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第1章
第2話
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同意を求められ、父が目を伏せた。しばらくして、なにも言わずにうなずく。
「ですから、別の方法を考えましょう」
母の言葉で、議論が始まる。両親や兄たちは、いくつか案を出すがそのどれもが現実的ではなかった。
やはり、ここは――。
「お父さま、お母さま。少々よろしいでしょうか?」
控えめに手を挙げて、アンジーは発言の許可を求める。
この場にいる全員の視線を浴び、アンジーは軽く身を縮めた。けど、言わなくてはならない。
「アンジー、どうした」
「……私、ハジェンズに嫁ぎたいと思います」
自分の考えを告げると、一瞬で室内が静まり返った。そのあと、ざわめきが広がっていく。
「本気か?」
父の問いかけに首を縦に振った。
立ち上がり、この場にいる人間の顔を順番に見ていく。
両親に五人の兄。壁際に控え空気に徹する使用人。考え込む大臣たち。
「私が嫁ぐことでこの国が守れるのなら、行くべきです」
「だが、アンジー……」
「王族は国のために生きると教えてくださったのは、ほかでもないお父さまとお母さまです」
もちろん、不安はたくさんある。しかし、これはアンジーが国の役に立てるまたとない機会だ。
「私はこの国が大好きです。だから、役に立ちたいのです」
兄たちはそれぞれの分野で国の役に立っている。比べ、アンジーには特別秀でた能力がない。
周囲はそんなアンジーを大切にしてくれる。蝶よ花よと育ててくれた。
「国のために、この身をささげる覚悟はあります」
力強い言葉に、両親が顔を見合わせた。先ほどから口々に意見を述べていた兄たちも、黙り込んでしまう。
「どうか、お願いいたします。私はこの国を守りたいのです」
頭を下げる。室内に戸惑うような声が上がり、広がっていった。
だが、誰も決定的な言葉を口にしない。了承の言葉も反対の言葉も、なに一つ返ってこない。
「……父上、母上。アンジーの意見を尊重しましょう」
聞こえた声は三番目の兄のものだった。ほかでもない、最初にアンジーが嫁ぐことを反対した兄だ。
「お兄さま」
「アンジーが頑固なのは、お二人もわかっているでしょう。こうと決めたら、なかなか曲げません」
三番目の兄は立ち上がり、アンジーと同じように頭を下げた。
彼はアンジーを信じてくれている。だから、アンジーの意見を尊重しようと言っているのだ。
「……お前は、それでいいのか」
問う長兄の声は震えていた。
「アンジーは強がっているだけかもしれないのだぞ!」
「だったとしても! アンジーの意見を尊重することが、僕たちにできることです」
鋭いまなざしで長兄を見つめ、三番目の兄は言葉を続ける。
「……僕も、納得したわけではありません。ただ、この国の外交官として考えるのなら、アンジーの意見がもっとも正しい」
「それは、そうだが」
「兄としては、もちろん反対したい。しかし、アンジーは言った。王族としてこの国のために身をささげると」
部屋の誰もが息を呑んだ。長兄は反論しなかった。
「僕たちは王族です。この国を守る義務がある。僕にそれを思い出させてくれたのはアンジーの先ほどの言葉です」
ぐるりと見渡した兄の言葉に、誰も反論しなかった。
「アンジー、本当にいいんだね?」
「……えぇ、覚悟はできています。ハジェンズにお返事を書いてくださいますか?」
「あぁ、任せておいて」
アンジーの銀髪を軽くなでて、兄は笑った。
「これから忙しくなりますね。みなさまにあいさつをしなくてはなりませんもの」
「……そうだね」
貴族だけではなく、国民たちにも直接嫁ぐという報告がしたかった。
もちろん、詳しいいきさつを話すつもりはない。必要がないなら、言わないほうが余計な心配をかけずに済む。
「追い返されないようにがんばります。私の行動一つで、この国の運命が変わってしまうでしょうから」
アンジーはハジェンズの国王の人となりを知らない。なにが好きなのか、なにが嫌いなのか。一つとしてわからない。
(私に課せられた役目は、夫となる人の機嫌を損ねないこと。妃として、夫を支えること)
主張しない。目立たない。ほかに妃がいても、新しく妃がしたとしても。夫の意見を尊重する。
(私だけを見てほしい――なんて、高望みはしてはいけないわ。愛されたいと願ってもいけない)
政略結婚に愛など必要ない。表ではどれだけ仲良くふるまっていても、裏では冷めきった関係ということもよくある話だ。
「私、たくさん頑張りますから」
浮かべた笑みは、家族の目にどう見えたのだろうか。アンジーはちょっとだけ不安を抱いて、微笑んだ。
「ですから、別の方法を考えましょう」
母の言葉で、議論が始まる。両親や兄たちは、いくつか案を出すがそのどれもが現実的ではなかった。
やはり、ここは――。
「お父さま、お母さま。少々よろしいでしょうか?」
控えめに手を挙げて、アンジーは発言の許可を求める。
この場にいる全員の視線を浴び、アンジーは軽く身を縮めた。けど、言わなくてはならない。
「アンジー、どうした」
「……私、ハジェンズに嫁ぎたいと思います」
自分の考えを告げると、一瞬で室内が静まり返った。そのあと、ざわめきが広がっていく。
「本気か?」
父の問いかけに首を縦に振った。
立ち上がり、この場にいる人間の顔を順番に見ていく。
両親に五人の兄。壁際に控え空気に徹する使用人。考え込む大臣たち。
「私が嫁ぐことでこの国が守れるのなら、行くべきです」
「だが、アンジー……」
「王族は国のために生きると教えてくださったのは、ほかでもないお父さまとお母さまです」
もちろん、不安はたくさんある。しかし、これはアンジーが国の役に立てるまたとない機会だ。
「私はこの国が大好きです。だから、役に立ちたいのです」
兄たちはそれぞれの分野で国の役に立っている。比べ、アンジーには特別秀でた能力がない。
周囲はそんなアンジーを大切にしてくれる。蝶よ花よと育ててくれた。
「国のために、この身をささげる覚悟はあります」
力強い言葉に、両親が顔を見合わせた。先ほどから口々に意見を述べていた兄たちも、黙り込んでしまう。
「どうか、お願いいたします。私はこの国を守りたいのです」
頭を下げる。室内に戸惑うような声が上がり、広がっていった。
だが、誰も決定的な言葉を口にしない。了承の言葉も反対の言葉も、なに一つ返ってこない。
「……父上、母上。アンジーの意見を尊重しましょう」
聞こえた声は三番目の兄のものだった。ほかでもない、最初にアンジーが嫁ぐことを反対した兄だ。
「お兄さま」
「アンジーが頑固なのは、お二人もわかっているでしょう。こうと決めたら、なかなか曲げません」
三番目の兄は立ち上がり、アンジーと同じように頭を下げた。
彼はアンジーを信じてくれている。だから、アンジーの意見を尊重しようと言っているのだ。
「……お前は、それでいいのか」
問う長兄の声は震えていた。
「アンジーは強がっているだけかもしれないのだぞ!」
「だったとしても! アンジーの意見を尊重することが、僕たちにできることです」
鋭いまなざしで長兄を見つめ、三番目の兄は言葉を続ける。
「……僕も、納得したわけではありません。ただ、この国の外交官として考えるのなら、アンジーの意見がもっとも正しい」
「それは、そうだが」
「兄としては、もちろん反対したい。しかし、アンジーは言った。王族としてこの国のために身をささげると」
部屋の誰もが息を呑んだ。長兄は反論しなかった。
「僕たちは王族です。この国を守る義務がある。僕にそれを思い出させてくれたのはアンジーの先ほどの言葉です」
ぐるりと見渡した兄の言葉に、誰も反論しなかった。
「アンジー、本当にいいんだね?」
「……えぇ、覚悟はできています。ハジェンズにお返事を書いてくださいますか?」
「あぁ、任せておいて」
アンジーの銀髪を軽くなでて、兄は笑った。
「これから忙しくなりますね。みなさまにあいさつをしなくてはなりませんもの」
「……そうだね」
貴族だけではなく、国民たちにも直接嫁ぐという報告がしたかった。
もちろん、詳しいいきさつを話すつもりはない。必要がないなら、言わないほうが余計な心配をかけずに済む。
「追い返されないようにがんばります。私の行動一つで、この国の運命が変わってしまうでしょうから」
アンジーはハジェンズの国王の人となりを知らない。なにが好きなのか、なにが嫌いなのか。一つとしてわからない。
(私に課せられた役目は、夫となる人の機嫌を損ねないこと。妃として、夫を支えること)
主張しない。目立たない。ほかに妃がいても、新しく妃がしたとしても。夫の意見を尊重する。
(私だけを見てほしい――なんて、高望みはしてはいけないわ。愛されたいと願ってもいけない)
政略結婚に愛など必要ない。表ではどれだけ仲良くふるまっていても、裏では冷めきった関係ということもよくある話だ。
「私、たくさん頑張りますから」
浮かべた笑みは、家族の目にどう見えたのだろうか。アンジーはちょっとだけ不安を抱いて、微笑んだ。
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