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17話
しおりを挟む「あのね、あなたが苦しかったこと分かるよ。大変だったことも分かる。辛かったことも分かる」
そうして王の背中を優しくさすった。
「や、やめろ…」
「よく頑張ったねぇ…」
それはチヨの心からの言葉だった。
チヨだって87年生きてきて、色々経験をしてきている。
悲しみも喜びもそれなりに。
勿論、王という職業は就いたことはないが、それでも心に寄り添うことは出来るのだ。
「恨みも憎しみも分かるよ。私の世界にもそういうことあったからね…許せないんだろう?その気持ちも分かるが…もう楽になってもいいじゃないかと思うんだよ」
だってさ、とチヨは加えた。
「ずーっと苦労して大変な思いしてきたろ?」
「…」
王は黙って聞いている。
ピクリとも動かない。
「それともやっぱりまだダメかね?」
「……俺は…楽になってはいけないと思っていた。王だから、民のことをずっと考えてなくてはいけないのだと」
「うん」
「民は私のことはとうでもいいと思っていた。憎んでさえいた。分かっている、王が民に思われたいだなんておかしなことだと。だけど、こんなに思っているのにそれが全部届かないことが苦しかったのだ」
そう言って王はポロポロと涙を流した。
まるで何かを洗い流しているようだった。
「おかしくはないよ、人は人に思われたいものさ。王だって人だもの、思われたいに決まっている」
「…王は人ではないと考えていた…」
「まぁそういう考えの国もあるし、それが間違いじゃない。ただ、それが全てでもないし、絶対にきっちり守らなきゃいけないわけじゃない」
「…そうなのか?」
「……いやまぁそんなことないかもしれないけど」
「はぁ!?」
「まぁそれくらい肩の力を抜くときがあってもいいんじゃないかってことだよ」
「…」
王の顔はずいぶんスッキリしており、数時間前までとは全く別人である。
「私はずいぶんと時間を無駄にしてしまったようだ…」
「そういうときもある!」
チヨがうん、とひとつ肯くと王は薄く笑った。
「…迷惑をかけたな。そなたにもこの者にも他の者にも。これからはこの国が永く栄えるよう見守っていくと約束しよう」
「ああ、ゆっくりと休んどいで」
「…最後に名を聞かせてくれ」
「チヨだよ」
「チヨ…。あぁ、チヨ本当にありがとう。今までの記憶で1番幸せだ——…」
そう言うと王の身体は糸が切れたように崩れた。
————————
「——様!チヨ様!!」
ハッと目を覚ますと浄化を行った部屋にいた。
王の姿はないので運ばれたのだろう。
「ルーカスさん…」
「チヨ様、長時間の浄化…本当にお疲れ様でした…」
ルーカスは涙目に鼻声だ。しかし微笑んでいる。
どうやらチヨは眠ってしまっていたようでルーカスに抱えられていた。
「無事終わったんですね…」
「はい、どうぞゆっくりとお休みください」
その言葉を聞いてチヨはまた目を閉じたのだった。
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