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第2章
第9話
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夕食の準備ができたと知らせを受け、アンジーはイーノスに連れられて食堂へと向かった。
王城には二つ食堂がある。一つは普段使い用。もう一つは賓客を招いた際に使用するもてなし用だと説明を受けた。後者のほうが広々としており、入れる人数が広いとも。
「本日はどちらで食事をするのかしら?」
まだ客人が滞在していると聞いている。ほとんどの者が明日帰路に就く予定だとも。
「陛下のご要望で、お二人のみの食事の場となっております」
淡々とした声だった。けど、彼の言葉にアンジーの胸に嬉しい気持ちが広がっていく。
どうやら、イライアスはアンジーと共に食事をしてくれるらしい。
「ふふっ、そうなのね」
喜びが色濃く宿った声だった。イーノスも気づいているはずだ。
だが、彼はそれを指摘することはなかった。さすがは一流の側近というべきか。余計なことは指摘してこない。
「私のわがままを聞いてくださるなんて、本当にお優しい人で――」
「……随分と好き勝手言っているようだな」
背後から突然聞こえた声に内心驚いた。しかし、態度には出さずにゆっくり振り返る。
笑みを浮かべて声の主を見つめると、彼は眉間にしわを寄せていた。不快なことでもあったのだろうか。
「キミが俺をどう思い評価していようが知らないが、あまり声に出すな」
彼――イライアスはアンジーの隣を通り抜けた。イライアスの一歩はアンジーよりもかなり大きいため、追い越すことは容易いはずだ。
「グリーナウェイでは違ったかもしれないが、ここでは迂闊なことを口にしないほうがいい。もちろん、行動もだ」
これがイライアスなりの忠告だと、すぐに分かった。
大国の王城ともなると、悪意や陰謀が渦巻くと耳にしたことがある。特にハジェンズは王が妃を複数娶ることも珍しくない。
アンジーに付け入る隙があれば、ここぞとばかりに国の有力貴族たちが娘を売り込みに来る。一応アンジーが王妃となっているが、側室だって立派な妃。そして、子をもうけることで強固な立場を得ることが可能だ。
「心配してくださるのですね」
「違う。余計な火種を増やされると迷惑だと言っているだけだ」
早口で言葉を紡いで、彼はこの場から逃げるように廊下の奥へと進んでいく。
残されたアンジーがぽかんとしていると、隣から咳払いが聞こえた。音のほうに視線を向けると、困った表情のイーノスがいる。
「アンジーさまに限ってないでしょうが、あまり陛下を刺激しないでくださいませ」
「それはわかっているわ。……でも、私、思うことがあるの」
アンジーははじめ、彼の機嫌を損ねないために大人しい妃になろうとしていた。自己主張をせず、従順であろうとした。
「陛下、私がこういう風に素を見せると、ちょっとだけ目が優しくなるの」
お茶を飲んでいるとき。イライアスとのことを思い出して、気づいてしまった。
「……それが嬉しくて、ついついこうなってしまうみたい」
結婚してすぐに気づけたのは幸運だろう。気づかずに過ごしていたら、ずっと自分を偽っていただろうから。
肩をすくめたアンジーを見て、今度はイーノスが肩をすくめた。まるでやれやれと言いたげな仕草に、アンジーは笑う。
「長年陛下の側近をしておりますが、あの方の本質にこんなに早く気付かれた方ははじめてです」
「――ということは、イーノスは陛下の本質を知っていたのね?」
若干にらむように彼を見ると、イーノスは笑っていた。ごまかそうとしているのが分かったので、アンジーはぷいっと顔を背けた。
「だったら、教えてくれてもいいじゃない。……このままだと、無理をしてしまうところだったわ」
本気で思っているわけじゃない。ちょっと抗議がしたかったのと――照れ隠しの意味でもあった。
(私が、はじめて)
不思議とその言葉が胸にじんわりとしみ込んでいった。この感覚の理由はわからないが、不快ではないので悪いものではないだろう。
王城には二つ食堂がある。一つは普段使い用。もう一つは賓客を招いた際に使用するもてなし用だと説明を受けた。後者のほうが広々としており、入れる人数が広いとも。
「本日はどちらで食事をするのかしら?」
まだ客人が滞在していると聞いている。ほとんどの者が明日帰路に就く予定だとも。
「陛下のご要望で、お二人のみの食事の場となっております」
淡々とした声だった。けど、彼の言葉にアンジーの胸に嬉しい気持ちが広がっていく。
どうやら、イライアスはアンジーと共に食事をしてくれるらしい。
「ふふっ、そうなのね」
喜びが色濃く宿った声だった。イーノスも気づいているはずだ。
だが、彼はそれを指摘することはなかった。さすがは一流の側近というべきか。余計なことは指摘してこない。
「私のわがままを聞いてくださるなんて、本当にお優しい人で――」
「……随分と好き勝手言っているようだな」
背後から突然聞こえた声に内心驚いた。しかし、態度には出さずにゆっくり振り返る。
笑みを浮かべて声の主を見つめると、彼は眉間にしわを寄せていた。不快なことでもあったのだろうか。
「キミが俺をどう思い評価していようが知らないが、あまり声に出すな」
彼――イライアスはアンジーの隣を通り抜けた。イライアスの一歩はアンジーよりもかなり大きいため、追い越すことは容易いはずだ。
「グリーナウェイでは違ったかもしれないが、ここでは迂闊なことを口にしないほうがいい。もちろん、行動もだ」
これがイライアスなりの忠告だと、すぐに分かった。
大国の王城ともなると、悪意や陰謀が渦巻くと耳にしたことがある。特にハジェンズは王が妃を複数娶ることも珍しくない。
アンジーに付け入る隙があれば、ここぞとばかりに国の有力貴族たちが娘を売り込みに来る。一応アンジーが王妃となっているが、側室だって立派な妃。そして、子をもうけることで強固な立場を得ることが可能だ。
「心配してくださるのですね」
「違う。余計な火種を増やされると迷惑だと言っているだけだ」
早口で言葉を紡いで、彼はこの場から逃げるように廊下の奥へと進んでいく。
残されたアンジーがぽかんとしていると、隣から咳払いが聞こえた。音のほうに視線を向けると、困った表情のイーノスがいる。
「アンジーさまに限ってないでしょうが、あまり陛下を刺激しないでくださいませ」
「それはわかっているわ。……でも、私、思うことがあるの」
アンジーははじめ、彼の機嫌を損ねないために大人しい妃になろうとしていた。自己主張をせず、従順であろうとした。
「陛下、私がこういう風に素を見せると、ちょっとだけ目が優しくなるの」
お茶を飲んでいるとき。イライアスとのことを思い出して、気づいてしまった。
「……それが嬉しくて、ついついこうなってしまうみたい」
結婚してすぐに気づけたのは幸運だろう。気づかずに過ごしていたら、ずっと自分を偽っていただろうから。
肩をすくめたアンジーを見て、今度はイーノスが肩をすくめた。まるでやれやれと言いたげな仕草に、アンジーは笑う。
「長年陛下の側近をしておりますが、あの方の本質にこんなに早く気付かれた方ははじめてです」
「――ということは、イーノスは陛下の本質を知っていたのね?」
若干にらむように彼を見ると、イーノスは笑っていた。ごまかそうとしているのが分かったので、アンジーはぷいっと顔を背けた。
「だったら、教えてくれてもいいじゃない。……このままだと、無理をしてしまうところだったわ」
本気で思っているわけじゃない。ちょっと抗議がしたかったのと――照れ隠しの意味でもあった。
(私が、はじめて)
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