Dragonewt

玖羅覇士 極

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第1話 始まりの林道

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 舗装されていない林道を二台の二頭立て四輪の大型幌馬車がゴトゴトと音を鳴らしながら進んでいく。
街から街へと連れて行ってくれるこの乗合馬車には大人子供含めて十人の乗客、御者四人が搭乗し、馬車を護衛する傭兵が馬に跨り更に四人配置されていた。
 乗客達は見ず知らずのということもあり会話らしい会話はほとんど無く、あるとしても家族連れで子供の相手をしている母親とその子供の笑い声やまだ街に着かないのかと言う不満を窘める父親の声位で後は静かなものだった。

 その中で乗客達は本を読んだり、編み物をしたり、はたまた揺れに誘われるように昼寝をしたりと、思い思いに時間を潰し街に着くのを今か今かと待ちわびる。
この馬車が出発して既に丸一日が経ち、この林道を過ぎればもう街までは目と鼻の先という所まで進んできていた。何度もこの馬車を利用しているであろう老夫婦がもうすぐですね、と小声ながらも話していたおかげで初めて利用した客は肩の荷が下りたようにため息を吐き出し、固まった背骨を解そうと腕を伸ばせばポキポキとなる骨の音が響き赤面しながら小さく謝罪の言葉を出したが、ならば自分もと一人二人と肩を回して音を共に出しては笑い合う。

「お父さん、もうすぐ街に着くんだよね?」
「ん?あぁそうだね。もう少しの辛抱だ」

 少女が隣に座る父親の袖を引っ張り催促すれば優しく声をかけ頭を撫でられる。
嬉しそうに笑う少女の頬は赤く染まり見ていた人はその微笑ましさに己の頬が緩んだのに気付かず釘付けになっていた。
 早く着かないかな!と少し大きく声を上げれば父親の横に座っていた母親が声を下げるように小声で注意をし、しまったと言わんばかりに両手で口を押えながら恐る恐る己の横に座る人物を見上げる。

 少女の横には一人の子供が乗っていた。
灰色の布が頭から足先まですっぽりと覆われ表情を伺う事は出来ないが規則正しく動く肩のおかげで寝ている事が分かり少女は大きく息を吐いた。
 この子供は馬車が休憩する時以外眠っていた。常に布を纏っていて歳こそ分からないが身長は少女よりも高く、休憩の時に付き添いの人はいないのかと客の一人が声をかけた時、いないと答えそれ以降話す事をしなかった子供である。
少女は起こしてしまったかもしれないと焦ったがどうやら深く寝入っているようで起きるそぶりは無く、そっと口元を覆っていた手を離し父親の方へと甘えるように抱き着いた。
 娘の可愛い行動に鼻の下が伸びた父親の脇腹に鋭い横肘が入り慌てて背筋を伸ばせば再び小さく笑いが起きた。

「もうすぐアルマンダインに着きますよー」

 御者の男の声が内部に響くと少女の顔が更に綻ぶ。
飛び跳ねるように少女が御者の後ろに飛びつけば木々の間からまだ小さいが赤茶色の壁が見え隠れしていた。
 あれこそこの馬車の目的地、ガーネット大陸にある一つの街、アルマンダイン。
四つある大都市の内の一つで大陸の端の方にありながらも多くの人で賑わい活気が満ち溢れている都市である。
 その理由は簡単でこの付近は鉱山が多く、そこから採掘される宝石や魔石で潤い更に一攫千金を求めて多くの人がやってくるからだ。
 残念ながら夢を諦め去っていく人も多くいる訳なのだが…

「…あら?御者さん、あれは何かしら?」
「ん?何か見えましたかお嬢さん」
「ほら!あの黒いのよ!あっちにも!」
「んん…?ん!?マズい!!!山賊だ!!」

少女の声に目を凝らして見ていた御者が馬の動きを止めようと手綱を引けば驚いた馬が声を荒げ嘶く。
 馬車は大きく揺れ悲鳴が上がり乗客は転げ落ちまいと足に力を入れ張られている布に捕まり転倒を防ごうとしたが、無防備にも前のめりになっていた少女は捕まる場所が無くふわりと後ろへ体が浮いてしまった。
 母親が声を荒げ少女の名を叫ぶもそれが精一杯で助けに走ることが出来ず涙を浮かべる。

「…大丈夫?」

少女の頭が床に落ちかけるほんの手前、灰色の布で身をくるんでいた子供が飛び出し少女を抱き込んで背中から落ちる。
 自分が助けられた事と痛みが無かった事、そして何よりも安心した事により少女はみるみるうちに涙を浮かべ布にしがみ付いてわんわん泣きだした。
 揺れが収まり少女の声を聞いた母親が駆け寄り二人を抱き起すと何度も何度もお礼を言い、父親も子供の背を摩りながら礼と謝罪を繰り返した。
 だがそれも次には悲鳴に変わる。
金属がぶつかり合う音が甲高く響くと罵声と下品な笑い声が上がり、御者が震えながら腰に携えていた短剣を声がする方へと向けていた。
 恐らく外では護衛として来ていた傭兵達が山賊を追っ払おうと戦ってくれているのだろうが、どう見ても優勢なのは山賊側。
 客と言う名の人質が多数に対して戦える傭兵は四人。その倍近くの山賊がこの幌馬車の周りをうろついているのだ。
 御者の男二人は武器を持っていても既に戦意喪失している。後ろをついてきている幌馬車の御者達も武器は持っているが顔は青ざめこちらも戦意はまるで無し。完全に傭兵頼みになってしまっている。

「お母さん怖いよう」
「大丈夫、大丈夫よ、傭兵の方が助けてくれるから」

 子供が母親に縋る様に抱き着き安心させようとあやしていたがその声色も震えていた。
 馬車の中は他にも震えて涙を流しすすり泣く声も聞こえてくる。誰しもが暴れず騒がないのは外にいる山賊が怖いからだ。
 途端、爆音に近い笑い声が響き渡る。護衛が一人やられたらしい。

「さぁ次はどいつが相手だぁ?」

 楽しそうな男の声が駆け抜ける。
御者が小さく悲鳴を上げ腰を抜かしその場にへたり込めば再び笑い声が起こり賑やかさは頂点に達しまるで祭りのように男達は騒ぎ出す。
 声に驚いた少女がこれでもかと母親の服を掴むと顔を埋めた。可哀そうな位に震え母親に縋る姿は痛々しかったが誰も声をかける事は出来なかった。
 そんな姿を間近で見ていた子供は流れ落ちる少女の涙を見つめ一つ頷くと被っていた布を外し少女の姿を隠すように羽織らせる。

「お姉ちゃん?」
「…ちょっと待っててね」

 落ち着かせるように少女の頭を子供が撫でる。
布が取り外された事により子供の顔がようやく明らかになった。
 黒と白、子供を現わす色はその二色。髪は左側が白く右側が黒、瞳は左側が黒く右側が白。腰まで伸びた二色の髪は邪魔にならないよう三つ編みで束ねられ幼さの残る顔立ちではあるがその瞳は闘志に燃えていた。
真っ赤な一本歯下駄を鳴らし御者の隣まで近づくと軽い動作で馬車から飛び降りる。
 出てきたのが子供だったからか笑い声は一瞬で止まりまるで値踏みをするかのように足元から頭まで睨みつけると男は小さく鼻で笑った。

「お嬢ちゃん、悪い事ぁ言わねぇ。馬車に戻ってな」
「僕は役不足?」
「あぁ。だが出てきた勇気だけは褒めてやるよ」

 だから早く消えろと言わんばかりに男は後方の馬車へと指を指す。
子供は一度目線を動かしたがすぐに戻し男を見上げ気怠そうに声を出した。

「僕はこの先で人と会う約束をしていて行かなければいけないの。怪我をしたくなければ退いてほしい」
「は?」
「あと子供が怖がってる。君達は…邪魔だよ」

パンッと拍手を一拍。軽い音が響くと男の頬に赤い線が走った。
何事だと思うよりも早く後ろから山賊達の悲鳴が上がり振り向けばいつの間にか腕や足、腹から血が流れ痛みに呻いている姿にようやく攻撃されたのだと悟った。
 強い!
男は目の前にいる子供に強者の匂いを感じ取り、笑った。

「面白れぇ。お嬢ちゃん、名前を聞いてやろうか」

子供は汚れてもいない手を払う仕草をしながら口端を上げる。

「僕はラホイト。ラホイト・インマヌエル。お兄さん、名前は?」

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