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第1章
④
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(本当に、美しいな)
先ほどよりも着飾ったヴィクトール殿下は、まさに絶世の美男子だった。
白い衣装が王族専用の数々の装飾で彩られている。だが、数々の装飾にも負けず劣らずに美しいヴィクトール殿下。陳腐な表現だが、美の女神も嫉妬するのではないかと思ってしまう。
「ヴィクトール殿下はここ数年で美しさにさらに磨きがかかられたのよ」
「そうなのか?」
「えぇ。美しいし物腰柔らか。だから、あの状態よ」
カミラがヴィクトール殿下に視線を送る。殿下の周囲には美しく着飾ったご令嬢たちが集ま……いや、群がっていた。
「わからないでもないけど、あれでは殿下は珍しい花ね」
「周囲に集まるご令嬢が蝶ってか」
「そういうこと」
確かに間違いではないかもしれない。色とりどりのドレスは蝶の羽にも見えるからな。
ただ、花に群がる蝶という表現は少し違うような気もする。
「どちらかといえば、餌に群がる肉食獣だろう」
我先にとヴィクトール殿下の目に留まろうとするご令嬢たち。俺には肉食獣にしか見えない。
「あははっ、それもそうかもね。けど、普通の貴族はそういう露骨な例えはしないのよ」
「悪いな、普通の貴族じゃなくて」
こっちは立派な田舎貴族だ。王都で社交に精を出す貴族とは違う生き物だと思ってほしい。
「私はあなたのそういうところ、好きよ。夫がいなかったら結婚してもいいかなって思うくらい」
「俺はお前みたいな気の強い女はごめんだよ」
カミラは女騎士の中でも屈指の気の強さを持っていた。男の騎士を地面にたたき伏せ、尻に敷く姿は何度も目撃している。
こいつと結婚すると、俺は間違いなく尻に敷かれる毎日だ。
「あなたはデリカシーがないからモテないのよ」
「そうかもな」
まぁ、俺はモテたいと思ったことが一度もないから問題ないが。
俺がカミラと並んで軽口をたたき合っていると、ヴィクトール殿下が周囲をきょろきょろと見渡していた。
誰かを捜しているんだろうか。もしかして、例の好きな相手だろうか?
(殿下もすっかり男になったんだな)
あのひ弱な少年がよくぞここまで……と年寄り臭いことを思っていると、周囲の令嬢たちに断りを入れた殿下がこちらに歩いてくるのがわかった。
「ラードルフさん」
にこやかに笑ったヴィクトール殿下が、俺に声をかけてくる。驚きすぎて声が出なかった。まさか、こっちに来るなんて。
「今日は本当に来てくださって嬉しいです。断られると思っていたもので」
「あ、あぁ……」
それは今ここで話すことじゃないだろう!
殿下からは見えないだろうが、後ろのご令嬢たちの殺気がすごいんだが。
「あ、どうぞ」
「……あ、あぁ」
もう「あぁ」しか口から出てこない。
殿下が近くに控えていた専属従者からグラスを受け取って、俺に差し出す。俺はグラスをおずおずと受け取った。グラスに注がれているのは色からして赤ワインだろうか。
「俺、ずっとラードルフさんとゆっくりとお話がしたくて」
「そうか。ただ、今ゆっくりと話をすることは出来そうにないんだが……」
周囲の視線がとにかく痛い。先ほどまでカミラがいた場所を見ると、アイツはいなくなっていた。絶対に逃げたな。
変な汗が出てきた。誤魔化すように赤ワインを口に運べば、殿下は笑う。美しすぎて、目がつぶれそうだ。
「どうしてですか? せっかく再会できたのに」
殿下が眉を下げた。その表情は、罪悪感が募ってくるから切実にやめてほしい。
「俺と話すの、嫌ですか? 嫌だから、俺の指導係も辞めたんですか?」
「嫌とか、そういう問題じゃなくてだな」
貴族たちの視線が俺に刺さる。チクチクとした痛みで今すぐにでも逃げ出したい。精神的な攻撃を食らうのは苦手だ。
「ほかの客人方も、ヴィクトール殿下とお話がしたいでしょうから。俺ばかり殿下とお話していては、妬まれてしまいますよ」
出来る限りヴィクトール殿下を傷つけないように、言葉をつむいだ。
俺の言葉を聞いた殿下は一瞬だけぽかんとする。でも、すぐに笑った。心の底からの笑みに見える。なのに、俺の背筋にぞっとしたものが這いまわった。
「ほかの人は、関係ないですよ」
ヴィクトール殿下の手が俺の手をつかむ。いきなりの行動に驚いて、俺の口が間抜けにも開いた。
先ほどよりも着飾ったヴィクトール殿下は、まさに絶世の美男子だった。
白い衣装が王族専用の数々の装飾で彩られている。だが、数々の装飾にも負けず劣らずに美しいヴィクトール殿下。陳腐な表現だが、美の女神も嫉妬するのではないかと思ってしまう。
「ヴィクトール殿下はここ数年で美しさにさらに磨きがかかられたのよ」
「そうなのか?」
「えぇ。美しいし物腰柔らか。だから、あの状態よ」
カミラがヴィクトール殿下に視線を送る。殿下の周囲には美しく着飾ったご令嬢たちが集ま……いや、群がっていた。
「わからないでもないけど、あれでは殿下は珍しい花ね」
「周囲に集まるご令嬢が蝶ってか」
「そういうこと」
確かに間違いではないかもしれない。色とりどりのドレスは蝶の羽にも見えるからな。
ただ、花に群がる蝶という表現は少し違うような気もする。
「どちらかといえば、餌に群がる肉食獣だろう」
我先にとヴィクトール殿下の目に留まろうとするご令嬢たち。俺には肉食獣にしか見えない。
「あははっ、それもそうかもね。けど、普通の貴族はそういう露骨な例えはしないのよ」
「悪いな、普通の貴族じゃなくて」
こっちは立派な田舎貴族だ。王都で社交に精を出す貴族とは違う生き物だと思ってほしい。
「私はあなたのそういうところ、好きよ。夫がいなかったら結婚してもいいかなって思うくらい」
「俺はお前みたいな気の強い女はごめんだよ」
カミラは女騎士の中でも屈指の気の強さを持っていた。男の騎士を地面にたたき伏せ、尻に敷く姿は何度も目撃している。
こいつと結婚すると、俺は間違いなく尻に敷かれる毎日だ。
「あなたはデリカシーがないからモテないのよ」
「そうかもな」
まぁ、俺はモテたいと思ったことが一度もないから問題ないが。
俺がカミラと並んで軽口をたたき合っていると、ヴィクトール殿下が周囲をきょろきょろと見渡していた。
誰かを捜しているんだろうか。もしかして、例の好きな相手だろうか?
(殿下もすっかり男になったんだな)
あのひ弱な少年がよくぞここまで……と年寄り臭いことを思っていると、周囲の令嬢たちに断りを入れた殿下がこちらに歩いてくるのがわかった。
「ラードルフさん」
にこやかに笑ったヴィクトール殿下が、俺に声をかけてくる。驚きすぎて声が出なかった。まさか、こっちに来るなんて。
「今日は本当に来てくださって嬉しいです。断られると思っていたもので」
「あ、あぁ……」
それは今ここで話すことじゃないだろう!
殿下からは見えないだろうが、後ろのご令嬢たちの殺気がすごいんだが。
「あ、どうぞ」
「……あ、あぁ」
もう「あぁ」しか口から出てこない。
殿下が近くに控えていた専属従者からグラスを受け取って、俺に差し出す。俺はグラスをおずおずと受け取った。グラスに注がれているのは色からして赤ワインだろうか。
「俺、ずっとラードルフさんとゆっくりとお話がしたくて」
「そうか。ただ、今ゆっくりと話をすることは出来そうにないんだが……」
周囲の視線がとにかく痛い。先ほどまでカミラがいた場所を見ると、アイツはいなくなっていた。絶対に逃げたな。
変な汗が出てきた。誤魔化すように赤ワインを口に運べば、殿下は笑う。美しすぎて、目がつぶれそうだ。
「どうしてですか? せっかく再会できたのに」
殿下が眉を下げた。その表情は、罪悪感が募ってくるから切実にやめてほしい。
「俺と話すの、嫌ですか? 嫌だから、俺の指導係も辞めたんですか?」
「嫌とか、そういう問題じゃなくてだな」
貴族たちの視線が俺に刺さる。チクチクとした痛みで今すぐにでも逃げ出したい。精神的な攻撃を食らうのは苦手だ。
「ほかの客人方も、ヴィクトール殿下とお話がしたいでしょうから。俺ばかり殿下とお話していては、妬まれてしまいますよ」
出来る限りヴィクトール殿下を傷つけないように、言葉をつむいだ。
俺の言葉を聞いた殿下は一瞬だけぽかんとする。でも、すぐに笑った。心の底からの笑みに見える。なのに、俺の背筋にぞっとしたものが這いまわった。
「ほかの人は、関係ないですよ」
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