9 / 119
吸血鬼の章
女王の食事2
しおりを挟む飯田は通常の試合の他にも色々な仕事をこなす。用心棒や純粋に強くなりたい奴の練習相手など。その日は辺鄙な場所にある倉庫に呼び出された。底冷えする土の床を、梁が剥き出しの高い天井から下げられた仄青い電灯が照らす。中では依頼主である女が一人で待ち構えていた。
女相手の仕事は稀にある。痛めつけられて犯されたい変態女や、それを見たがる変態からの依頼。こちらがダメージを負う心配が要らず、セックスまで楽しめて割のいい仕事だ。しかも今回の依頼主は、何かの間違いじゃないかと思うくらいの美女だった。
現場には飯田と女の他に誰も居ない。事前に聞いていた通りギャラリーなしのタイマン。勝敗条件は特にない。お互いの気が済むまでやり合う。飯田は下品な笑いに歪めた顔で、対戦相手を上から下まで遠慮なく観察した。
少し背が高いベリーショートの女。装備はオープングローブとショートブーツ。タンクトップとショートパンツを着ている。贅肉がなく、それでいて柔らかそうな身体。吸い寄せられるような色気がある。目が合うと微笑み返され、飯田の雄に火が点いた。
この女は俺に犯されたがってる。ぶたれて無理やり突っ込まれるのが好きな変態。お望み通り玩具にしてやる。泣いて許しを乞うまで善がらせてやる――
開始直後から飯田は猛攻を仕掛けた。だがほとんどの攻撃を躱されてしまう。対戦相手は思いのほか素早い。そして時折繰り出される反撃は的確に飯田を捉える。何かがおかしいと思った時には遅かった。回を追う毎に女の打撃の威力が増す。ボディーに重い一発を喰らい、遂に片膝を着いた。なんとか呼吸を整える飯田に引き換え、女は涼しい顔で着衣の乱れを直している。冬とはいえ、これだけの運動量で汗一滴かいていない。そもそも暖房もない倉庫であんな薄着で平気でいられるのがおかしいのだが、そこには思い至らなかった。
馬鹿な。そんな筈はない。
それ以上は考えることができなかった。女からの攻撃が再開し、防御に集中しなければならなくなったからだ。容赦ない攻撃を仕掛けてくる格上の相手と休憩なしで三十分間も戦うと、心も体も限界だ。戦意はとっくに喪失している。降参の意思を示しても、ただ「そう」とか「ふぅん」と返されるだけ。四つん這いでダウン状態を耐える飯田は横から蹴飛ばされて床に転がった。
苦痛だけではない感覚に飯田は戸惑った。飯田は自分のことをどちらかと言えばSだと認識していた。女を少し乱暴に、強引に組み敷くのが好きだった。始めは乗り気でなかった女から喘ぎ声が漏れると征服欲が満たされる。そんな自分が、股間を踏みにじられて興奮している。
飯田の視線が自分に向くのを待って、女はタンクトップとショートパンツを脱いだ。均整の取れた肉体を堂々と晒す。黒いブラレットとショーツは透け感はないが薄く柔らかい生地で、ぴったりと張り付いて細かな凹凸も浮き上がらせていた。飯田も着ているものを一枚ずつ脱いでいった。そうするのが正しいんだ。がっかりさせちゃいけない。そんな気がした。グローブ、シャツ、パンツ、靴、靴下。最後にファウルカップを外して下着を下げると、首をもたげた陰茎から透明な粘液が糸を引いた。
黙って見ていた女は馬鹿にするように鼻を鳴らした。つかつかと歩み寄り平手を喰らわす。人には少し強すぎる力で脳を揺らされた飯田は、腰を抜かして床に尻と両手を着いた。そこに腹部への蹴りで追い打ちをかけられ、がくがくと痙攣し、みっともなくちょろちょろと失禁してしまった。
「はっ、ははは、あはははは!」
女は飯田の頭髪を掴んで顔を上げさせ、焦点の定まらない瞳を楽しそうに見詰めた。至近距離に迫った美貌に飯田が口を寄せる。ほとんど無意識の行動だ。だが飯田が彼女の柔らかさを知るのは今夜ではない。突き立てられた爪が胸部から下腹部までを浅く切り裂く。鍛えられない部分にも鋭い爪を刺され、飯田は歯を食いしばって目を見開いた。
「くっぁぁああっ……いぎぃ!!」
「立て」
力を振り絞ってどうにか命令に従うことができた。ふらつく飯田の尻に女の掌が振り下ろされる。軽快な破裂音が倉庫内に響いた。
「出すまで痛くしてあげる」
茫然としているとまた尻を打たれた。飯田は股間を握って、扱いた。打たれ続けて、尻が焼けるようだ。痛みと恐怖で朦朧としながらも勃起した陰茎を扱く姿は、女を大いに笑わせた。
叩かれる度少しずつ前によろけ、壁際まで追い詰められてしまった。左手と額を冷たい壁にあてて身体を支える。尻を突き出す格好になったのは降伏を表したかったのかもしれない。仰る通りにいたします、この通りですから許してください、と。
目を覚ました飯田は、自分が達すると同時に気を失ったと理解した。冷たい床に熱を奪われて体が凍えている。女がまだここに居たのが意外だった。もうグローブは外し膝丈のワンピースを着て、パイプ椅子で脚を組みリラックスしている。意識の戻った飯田を見て「丈夫だな」と呟いた。
まったくよく死ななかったものだと自分でも思った。あれで女が満足しなかったらどうなっていたことか。今だって、目が覚めなかったら凍死は確実だ。むしろそうなるのを期待して見ていたのではないか?
飯田の前に厚みのある封筒が投げて寄こされた。今回の報酬だ。
「数えたら?」
「……いえ……大丈夫……です……」
「そう。それじゃ、また」
再会を仄めかして、女は軽やかな足取りで去っていった。痛みを我慢して起き上がり、冷えて感覚のない指でどうにか服を身に着けた。歯の根が合わないのは寒さのせいだけではない。一人の自由で無骨な男が死に、女王に諂う僕が生まれた夜だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる