青年に笑みを向ける。彼の笑みを見て、アンジーは彼の名前を知らないことを思い出す。
緊張していたため、そこまで頭が回らなかったのだろう。
「あなた、お名前は?」
小首をかしげて問うと、青年は一瞬だけ目を見開く。名前を聞かれるとは思わなかったのか。
「イーノス・ロイと申します」
青年――イーノスは臣下の礼を執る。アンジーは彼の名前を頭の中で繰り返した。
「では、イーノスと呼んでも?」
「好きなようにお呼びください」
許可が出たので、今後彼のことはイーノスと呼ぼうとアンジーは思う。
「ありがとう。……ところで、イーノスにお願いがあるのだけど」
アンジーは胸の前で手を組んで、イーノスを見つめる。彼はきょとんとしたように瞬きを繰り返した。
「陛下のことを、教えてくれないかしら? もちろん、私に教えていい範囲でいいの」
アンジーはイライアスのことを知りたかった。
もちろん、嫁ぐことが決まってからある程度は調べた。けど、側近ならもっと詳しく知っていても変じゃない。
「私なりに陛下のことを調べさせてもらったわ。でも、側近であるあなたの口からも聞きたい」
うわさばかりを鵜呑みにするわけにはいかない。直接かかわっている人の意見も知りたい。
「お願いできない?」
イーノスを見つめると、彼は困ったように頬を掻いた。
「俺は、構いませんが……」
イーノスが答えようとすると同時に、彼の肩に手が置かれた。驚いて手の主を見ると、そこにいたのは――ほかでもないイライアスだ。
「そんなことを知って、どうするつもりだ」
鋭い双眸を細めて、イライアスはアンジーを見つめた。いや、にらみつけているというほうが正しいのか。
「俺はキミに世継ぎを産むこと以外、求めないと言っただろう。これは世継ぎを産むために必要なことなのか? 違うだろう」
どうやら、イライアスは必要以上にアンジーとかかわりたくないようだ。声からひしひしと伝わってくる。
「大体のことは許容すると言ったが、俺のことをかぎ回るのはやめろ」
「……これは必要なことですよ?」
アンジーはきょとんとしながら、言葉を返す。イライアスの目が見開く。
「だって、夫婦となるのですから。少しくらい、人となりを知りたいと思うのは当然です」
たとえ政略結婚だったとしても。良好な関係を築きたいと願っても、罰は当たらないはずだ。
「無駄なことだな。一時の気持ちに動かされるな」
「一時の気持ちではありませんわ。これは未来永劫、ずっと抱き続ける気持ちです」
(顔合わせ、あっさり終わりすぎじゃないかしら?)
彼と一緒にいた時間は五分にも満たないと思う。話も一方的で、アンジーの意見を聞くそぶりもなかった。
(うまくやっていけると、いいのだけど……)
しかも、妃は妃でも王妃となるのだ。予想外のことばかりで、アンジーはついため息を漏らした。
「アンジーさま。なにか不安なことでも……?」
前を歩いていた青年が振り向く。彼はほかでもない、イライアスの側近だ。
彼に王城を案内してもらっている最中だったことを思い出す。
「い、いえ。長旅だったから、疲れがたまっているだけよ」
嘘ではない。実際、十日間の旅で疲労はピークだ。
「さようでございますか。では、挙式までゆっくりお休みくださいね」
「そうさせてもらうわ」
幸いにも挙式は三日後。休む時間はそれなりにある。
「挙式の衣装は大まかには作っております。しかし、サイズを合わせる必要がありますので、その点はご協力いただきたく」
「大丈夫よ」
青年と話をしながら王城を歩く。
すれ違う使用人たちは、アンジーを見て深々と頭を下げた。彼らの態度にアンジーは恐縮してしまう。
「堂々となさってください。あなたさまは王妃となるお方なのですから」
アンジーの態度に、青年が苦笑を向けてくる。だが、慣れないのだから仕方がないだろう。
「……がんばって、慣れます」
ここはハジェンズ。郷に入っては郷に従え。きちんとこの国の文化に馴染まなくては。
「……ご無理はなさいませんように」
青年はそう言って、近くの扉に近づいた。鍵を開けて、扉を開ける。
「こちらがアンジーさまの私室になります。どうぞ」
中に入るように促されて、アンジーはそっと室内に足を踏み入れた。
室内には紺色の絨毯が敷かれている。家具はどれも白を基調としたもので、アクセントに金色があしらわれていた。
とても上品な雰囲気で、アンジーは一瞬でこの部屋を気に入った。
「もし、ご要望などございましたら遠慮なくお伝えください。ご希望に沿うものを用意させていただきます」
などと言われたが、アンジーに要望などない。今のままで十分素敵だし、アンジーの好みにぴったりなのだから。
「ううん、これでいい……いえ、これがいいわ。とっても気に入ったの!」
「でしたら、ようございました」
青年に笑みを向ける。彼の笑みを見て、アンジーは彼の名前を知らないことを思い出す。
緊張していたため、そこまで頭が回らなかったのだろう。
「あなた、お名前は?」
小首をかしげて問うと、青年は一瞬だけ目を見開く。名前を聞かれるとは思わなかったのか。
「イーノス・ロイと申します」
青年――イーノスは臣下の礼を執る。アンジーは彼の名前を頭の中で繰り返した。
「では、イーノスと呼んでも?」
「好きなようにお呼びください」
許可が出たので、今後彼のことはイーノスと呼ぼうとアンジーは思う。
「ありがとう。……ところで、イーノスにお願いがあるのだけど」
アンジーは胸の前で手を組んで、イーノスを見つめる。彼はきょとんとしたように瞬きを繰り返した。
「陛下のことを、教えてくれないかしら? もちろん、私に教えていい範囲でいいの」
アンジーはイライアスのことを知りたかった。
もちろん、嫁ぐことが決まってからある程度は調べた。けど、側近ならもっと詳しく知っていても変じゃない。
「私なりに陛下のことを調べさせてもらったわ。でも、側近であるあなたの口からも聞きたい」
うわさばかりを鵜呑みにするわけにはいかない。直接かかわっている人の意見も知りたい。
「お願いできない?」
イーノスを見つめると、彼は困ったように頬を掻いた。
「俺は、構いませんが……」
イーノスが答えようとすると同時に、彼の肩に手が置かれた。驚いて手の主を見ると、そこにいたのは――ほかでもないイライアスだ。
「そんなことを知って、どうするつもりだ」
鋭い双眸を細めて、イライアスはアンジーを見つめた。いや、にらみつけているというほうが正しいのか。
「俺はキミに世継ぎを産むこと以外、求めないと言っただろう。これは世継ぎを産むために必要なことなのか? 違うだろう」
どうやら、イライアスは必要以上にアンジーとかかわりたくないようだ。声からひしひしと伝わってくる。
「大体のことは許容すると言ったが、俺のことをかぎ回るのはやめろ」
「……これは必要なことですよ?」
アンジーはきょとんとしながら、言葉を返す。イライアスの目が見開く。
「だって、夫婦となるのですから。少しくらい、人となりを知りたいと思うのは当然です」
たとえ政略結婚だったとしても。良好な関係を築きたいと願っても、罰は当たらないはずだ。
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