Dragonewt

玖羅覇士 極

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第2話 赤い男と武器

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首筋までゆっくりと流れてきた血の感触は痛みよりもくすぐったさが勝り、親指で拭えばその腹は真っ赤に染まっていた。

「久々に自分の血を見たぜ」

 ベロリと血を舐めあげ汚れを落とす姿にラホイトは眉を潜める。
目の前の男は余程赤が好きなのか、髪、瞳、コートに至って全てが赤。ズボンは赤茶で他にも服の装飾、両耳合わせて八個ついたピアス、ロングブーツには黒が使われているがやはり赤が目についた。更にこの男は左頬から右頬にかけて傷がありそのおかげもあってか凶悪さを増しているようにも思える。
男の赤い舌先は更に赤く染まって口の中へと入っていき、歯茎がむき出しになる位に男は笑い睨みつけてきた。
 鋭い眼光は捕食者そのもので自分が睨まれた訳ではないのに腰を抜かしている御者の一人は再び悲鳴を上げとうとう手から武器が滑り落ち、馬車を守る傭兵達の頬にも汗が伝う。
 一人の傭兵は恐怖で固まった体を動かそうと剣を持つ手に力を入れたが指先は震えカタカタと音を鳴らし力が入らない。勇敢な子供が目の前にいると言うのになんと自分の情けない事か。
 精々歯ぎしりをするのが精一杯。そんな時

「…血って不味くない?」
「………は?」
「鉄の味って感じで美味しいと思わないんだよね」

ラホイトが思むろに口を開いた。 
 あまりにも場違いな発言に誰しもが動きを止める。こんな敵だらけの所に無防備にも出てくる子供の登場もそうだったが発言すらも可笑しい。
 恐怖で頭がどうかしてしまったのかと思ったがそうでもない。ラホイトの目は生きる事に対して諦めてはいない。どちらかと言えば面倒だと言わんばかりの呆れの目だ。

「まぁそれは人の好みの問題だから別にいいや…そんな事よりもさ、二回も同じ事を言われたいの?」

 再びラホイトが胸元まで両手を上げる。
これが最後の忠告と言わんばかりに叩かれていないがその瞳は本気だと言っている。
既に攻撃をくらい怪我をした山賊は小さく悲鳴を上げ、まだ怪我をしていない山賊達は武器を手に取り戦闘準備に入ったが男は片手を上げ静止させた。

「ならお嬢ちゃ…あーラホイトちゃんだったか、俺と勝負しようや。俺ぁ強い奴と戦いたい。それが男であれ女であれ関係ねぇ。テメェが勝てば通してやる。負ければそうだな…俺の言う事聞いてもらおうか?」
「乗った。僕は負けない」
「即答!?」
「負ける要素が見当たらない。君は僕に負けるから」
「ほ、ほぉ、言うねぇ…?ならこれを見てもその自信は無くならねぇよなぁ!?」

意表を突かれたように口どもったがすぐに男は笑みを戻し右手を前へと突き出す。
 すると男は掌を中心に赤く輝く玉を浮かび上がらせた。血の様に赤い玉はやがて三十センチ程の棒状に伸びると音も無く光は弾け飛び一本の赤い柄が現れる。
 柄の両端は黒色で装飾されそこから更に石突が、反対側からジャラジャラと派手に音を鳴り響かせながら継手が出現、継手が地面に着く手前で五十センチもある殻物が重い音をたて地面へと叩きつけられる。
 僅かばかりに土煙が上がり男の靴を汚したが気にも留めず柄を握れば殻物から二十五本の棘先が現れ更に地面を突き刺した。

「へぇ…ボール・アンド・チェインか…」
「これ見て恐れないとは大した根性だ。その可愛い顔を木っ端微塵に吹き飛ばす事も可能だぜ?」

 男が鼻で笑い柄を振りかぶれば殻物がラホイトの真横へと落ちる。
土が舞い上がり足元を汚し、音に驚いた馬が再び嘶いた。
 馬車の中から悲鳴が聞こえ、その中にあの少女の声も交じっていたのが聞こえ再び眉を潜める。

「ならやってみてよお兄さん。手っ取り早く終わらせてあげるから」
「よくぞ言った!なら喰らってみやがれ!!!」

 男は柄を横へと振り継手をしならせると殻物が浮かび一気にラホイトの横顔へと飛ばす。
 継手が長いにも関わらずそれを感じさせない速度で攻撃をしかけたがラホイトはしゃがんでそれを回避。
 しかし殻物は勢いを落とす事無く近くにいた山賊の顔面に当たってその顔を吹き飛ばした。
声を上げる事なく首から上を無くした男は血を噴出させながら背中から地面へと倒れる。その隣にいた若い山賊は素っ頓狂な声を出し、突然赤く染まった仲間に何が起こったのか分からなかったのか理解した途端、悲鳴を上げ更に隣にいた山賊に背中をぶつけた。

「ひっ…!?し、死んだ!?何で!?」
「おぉおお前味方じゃないのかよ!!なんで殺したんだ!」
「あぁ…………?」

 ざわつく山賊を男は睨みつけ黙らせる。
せっかく始まった戦闘に横やりを入れられ不機嫌さを隠さぬ男は舌打ちをし見下した。

「俺ぁ山賊じゃねぇ、お前等の頭が雇った傭兵だ。間違えんじゃねぇよ」
「っはぁ!?アンタ傭兵なのか!?」
「あぁ?腰抜け傭兵野郎なんかに言ってねぇよ」
「あー僕もそれ思った。何で山賊の傭兵してるの?」
「金欠状態の時に結構な額を提示されたから傭兵してんだわ」
「この子には言うのか!?」

 一人の傭兵がせっかく声を上げたのにも関わらず一蹴りされる。
男は強者に興味しかなく、弱いと思った輩に対しては一切の興味はない。腕を軽く動かせば傭兵の首が飛び馬から転げ落ちた。

「さぁてお喋りは終わりだ。さっさとおっぱじめようか」
「そうしよう、時間が惜しい。傭兵だろうが何だろうが行く手を阻む奴に容赦はしない」

 ラホイトの右足が地面に強く踏みつける。前のめりになり手を突き出せば黒と白の二つの玉が浮かび上がり交差するように縦に長く伸び始め光が収まると、その長さはラホイトの身長を僅かばかりに越えており、そこから更に側面が現れ巨大化、その大きさはなんと百センチにもなり灰色の柄、真っ黒な側面を携え男の身長程ある巨大両口ハンマーがようやくお目見えされた。

「…はぁああ!?ちょっと待て!ンだそれ反則的な大きさだろ!?つかそれ持てんのか!?」
「お兄さんが使ってるボール・アンド・チェインだって大きさ可笑しいでしょ。一緒だよ」
「いやいやいやちっげーよ!?どう見てもテメェの方が可笑しいわ!!!」

忙しなく目線を動かしたじろく男に首を傾げる。ラホイトにとってこの武器はずっと使い続けている相棒で何一つ可笑しくない。同意を求めるように山賊や傭兵に視線を送ってみれば全力で首を左右に振られてしまい更に首を傾げてしまった。
 そんな姿を目の前に男は一度震えたがすぐに首を振り殻物を己の足元へと引き寄せる。

「成程、能ある鷹は爪を隠すって言葉が御似合いだな」
「僕は鷹じゃないよ?」
「ことわざだ、真に受けんなよ。これでも褒めてるんだぜ」
「そうなの?ありがとう」

 素直に頭を下げれば居心地の悪い空気が流れる。とんでもなくやりにくいぞこの子供…誰しもが目で訴えかけていたが残念ながらラホイトがそれを読み取る事は出来なかった。その代わりに男が満更でもないと鼻で笑い継手をチャリチャリと鳴らす。

「おっしゃ、もう何来ても驚かねぇぞ」

 目の前の巨大ハンマーを片手で持ち上げ肩に担ぐ姿にもう何も言う事が出来なかった。
どう見てもあれは可笑しい。あの細腕なのに何処からあんな力が出てくるのか見当がつかなかった。あのハンマーの大きさと重さは本物だろう。軽く振り上げた時に舞った風の強さと音が物語っていた。アレに当たるとこちらが危ない。
 男は姿勢を低くし戦闘態勢に入る。そこまで速度を出してはいなかったがラホイトは軽く男の攻撃をしゃがんで避けられる程の反射神経を持っている。あの武器の大きさから俊敏に動く事はできないだろうが用心に越した事は無いと瞬時に頭の中でどう動くかを計算する。例え殺す気が無くても勝負は勝負。負けてやる程優しくはない。
 左手を太腿に当て一度叩く。
すると足元が一瞬光り輝いた。これは補助魔法だ。
 魔法が存在するこの世界では数多くの魔法が存在する。攻撃や回復は勿論だが力を増幅させたり素早く動けるようにする為の補助魔法と言う物も存在した。他にもまだまだ魔法は数多く存在するがその数あるうちの魔法で男が使ったのは足の速さを上げる魔法だ。

「名乗り忘れたが俺ぁカーディナルと言う。カーディナル・クォーツ。これでも名は知られてる方だと自負してんだがな?」

 口端を上げむき出しの歯茎を見せつければ御者や傭兵、客から声が上がった。

「カ、カーディナルだって!?」
「あの傭兵が!?残虐非道って噂の…!?」
「あぁもうダメだ、殺される…殺される…」
「無理だ、勝てる訳ねぇよ…」

―カーディナル・クォーツ―
 このガーネット大陸ではかなりの有名人だ。勿論、悪名として。
残虐非道、気に食わなかったら女や老人でも殺し、金さえ払えばどんな悪行でも行う戦闘を何よりも好む狂戦士。
 そんな恐ろしい男を前に各々の反応を見て山賊達が笑った。今まで律儀にも手を出さなかったのはカーディナルの反感を買わない為だ。味方からも恐れられているが実力は折り紙付き。好き好んで間に入るような肝の据わった人物はいなかった。

「ハッハァ!!俺の名を聞いただけでこの反応なんだ…」
「えい」
「ずぇっぅおぁあぁいっでええぇぇぇええ!?!?!?」
「あれ、驚いた」
「驚くわテメェ!!何いきなり攻撃してきやがるんだ馬鹿か!?」

 だがそれも先程までの話で残念ながらラホイトは肝の据わった人物である。例えそれが恐怖のどん底に落ちていようが関係ない。良い感じに意識が逸れたからカーディナルの懐まで一気に詰め寄り攻撃した。それだけである。
 それでもラホイトの攻撃を間一髪で避け後方へと飛んで距離を置くのが出来たのはやはり実力者ならではの動きだった。

「その笑顔が気持ち悪かったから何とかしたくて」
「きっ…!?」
「あと戦闘中だから攻撃した…残念、顔に傷をつけただけだったか」
「傷ぅ…?ココ以外にどこに傷が…っ!?」

 途端、左側の顔に強烈な痛みがカーディナルを襲った。
左の眉から目を通り更には頬まで一直線に赤い線が引かれ勢いよく血が噴出する。ボタボタと落ちる血が土を汚し、傷口を抑えた掌全体が真っ赤に染め上がって指の間から止めどなく流れ落ちている。

「カーディナルさん!?」
「やべえ!!血が!!!!」
「回復だ!早く回復しろやァ!!!」

 カーディナルが怒号を飛ばし悲鳴を上げた山賊の一人が回復を施す。
しかし山賊の力不足か、それともあまりにも強すぎる攻撃を受けたからか顔の痛みが引く事は無く、回復役が一人から三人へと増えるとようやく痛みが和らいだ。
 その姿を眺めていたラホイトが初めて口端を上げる。

「へぇ、傷が増えた方が良い顔じゃん?」
「…は?」
「触ってみなよ。今僕がつけた傷が跡になってる。さっきと同じ魔法攻撃だったし結構ザックリいかせたから跡になっちゃったね」

 言葉に誘われるようにカーディナルが手当されたばかりの頬に指を這わせる。
ラホイトが言ったように傷が残っているのだろう、僅かばかりに盛り上がり元からあった傷が頬あたりで更に交差していた。
 何とか血は治まっているものの未だに脈打ち存在を主張してくる傷の痛みにカーディナルは奥歯を噛みしめコートの袖で乱暴に血を拭い去るや否や真後ろで回復魔法を唱えていた筈の山賊を殴り飛ばしゆっくりとした動作で立ち上がる。

「いいねェ、久々に本気を出して戦えそうだ。命乞いした所で許しもしねぇ、死体すら残してやらねぇ…イヒヒヒヒ、狂戦士舐めんじゃねぇぞぉ!!!!!!!!」


ドォンと音を鳴らし地面に一歩足を踏み出せばそこを中心に穴が開いた。
 瞳孔は開ききり額や頬、首とあらゆるところの血管が浮き出したその姿はまさに狂戦士の姿そのものだった。
 互いに足に力を入れ更に一歩踏み出す。
二歩、三歩、更に進め互いの距離があと僅かとなったその瞬間、一騎討が始まった。







――――――――――――――――

きっぱち様より描いて頂きましたカーディナル・クォーツです。
 ありがとうございました!!!!!


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