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第2章
第10話
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食堂について、案内された席に着く。
イライアスはすでに自身の席に座っていた。アンジーが入ってきたことに気づいても、ちらりと視線を向けてくるだけだ。興味を示す様子はない。
「アンジー殿下。お飲み物のご希望はございますか?」
「ノンアルコールならなんでも。お任せするわ」
アンジーの要望を聞き、従者は一礼をして側から離れる。
そっと視線をあげると、イライアスがこちらをじっと見ていた。なにかやらかしてしまったのかと、内心ヒヤッとする。
「キミは酒は飲めないのか?」
ただの問いかけだった。笑みを浮かべて、彼の質問に答える。
「飲めない――というのとは、少し違います。お酒を飲むとつい眠くなってしまって」
王族として必要な場では口にするようにしている。だが、好んで飲むことはないというだけだ。
「せっかく陛下とのお食事なのに、眠くなるなんていやですもの」
本心を伝えると、彼はそっと目を逸らした。その後、ごまかすためなのかグラスを煽り、中身を飲み干した。
「……嘘をつくなら、もっとましなものにしろ」
「心からの想いを伝えただけなのですが」
眉尻を下げて悲しそうな表情を作る。わざとらしかったかもしれないが、声にも悲壮感を込めた。
アンジーの表情を見たイライアスは、髪をガシガシと掻く。セットが乱れているがお構いなしだ。
「陛下、アンジー殿下。お食事の準備が整いました」
タイミングがいいのか悪いのか。料理長が配膳の終了を知らせる。
長方形の巨大なテーブルには、二人分とは思えないほど豪勢な料理が並んでいた。
サラダやパン、スープなどは数種類ずつ。メインディッシュは大皿に盛られた肉料理と魚料理が一品。デザートはカットされたメロンだ。
メニューの説明を聞きながら、料理を見渡した。どれもこれも美味しそうに盛り付けられ、アンジーの心が躍る。
(先ほどお菓子を食べたから入らないかも――と思ったけど)
これなら、全部食べることができそうだ。作ってもらった料理はできるだけ残したくない。
「――以上でございます」
料理長が説明を終えると、イライアスがナイフとフォークを手に取る。アンジーも同じように二つを手に取って、食事を始めた。
(本当に美味しい!)
基本の味付けはグリーナウェイとは違う。だが、いくつかの料理はグリーナウェイのものと味付けが似ていた。
特にサラダにかけられたドレッシングなんて、グリーナウェイのものをそのまま使ったのではないかと思ったほどだ。
「ねぇ、こちらのドレッシングなのだけど……」
控える料理長に声をかける。彼は驚いたように何度か瞬きをして、アンジーの側に寄ってくる。
「これ、グリーナウェイで食べたものととても味が似ているの。どうして?」
「はっ。じ、実は料理人の中にグリーナウェイに行ったことがある者がおりまして……。その者の意見を参考に、作らせていただきました」
臣下の礼を執る料理長の顔には汗が浮かんでいた。声をかけられたのがかなりの負担だったのだろうか。
ちょっとした申し訳なさを覚えつつも、アンジーはできる限りの笑みを浮かべる。
「とても美味しいわ。数日食べていないだけなのに、懐かしくて嬉しくなってしまったの」
もう食べることはないだろうと思っていたというのに、とても嬉しいサプライズだ。
アンジーの様子を見た料理長は、ほっとしたように息を吐いた。
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「これからもたまに出してくれるともっと嬉しいわ」
彼はもう一度頭を下げて、壁のほうに寄った。
不意に視線を感じて、その先を追う。アンジーを見つめていたのは予想通りイライアスだった。
「なにか?」
小首をかしげて視線の意味を問うと、彼はナイフとフォークを置き、グラスを手に取った。
「なんでもない」
なんでもないのなら、こんなにじっと見てこないだろう。心の中でつぶやいて、アンジーはもう一度にこりと笑う。
イライアスはすでに自身の席に座っていた。アンジーが入ってきたことに気づいても、ちらりと視線を向けてくるだけだ。興味を示す様子はない。
「アンジー殿下。お飲み物のご希望はございますか?」
「ノンアルコールならなんでも。お任せするわ」
アンジーの要望を聞き、従者は一礼をして側から離れる。
そっと視線をあげると、イライアスがこちらをじっと見ていた。なにかやらかしてしまったのかと、内心ヒヤッとする。
「キミは酒は飲めないのか?」
ただの問いかけだった。笑みを浮かべて、彼の質問に答える。
「飲めない――というのとは、少し違います。お酒を飲むとつい眠くなってしまって」
王族として必要な場では口にするようにしている。だが、好んで飲むことはないというだけだ。
「せっかく陛下とのお食事なのに、眠くなるなんていやですもの」
本心を伝えると、彼はそっと目を逸らした。その後、ごまかすためなのかグラスを煽り、中身を飲み干した。
「……嘘をつくなら、もっとましなものにしろ」
「心からの想いを伝えただけなのですが」
眉尻を下げて悲しそうな表情を作る。わざとらしかったかもしれないが、声にも悲壮感を込めた。
アンジーの表情を見たイライアスは、髪をガシガシと掻く。セットが乱れているがお構いなしだ。
「陛下、アンジー殿下。お食事の準備が整いました」
タイミングがいいのか悪いのか。料理長が配膳の終了を知らせる。
長方形の巨大なテーブルには、二人分とは思えないほど豪勢な料理が並んでいた。
サラダやパン、スープなどは数種類ずつ。メインディッシュは大皿に盛られた肉料理と魚料理が一品。デザートはカットされたメロンだ。
メニューの説明を聞きながら、料理を見渡した。どれもこれも美味しそうに盛り付けられ、アンジーの心が躍る。
(先ほどお菓子を食べたから入らないかも――と思ったけど)
これなら、全部食べることができそうだ。作ってもらった料理はできるだけ残したくない。
「――以上でございます」
料理長が説明を終えると、イライアスがナイフとフォークを手に取る。アンジーも同じように二つを手に取って、食事を始めた。
(本当に美味しい!)
基本の味付けはグリーナウェイとは違う。だが、いくつかの料理はグリーナウェイのものと味付けが似ていた。
特にサラダにかけられたドレッシングなんて、グリーナウェイのものをそのまま使ったのではないかと思ったほどだ。
「ねぇ、こちらのドレッシングなのだけど……」
控える料理長に声をかける。彼は驚いたように何度か瞬きをして、アンジーの側に寄ってくる。
「これ、グリーナウェイで食べたものととても味が似ているの。どうして?」
「はっ。じ、実は料理人の中にグリーナウェイに行ったことがある者がおりまして……。その者の意見を参考に、作らせていただきました」
臣下の礼を執る料理長の顔には汗が浮かんでいた。声をかけられたのがかなりの負担だったのだろうか。
ちょっとした申し訳なさを覚えつつも、アンジーはできる限りの笑みを浮かべる。
「とても美味しいわ。数日食べていないだけなのに、懐かしくて嬉しくなってしまったの」
もう食べることはないだろうと思っていたというのに、とても嬉しいサプライズだ。
アンジーの様子を見た料理長は、ほっとしたように息を吐いた。
「お褒めいただき、ありがとうございます」
「これからもたまに出してくれるともっと嬉しいわ」
彼はもう一度頭を下げて、壁のほうに寄った。
不意に視線を感じて、その先を追う。アンジーを見つめていたのは予想通りイライアスだった。
「なにか?」
小首をかしげて視線の意味を問うと、彼はナイフとフォークを置き、グラスを手に取った。
「なんでもない」
なんでもないのなら、こんなにじっと見てこないだろう。心の中でつぶやいて、アンジーはもう一度にこりと笑う。
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