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第2章
第11話
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「思うことがあるのなら、教えてくださいませ」
今度は拗ねたように唇を尖らせた。
子供っぽい仕草だと思われただろうか。けど、彼の思いを聞きだすためだ。仕方がない。
「私は陛下の考えを知りたいのでございます」
「……くだらないな」
大きなため息と同時に吐き捨てられた言葉の声音は、内容ほど冷たくはなかった。
アンジーが彼を見つめると、視線が絡まった。少しの沈黙を置いて、彼は口を開く。
「随分使用人と親しく接するのだな――と思ってな」
「ダメでしたか? これでも距離は置いているつもりなのですが」
グリーナウェイにいたときよりは、距離を取っているつもりだ。
これでも近いと言われるのか……。
「好きにしろ」
ワインをグラスに注いで、イライアスは一気に飲み干した。都合の悪いことをごまかしているみたいだ。
つい視線が温かくなった。視線を浴びた彼が眉間にしわを寄せる。
「キミの考えのほうがわからないだろう」
「そうですか? 私は結構わかりやすいと思いますが……」
サラダを口に運びつつ、きょとんとする。
アンジーは自分がわかりにくい人間だと思ったことはない。むしろ、両親や兄たちからわかりやすいと言われてきた。
「……でも、それもそうですよね。だって、私たち出逢ったばかりですもの」
よくよく考えると、そりゃそうだ。自分がイライアスのことがわからないのと同じくらい、彼も自分がわからないのだ。
だから、たくさん言葉を交わして、互いを知る必要がある。
「キミと交流する必要性を感じていない」
「これも交流の一つですわ」
一緒に食事をして、会話をする。これも立派なコミュニケーションだ。
「私、陛下が一緒に食事をしてくださると聞いて、とても嬉しく思いましたの」
パンをちぎって、口に運ぶ。柔らかくてふわふわしたパンは、口の中にほのかな甘さが広がってとても美味だった。
「どうとでも思えばいい」
「では、そうさせていただきますわ」
彼には拒否するという選択肢もあった。それをせずに、アンジーに判断をゆだねてくれた。とても嬉しい。
「キミといると調子が乱れる」
小さなつぶやきが耳に入る。
聞き手によってはけなされていると思うかもしれない。しかし、アンジーはこれを褒めと受け取っていた。
「……あ、そうですわ」
あることを思い出して、声をあげる。イライアスの意識がこちらに向いた。
「私、陛下に伝えたいことがありましたの」
「なんだ」
「――陛下は、もう少しお食事に興味をもったほうが良いかと思いますわ」
ちょっと厳しい声を意識して出した。
「こんなに美味しいお料理なのに、興味がないなんてもったいないです」
真剣に伝える。イライアスに響いているかはわからないが、どうしても伝えたかったのだから仕方がない。
「俺はエネルギーを摂ることができるなら、それでいい」
「それです、それ!」
突然の大声に、イライアスだけではなく使用人たちも驚いていた。彼らが顔を見合わせるのを一瞥し、心の中で謝る。気を遣わせてしまい、ごめんなさい――と。
「お料理ってとても手間のかかるものなのですよ」
食材を切るのも焼くのも煮るのも――。いや、むしろそれ以前にメニューを考えることさえ手間がかかっている。
彼はこの食事にどれだけの人がかかわっているのか知っているのだろうか。
「ですから、せめてその仏頂面をおやめください」
食事をしている最中、イライアスはずっと仏頂面だった。
最低限美味しいという感情を表に出してほしい。それだけで、料理人の努力は報われるだろうから。
「キミに指図されるようなことじゃないだろう」
「ですが――」
「きちんと残さず食べている。それだけで十分だろ」
今度は拗ねたように唇を尖らせた。
子供っぽい仕草だと思われただろうか。けど、彼の思いを聞きだすためだ。仕方がない。
「私は陛下の考えを知りたいのでございます」
「……くだらないな」
大きなため息と同時に吐き捨てられた言葉の声音は、内容ほど冷たくはなかった。
アンジーが彼を見つめると、視線が絡まった。少しの沈黙を置いて、彼は口を開く。
「随分使用人と親しく接するのだな――と思ってな」
「ダメでしたか? これでも距離は置いているつもりなのですが」
グリーナウェイにいたときよりは、距離を取っているつもりだ。
これでも近いと言われるのか……。
「好きにしろ」
ワインをグラスに注いで、イライアスは一気に飲み干した。都合の悪いことをごまかしているみたいだ。
つい視線が温かくなった。視線を浴びた彼が眉間にしわを寄せる。
「キミの考えのほうがわからないだろう」
「そうですか? 私は結構わかりやすいと思いますが……」
サラダを口に運びつつ、きょとんとする。
アンジーは自分がわかりにくい人間だと思ったことはない。むしろ、両親や兄たちからわかりやすいと言われてきた。
「……でも、それもそうですよね。だって、私たち出逢ったばかりですもの」
よくよく考えると、そりゃそうだ。自分がイライアスのことがわからないのと同じくらい、彼も自分がわからないのだ。
だから、たくさん言葉を交わして、互いを知る必要がある。
「キミと交流する必要性を感じていない」
「これも交流の一つですわ」
一緒に食事をして、会話をする。これも立派なコミュニケーションだ。
「私、陛下が一緒に食事をしてくださると聞いて、とても嬉しく思いましたの」
パンをちぎって、口に運ぶ。柔らかくてふわふわしたパンは、口の中にほのかな甘さが広がってとても美味だった。
「どうとでも思えばいい」
「では、そうさせていただきますわ」
彼には拒否するという選択肢もあった。それをせずに、アンジーに判断をゆだねてくれた。とても嬉しい。
「キミといると調子が乱れる」
小さなつぶやきが耳に入る。
聞き手によってはけなされていると思うかもしれない。しかし、アンジーはこれを褒めと受け取っていた。
「……あ、そうですわ」
あることを思い出して、声をあげる。イライアスの意識がこちらに向いた。
「私、陛下に伝えたいことがありましたの」
「なんだ」
「――陛下は、もう少しお食事に興味をもったほうが良いかと思いますわ」
ちょっと厳しい声を意識して出した。
「こんなに美味しいお料理なのに、興味がないなんてもったいないです」
真剣に伝える。イライアスに響いているかはわからないが、どうしても伝えたかったのだから仕方がない。
「俺はエネルギーを摂ることができるなら、それでいい」
「それです、それ!」
突然の大声に、イライアスだけではなく使用人たちも驚いていた。彼らが顔を見合わせるのを一瞥し、心の中で謝る。気を遣わせてしまい、ごめんなさい――と。
「お料理ってとても手間のかかるものなのですよ」
食材を切るのも焼くのも煮るのも――。いや、むしろそれ以前にメニューを考えることさえ手間がかかっている。
彼はこの食事にどれだけの人がかかわっているのか知っているのだろうか。
「ですから、せめてその仏頂面をおやめください」
食事をしている最中、イライアスはずっと仏頂面だった。
最低限美味しいという感情を表に出してほしい。それだけで、料理人の努力は報われるだろうから。
「キミに指図されるようなことじゃないだろう」
「ですが――」
「きちんと残さず食べている。それだけで十分だろ」
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