【R18】政略結婚した夫が、妃の私に求めるのは世継ぎを産むことだけ……のはずだった。あれ? なんだか夫の様子がおかしいのですが?

すめらぎかなめ

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第2章

第14話

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(それって、どういうこと? もしかして、私の身体が不満だった?)

 手からすっと力が抜けた。

 動揺が隠せない。抱いてもらえないとアンジーの役目がこなせないから。

「――さっさとボタンをかけろ」

 命じられても、動けない。指先から冷え切っていくみたいで、腕は鉛のように重い。

 うつむいてじっとしているアンジーに焦れたのか、イライアスがボタンをかけた。

「期待外れ、でしたか?」

 問いかける声は小さくて、震えていた。

 顔をあげることができなくて、絨毯を見つめ続ける。

「私の身体では、イライアスさまのことを満足させることができませんでしたか?」

 満足できなかったと言われたら、どうしようか。

 もし、離縁されてしまったら。国に迷惑がかかってしまう。それだけはなんとしてでも避けたい。

「だ、抱いてくださるのなら、なんでもします。その、痛いことはいや……ですけど」

 胸の前で手をぎゅっと握る。手に意識を集中することで、泣きたいのをこらえた。

 イライアスは優しい人だ。他者を痛めつけたりはしない――と思いたい。

「どうしてそういう発想になるんだ」

 大きなため息が聞こえて、肩がびくっと跳ねた。

「だって、抱くつもりはないってそういうこと、でしょう……?」

 恐る恐る彼の瞳を見た。瞳には呆れの感情がこれでもかというほどに宿っている。

「早とちりはキミの悪い癖みたいだな。ずっと抱くつもりがないとは言っていないだろ」
「えぇっと」
「今日のところは抱くつもりがないというだけだ」

 瞬きを繰り返す。小首をかしげると、彼は額を押さえる。物分かりの悪い子どもを前にしたみたいな態度だ。

「慣れない生活で疲れているだろ。今は懐妊することより、生活に慣れることを優先したほうがいい」
「ですが……」
「世継ぎは必要だが、まだ急ぐことはない。周りが急かしてきても無視をしろ」

 説明を聞いてもアンジーが納得していないことは、イライアスにも伝わっているのだろう。彼はしばし思案して、アンジーの肩をつかむ。そのまま寝台に押し倒して、アンジーの身体の上に乗ってくる。瞬間、昨夜のことを一気に思い出す。痛みへの恐怖から喉が鳴った。

「怯える女を無理に抱く趣味はない。むしろ、興奮しそうにない」

 はっきり言われて、ほっとしていた。胸を撫でおろすアンジーを見てか、イライアスがアンジーの上から退く。

「――というわけだ。別にキミの身体が期待外れとか、満足できなかったとか。そういうことじゃない」

 イライアスの頬は微かに赤かった。赤い頬は言葉以上にこれが嘘じゃないと伝えてくる。

「では、これからも抱いてくださいますか……?」

 目を逸らすことなく問う。自分でも変なところで大胆だと思う。しかし、確認しないと安心できなかった。

「キミが生活に慣れて、いやではなかったらな」
「いやになどなりません。私は世継ぎを産むために嫁いだのですから」

 安堵から柔らかい笑みが出た。イライアスが目を見開く。

「ただ、痛いことはいやなのでそこだけはご理解いただきたく」
「その調子でよくなんでもするなどと言ったな」
「言わないといけない気がしたのです」

 今までで一番テンポのいい会話だったかもしれない。

 これはきっと、互いの心がちょっと近づいた証だ。

「……そうか」

 沈黙が流れる。だが、この沈黙は心地のいいものだった。

 気まずい空間じゃない。互いにリラックスしているからこその空気に、アンジーは頬を緩める。

 そして、寝台に横たわったイライアスの側に寄った。

「なぜこんなに近づいてくる」
「一緒にいたいからです」

 腕にぎゅっとしがみつく。

 イライアスの腕は想像よりもたくましいものだった。昨夜も見たし触れたけど、そこまで気にする余裕はなかった。

(騎士をやっているお兄さまの腕も、こんな感じだった気がする)

 年頃になってから直接的な接触が減ったこともあり、騎士をやっている兄の腕の記憶はどこかおぼろげだった。それでもこんな腕をしていたような――気がする。

「くっつくなら、勝手にしたらいい」
「そうさせてもらいますね」

 振り払われなかっただけ、まだマシだ。

 なんだか彼の懐に入れた気がして、アンジーは微笑んだ。
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