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第2章
第13話
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その日の夜。あと三十分で日付が変わるという時間だが、アンジーは起きていた。
寝台に腰かけ、足をぶらぶらとさせる。行儀が悪いが、だれも見ていない場所くらいリラックスがしたかった。
オパールたち専属侍女と就寝のあいさつを交わしたのは、三時間も前だ。あれからずっと、夫婦の寝室で一人考え事をしている。
(陛下が来てくださる保証はないけど……)
でも、どうしても話がしたかった。
彼が寝室に来るかはわからないし、来たとしても何時になるかもわからない。
起きていても無駄になることだって十分あり得る。
しかし、言葉を交わしたかった。ちょっとでも彼の心に近づけるように――。
扉が開く音がして、慌てて顔をあげる。立っていたのはイライアスだ。彼はアンジーを見て顔をしかめる。
「どうして起きているんだ。さっさと寝ろ」
大股で寝台の側までやってきて、アンジーを見下ろした。
「私、イライアスさまとお話がしたかったのです」
一度だけ目をこすって、イライアスを見上げる。しばらく見つめ合う。先に視線を逸らしたのはイライアスだった。彼はアンジーの隣に腰かけた。寝台が沈んで、アンジーはバランスを崩してしまう。
「……夕食のときのことは気にしなくていい」
「そうはいきません。私、イライアスさまがお優しいのをいいことに、口を出しすぎてしまいました」
頭を下げる。イライアスはなにも言わなかった。
「ですから、せめて謝罪だけでも――と、思ったのです」
「俺は気にしていない。だから、キミも気にするな。忘れろ」
取り付く島もないくらい、そっけない言葉だった。
アンジーは思考をフル回転させる。
なんとかもう少し話を続けられないだろうか?
(言葉を交わすまではいかなくても、一緒の時間を過ごせたら――)
不意に一つの考えが浮かんだ。
突然立ち上がったアンジーは、自身のナイトドレスに手をかける。
ボタンを一つ外したところで、イライアスもアンジーの行動の理由に気づいたようだ。
アンジーの小さな手をつかんで、やりたいことを妨害してくる。
「待て。まさかだが、脱ぐつもりじゃないだろうな?」
「なぜ、当たり前のことを確認されるのですか?」
逆に問いかける。
そもそも、アンジーの一番の役割は世継ぎを産むこと。そして、周囲を安心させるためにも、務めを果たすためにも。アンジーは一刻も早く懐妊しなくてはならない。
(それに、抱いてくださるということは一緒の時間を過ごしているということ)
昨日の今日なので、怖い気持ちが大部分を占めている。一番痛いのは最初だと聞いた。だが、二度目以降も痛み自体はあるのだろう。一度目ほどの激痛ではないにしても、やっぱり怖い。
それでも、彼と一緒の時間を過ごしたかった。
「私の一番のお役目は世継ぎを産むことです。それに、周りは一日でも早い懐妊を望んでいるはずです」
期待に応えるためなら、アンジーは自分の恐怖を押し殺したっていいと思っている。だって、それが王族の務めなのだから。
「それに、抱いてくださるということはイライアスさまと一緒の時間を過ごすことにもなります」
言葉がなくても、彼の肌の温度を感じられるのなら、それでいい。
心からの言葉を口にしたつもりだったが、ほんの少し声が震えてしまった。ごまかすように笑う。
「ですから、どうぞお好きなようにしてください」
イライアスの手を振り払おうとしたのに、彼の力は全く緩まない。むしろ、強くなっている気がする。
「脱がなくていい」
「どうしてですか? もしかして、イライアスさまは脱がせるのがお好きですか?」
性癖は様々だ。アンジーの想像できないことを性癖とする人間だっている……はず。
「でしたら――」
「まずきちんと話を聞け。俺はキミを抱くつもりはない」
その言葉に、室内の温度が数度下がった気がした。沈黙が場を支配する。
アンジーは彼の言葉を理解したくなかった。
寝台に腰かけ、足をぶらぶらとさせる。行儀が悪いが、だれも見ていない場所くらいリラックスがしたかった。
オパールたち専属侍女と就寝のあいさつを交わしたのは、三時間も前だ。あれからずっと、夫婦の寝室で一人考え事をしている。
(陛下が来てくださる保証はないけど……)
でも、どうしても話がしたかった。
彼が寝室に来るかはわからないし、来たとしても何時になるかもわからない。
起きていても無駄になることだって十分あり得る。
しかし、言葉を交わしたかった。ちょっとでも彼の心に近づけるように――。
扉が開く音がして、慌てて顔をあげる。立っていたのはイライアスだ。彼はアンジーを見て顔をしかめる。
「どうして起きているんだ。さっさと寝ろ」
大股で寝台の側までやってきて、アンジーを見下ろした。
「私、イライアスさまとお話がしたかったのです」
一度だけ目をこすって、イライアスを見上げる。しばらく見つめ合う。先に視線を逸らしたのはイライアスだった。彼はアンジーの隣に腰かけた。寝台が沈んで、アンジーはバランスを崩してしまう。
「……夕食のときのことは気にしなくていい」
「そうはいきません。私、イライアスさまがお優しいのをいいことに、口を出しすぎてしまいました」
頭を下げる。イライアスはなにも言わなかった。
「ですから、せめて謝罪だけでも――と、思ったのです」
「俺は気にしていない。だから、キミも気にするな。忘れろ」
取り付く島もないくらい、そっけない言葉だった。
アンジーは思考をフル回転させる。
なんとかもう少し話を続けられないだろうか?
(言葉を交わすまではいかなくても、一緒の時間を過ごせたら――)
不意に一つの考えが浮かんだ。
突然立ち上がったアンジーは、自身のナイトドレスに手をかける。
ボタンを一つ外したところで、イライアスもアンジーの行動の理由に気づいたようだ。
アンジーの小さな手をつかんで、やりたいことを妨害してくる。
「待て。まさかだが、脱ぐつもりじゃないだろうな?」
「なぜ、当たり前のことを確認されるのですか?」
逆に問いかける。
そもそも、アンジーの一番の役割は世継ぎを産むこと。そして、周囲を安心させるためにも、務めを果たすためにも。アンジーは一刻も早く懐妊しなくてはならない。
(それに、抱いてくださるということは一緒の時間を過ごしているということ)
昨日の今日なので、怖い気持ちが大部分を占めている。一番痛いのは最初だと聞いた。だが、二度目以降も痛み自体はあるのだろう。一度目ほどの激痛ではないにしても、やっぱり怖い。
それでも、彼と一緒の時間を過ごしたかった。
「私の一番のお役目は世継ぎを産むことです。それに、周りは一日でも早い懐妊を望んでいるはずです」
期待に応えるためなら、アンジーは自分の恐怖を押し殺したっていいと思っている。だって、それが王族の務めなのだから。
「それに、抱いてくださるということはイライアスさまと一緒の時間を過ごすことにもなります」
言葉がなくても、彼の肌の温度を感じられるのなら、それでいい。
心からの言葉を口にしたつもりだったが、ほんの少し声が震えてしまった。ごまかすように笑う。
「ですから、どうぞお好きなようにしてください」
イライアスの手を振り払おうとしたのに、彼の力は全く緩まない。むしろ、強くなっている気がする。
「脱がなくていい」
「どうしてですか? もしかして、イライアスさまは脱がせるのがお好きですか?」
性癖は様々だ。アンジーの想像できないことを性癖とする人間だっている……はず。
「でしたら――」
「まずきちんと話を聞け。俺はキミを抱くつもりはない」
その言葉に、室内の温度が数度下がった気がした。沈黙が場を支配する。
アンジーは彼の言葉を理解したくなかった。
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