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第1部 第1章

従者の特別な仕事 4

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 強く目を瞑って、息を呑んだ。

 けど、それだと逆に手の動きに全神経が集中してしまって。

 僕は、余計にその動きに翻弄されることしか出来なくなる。

「ルドルフ」

 僕の身体を後ろから抱きしめて、セラフィンさまがそう囁かれる。

 ぞくっとしたなにかが身体中に這いまわって、身体の芯が熱くなっていく。

「……どうした?」

 わざとらしく、そう問いかけられた。

(理由なんて、わかって……!)

 セラフィンさまは勘が鋭い。だから、僕がこうなっている理由なんて、見当がついているだろうに。

 ……本当に、意地が悪い。

「せ、らふぃん、さま!」
「うん、どうした?」

 セラフィンさまの手が、僕の腹を撫でて、胸に触れる。

 小さな突起に指が触れる。ぎゅっとつままれて、ぴりりとした甘い痛み……というか、悦楽。

「こ、こういう、のっ……!」
「こういうのとは、どういうのなんだろうね?」

 い、意地が悪い……!

 それを再認識しつつ、僕は自分の口に手を当てる。声、声だけは、出しちゃダメだ。

(僕が感じてるって気が付かれたら、気持ち悪がられるかもしれない)

 頭の片隅に、恐ろしい想像がちらついた。

 だから、僕は声を押し殺そうとするのに。

「ぁあっ!」

 セラフィンさまが、僕のうなじに噛みついてくるから。甲高い声が漏れた。

「……余計なこと、考えるな」

 普段とは違う、きつい口調。僕は、こくこくと首を縦に振ることしか出来ない。

「そう、いい子」

 今度は、とろけるような甘い声で、そう囁かれた。

 こういうの、女性だったら喜ぶんだろうな。心の片隅でそう思って、ちくっと胸が痛む。

「今は、俺の手の感触だけに集中して。……ほかのことは、考えるな」
「ん」

 もう一度首を縦に振れば、セラフィンさまは笑われた。顔は見えない。ただ、くすっと声が漏れたから、そう思った。

「声も、出していいよ。……ここは、防音だから」

 セラフィンさまが、そう伝えてこられる。……か、といって。

(声、出せるわけがない……!)

 やっぱり、ほら。いろいろと、思うことがあるし……。

 僕のその考えを打ち消すのは、やっぱりいつもセラフィンさまだ。

 彼は僕の胸の突起を指で弄り続ける。はじいて、つまんで。指の腹でぐりぐりと押しつぶして。

 ……否応なしに下肢に熱が溜まっていく。

「ルドルフ、可愛いね。……こっちも、触っていい?」

 そう問いかけられたセラフィンさまが、手を動かされる。それは僕の肌を伝って、腰を撫でる。

 ぞくりとした感覚に身を震わせている間に、手のひらが僕の下穿きの中に入ってくる。

「だ、め、ですっ!」

 そんなところ、触れられたら――と、思って抗議しようとする。なのに、もう手遅れだった。

「もう、反応しちゃってるんだ。……可愛い」
「――うっ」

 緩く勃ち上がった竿をするりと撫でられる。

 そのまま今度は手が僕の肉棒を包み込んでくる。温かい……って、そうじゃない。

「だ、だ、め! セラフィン、さまっ!」

 そんな汚いもの、セラフィンさまに触れさせてはならない。

 その一心で僕は、セラフィンさまの手から逃れようとする。でも、手のひらがゆっくりと動き始めて、抵抗も出来なくなる。

「……こういうのが、いいんだよね。ほら、もっと感じていいよ」

 セラフィンさまはそうおっしゃるけれど。いろいろな意味で、僕はいたたまれない。

(なんで、僕、こんな……)

 こんなのは、主にしていただくことじゃない。そもそも、普通の主従はこんなことしない。

 いや、違う。親友でも、同僚でも。普通はこんなことしない。……一般常識に疎い僕でも、それくらいはわかる。

 わかっている。わかっているのに。僕の身体は言うことを聞いてくれない。与えられる悦楽に、身体を自然と跳ねさせることしか出来なくて……。

「気持ちいいね。俺の手で感じてくれるなんて、本当に幸せだ」

 セラフィンさまが、僕の耳元でそう囁かれるから。

 僕の目から、涙が零れた。その涙の意味は、僕にもよくわからなかった。
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