【R18】政略結婚した夫が、妃の私に求めるのは世継ぎを産むことだけ……のはずだった。あれ? なんだか夫の様子がおかしいのですが?

すめらぎかなめ

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第1章

第14話【※】

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 イライアスが一瞬だけ戸惑いの様子を見せる。

 瞳の奥に宿った感情に、アンジーはがっかりした。だが、同時に納得もできる。

 彼にとって自分は世継ぎを産むためだけの存在。愛なんて、恋なんて。求めていないのだから。

 そもそも、これ以上なにを求めるのだろう。抱きしめてくれて、キスをしてくれた。それで満足したらいいのに……。

「ぁ、あっ」

 身体の痛みが心に伝染していくみたいだ。

 悲しくて、苦しくて。嗚咽を漏らす。

 涙がこぼれる。少しして、頬に温かいなにかが触れた。

「どうして、そんなことを求めるんだ」
「ど、うしてって」
「そんな言葉があったところで、なにが変わるんだ」

 また、頬に温かいものが触れる。これはイライアスの舌のようだ。彼の舌はアンジーの涙を丁寧になめとっていく。

「突然夫になった男の言葉など、嬉しくはないだろう」

 確かに、それはそうだ。では、なぜアンジーは彼からの言葉を求めたのだろうか。

(抱きしめてほしい。キスをしてほしい。これは痛みをごまかすために効果的なこと。……対して、言葉なんて)

 気休めでしかない。

 その言葉が愛している人からなら、気休め以上の意味はあるだろう。

 だが、自分たちは政略結婚だ。アンジーだって、割り切っていた……はず、なのだ。

(愛し合う男女の真似事がしたい――というのは、間違いないわ)

 でも、それだけではない気がする。

 アンジーが考え込んだのを見て、イライアスが大きく息を吐く。

 そういえば、今は考え込むような状況ではなかった。

「それでも必要ならば、いくらでも言ってやる」

 視線を絡ませ、彼がつぶやく。

「心のない言葉一つで喜ぶのなら、いくらでも――」

 刺々しい言葉だ。なのに、アンジーの肌を撫でる手つきは優しい。ちぐはぐさに、混乱してしまいそうになる。

「――どうしてほしい?」

 じっと瞳を見つめられ、アンジーは口を開いた。

「言って、ください。好きって、私のことを愛してるって――」

 強く目をつむる。目尻にたまった涙を吸い上げられ、イライアスの唇が耳元に移動する。

 耳朶を軽く噛まれて、身体が跳ねる。彼のモノをぐっと押し込まれ、怖いほどの圧迫感に襲われた。

「アンジー」

 しかし、耳元で名前を呼ばれると、恐怖が和らぐ。手のひらが肌の上をすべるたびに、余計な力が抜けていくのがわかった。

「――す、きだ」

 途中で途切れたものの、はっきり聞こえた。

「俺は、アンジーが好きだ、愛してる」

 嘘だってわかっているのに、心が揺さぶられた。

(偽りの言葉で喜ぶなんて、単純な女……)

 なんて思っても、気持ちを抑えることができなかった。

 だって、本当に嬉しいのだ。これが愛し合う男女の真似事でしかないとわかっていても。

「だから、大丈夫」

 安心させるように何度も何度も「大丈夫」とささやかれた。

 恐る恐る手を伸ばして、イライアスの背中に腕を回す。抱き着いても、咎められることはなかった。

「イライアス、さま」
「……あぁ」
「私も、好き」

 自然と言葉が出ていた。

「好き、好き。大好き――あいして、ます」

 心からの言葉じゃない。でまかせなのに、口にすると満たされていくような気がした。

「そうか」

 彼がつぶやくと同時に、動きが止まった。どうやら、最後まで挿ったらしい。

「……痛いか?」

 心配を宿した瞳で見つめられ、問いかけられた。

 確かに身体は痛い。けど、なぜか心は満たされていた。

「いいえ、とっても、うれしいです」

 はにかむと、イライアスは目を見開く。そして、そっと視線を逸らした。

 顔は真っ赤だ。照れているのだろう。

「私のお願い、聞いてくれてありがとうございます」
「……あぁ」

 短い会話だったが、アンジーの気持ちは伝わったはずだ。

 少しの間無言で見つめ合って、イライアスが動き始める。もう、苦しくはなかった。
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