【R18】女騎士から聖女にジョブチェンジしたら、悪魔な上司が溺愛してくるのですが?

すめらぎかなめ

文字の大きさ
2 / 28
第1章 女騎士から聖女にジョブチェンジ!?

セレーナ・ビーズリーの事情 2

しおりを挟む
 その声を聞いた瞬間、セレーナの背筋に冷たいものが走った。

 恐る恐るそちらに視線を向ければ、そこにいるのはほかでもないアッシュだ。

「今度のパトロール、どうぞよろしくお願いしますね」

 彼はそれだけを告げると、颯爽と場を立ち去る。

 セレーナがそれにほっと息を吐けば、同僚は「と、いうわけなんだよ」と言ってにっこりと笑った。

 ……普通に勘弁してほしい。

「まぁ、アッシュ隊長、お前には甘いし、なんだかんだ言いつつも上手くやっていけるだろうよ」
「……甘いわけがないじゃない!」

 彼の言葉には語弊がある。

 一般的に『甘い』といえば、甘やかす行為を想像するだろう。だが、どうやらアッシュの場合は気に入った人間へのしごきがレベルアップするらしく、セレーナは彼によって度々ひどい目に遭わされてきた。

 まぁ、彼に気に入られている……というのは、ある意味正解なのだろう。

「まぁまぁ。そもそも、アッシュ隊長お前に気があるっていう噂もあるんだぞ?」
「なにそれ。真っ赤な嘘もいいところだわ」

 そんなことをぼやきながら、セレーナは露骨に肩を落とす。

 視線を動かせば、そこには休憩中のメイドたちに囲まれているアッシュがいた。

 さらりとした漆黒色の髪。鋭い青色の目。彼の顔立ちはとても美しく、いわば美形なのだ。そのため、アッシュの本性を知らないメイドや侍女は彼にすり寄っていく。

 彼の生まれが名門貴族シールズ伯爵家であるということも、人気に拍車をかける要因だろうか。

(まぁ、アッシュ隊長外面はいいかぁな……)

 社交界でもアッシュは人気がある。セレーナも度々社交界に顔を出すが、そのたびに美しい令嬢たちに囲まれているのを目撃しているのだ。その際の彼は仏頂面ではあるものの、機嫌は悪くなさそうだった。

(でも、どちらにせよアッシュ隊長と一緒にパトロールなんて、勘弁してほしいのに……)

 同僚にそういう視線を向ければ、彼は「じゃ、じゃあな!」と言って早足で立ち去っていく。……どうやら、逃げたらしい。

「……けれど、どんなに嫌なことがあっても騎士を辞めるなんて選択肢はないのよね。このままだと、完全に嫁き遅れになってしまうけれど」

 たとえ完全な嫁き遅れになったところで、セレーナは気にすることもないだろう。それに、こんな風に働くことを選んだのはセレーナ自身なのだ。誰かを責めて責任転嫁するような最低な女にはなれそうにない。

「まぁ、こんな私を娶ってくれるような希少な人、いないだろうしね」

 普通の令嬢のように肌がきれいなわけではない。騎士の仕事柄、肌にはいくつかの傷があり、太陽にも焼けてしまっている。爪だってきれいに整えてはいないし、髪の毛も同様。……そもそも、セレーナは長身の部類に入るので、可愛らしいものが似合わないのだ。

「さぁて、訓練に――」
「セレーナ嬢」

 また、後ろから声が聞こえてきた。それに驚いて慌てて振り向けば、そこにはアッシュがいる。……頬が、引きつるのがわかった。

「少し、いいでしょうか?」
「あ、はい」

 どうやら、怒られるわけではないらしい。

 それに胸をなでおろそうとすれば、彼は「これ、よかったら食べてください」と言ってなにやら紙袋を手渡してくる。

「……え?」
「この間、雑誌で見ていましたよね?」

 アッシュはなんでもない風にそう言ってくる。確かに紙袋の店名には、つい先日セレーナが雑誌で見ていいなぁと思っていた店の名前が書かれていた。

(いや、言っていないんだけれど……)

 そう思いつつ頬を引きつらせ続けていれば、彼は「じゃあ、失礼します」と言ってまた場を立ち去っていく。

 紙袋の中を覗き込めば、中に入っているのはマフィンだった。数はいつも通り八つ。

(うん、これだけあればあの子たち全員にいきわたるわね……)

 正直なところ、セレーナはアッシュが苦手である。けれど、彼のことを嫌いとまで言えないのが……こういう気遣いが素晴らしいためだ。騎士たち一人一人の行動をしっかりと把握し、彼は完璧な気遣いをする。

 だからこそ、騎士たちも『悪魔の隊長』と呼びつつもアッシュのことを慕っているのだ。

(けど、本当に一緒にパトロールは勘弁してほしいんだけれどなぁ……)

 心の中で苦笑を浮かべながら、セレーナは紙袋を持って更衣室に向かう。

 さすがにこの炎天下に置いておくと痛んでしまうだろう。ならば、空調が効いている更衣室においておいたほうがいい。そういう判断だった。

「ねぇねぇ、アッシュ様って本当に素敵よねぇ」

 歩いていると、王宮の侍女らしき女性がひそひそとそんな話をしているのが聞こえてくる。

 やはり、アッシュは女性人気がとても高い。それを、再認識してしまう。

「だけど、この間リーナが告白して玉砕したって聞いたわよ?」
「そうなのよぉ。リーナって王宮侍女の中でも屈指の可愛さでしょ? おかしいなぁって」

 何処の女性もうわさ話は大好きなんだな。

 心の中でそう思いつつ、セレーナは彼女たちの会話を特に気に留めることはなく、側を通り抜けたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

処理中です...