夜行性の暴君

恩陀ドラック

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吸血鬼の章

女王の食事2

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 飯田は通常の試合の他にも色々な仕事をこなす。用心棒や純粋に強くなりたい奴の練習相手など。その日は辺鄙な場所にある倉庫に呼び出された。底冷えする土の床を、梁が剥き出しの高い天井から下げられた仄青い電灯が照らす。中では依頼主である女が一人で待ち構えていた。

 女相手の仕事は稀にある。痛めつけられて犯されたい変態女や、それを見たがる変態からの依頼。こちらがダメージを負う心配が要らず、セックスまで楽しめて割のいい仕事だ。しかも今回の依頼主は、何かの間違いじゃないかと思うくらいの美女だった。

 現場には飯田と女の他に誰も居ない。事前に聞いていた通りギャラリーなしのタイマン。勝敗条件は特にない。お互いの気が済むまでやり合う。飯田は下品な笑いに歪めた顔で、対戦相手を上から下まで遠慮なく観察した。

 少し背が高いベリーショートの女。装備はオープングローブとショートブーツ。タンクトップとショートパンツを着ている。贅肉がなく、それでいて柔らかそうな身体。吸い寄せられるような色気がある。目が合うと微笑み返され、飯田の雄に火が点いた。


 この女は俺に犯されたがってる。ぶたれて無理やり突っ込まれるのが好きな変態。お望み通り玩具にしてやる。泣いて許しを乞うまで善がらせてやる――



 開始直後から飯田は猛攻を仕掛けた。だがほとんどの攻撃を躱されてしまう。対戦相手は思いのほか素早い。そして時折繰り出される反撃は的確に飯田を捉える。何かがおかしいと思った時には遅かった。回を追う毎に女の打撃の威力が増す。ボディーに重い一発を喰らい、遂に片膝を着いた。なんとか呼吸を整える飯田に引き換え、女は涼しい顔で着衣の乱れを直している。冬とはいえ、これだけの運動量で汗一滴かいていない。そもそも暖房もない倉庫であんな薄着で平気でいられるのがおかしいのだが、そこには思い至らなかった。


 馬鹿な。そんな筈はない。


 それ以上は考えることができなかった。女からの攻撃が再開し、防御に集中しなければならなくなったからだ。容赦ない攻撃を仕掛けてくる格上の相手と休憩なしで三十分間も戦うと、心も体も限界だ。戦意はとっくに喪失している。降参の意思を示しても、ただ「そう」とか「ふぅん」と返されるだけ。四つん這いでダウン状態を耐える飯田は横から蹴飛ばされて床に転がった。

 苦痛だけではない感覚に飯田は戸惑った。飯田は自分のことをどちらかと言えばSだと認識していた。女を少し乱暴に、強引に組み敷くのが好きだった。始めは乗り気でなかった女から喘ぎ声が漏れると征服欲が満たされる。そんな自分が、股間を踏みにじられて興奮している。

 飯田の視線が自分に向くのを待って、女はタンクトップとショートパンツを脱いだ。均整の取れた肉体を堂々と晒す。黒いブラレットとショーツは透け感はないが薄く柔らかい生地で、ぴったりと張り付いて細かな凹凸も浮き上がらせていた。飯田も着ているものを一枚ずつ脱いでいった。そうするのが正しいんだ。がっかりさせちゃいけない。そんな気がした。グローブ、シャツ、パンツ、靴、靴下。最後にファウルカップを外して下着を下げると、首をもたげた陰茎から透明な粘液が糸を引いた。

 黙って見ていた女は馬鹿にするように鼻を鳴らした。つかつかと歩み寄り平手を喰らわす。人には少し強すぎる力で脳を揺らされた飯田は、腰を抜かして床に尻と両手を着いた。そこに腹部への蹴りで追い打ちをかけられ、がくがくと痙攣し、みっともなくちょろちょろと失禁してしまった。


「はっ、ははは、あはははは!」


 女は飯田の頭髪を掴んで顔を上げさせ、焦点の定まらない瞳を楽しそうに見詰めた。至近距離に迫った美貌に飯田が口を寄せる。ほとんど無意識の行動だ。だが飯田が彼女の柔らかさを知るのは今夜ではない。突き立てられた爪が胸部から下腹部までを浅く切り裂く。鍛えられない部分にも鋭い爪を刺され、飯田は歯を食いしばって目を見開いた。


「くっぁぁああっ……いぎぃ!!」

「立て」


 力を振り絞ってどうにか命令に従うことができた。ふらつく飯田の尻に女の掌が振り下ろされる。軽快な破裂音が倉庫内に響いた。


「出すまで痛くしてあげる」


 茫然としているとまた尻を打たれた。飯田は股間を握って、扱いた。打たれ続けて、尻が焼けるようだ。痛みと恐怖で朦朧としながらも勃起した陰茎を扱く姿は、女を大いに笑わせた。

 叩かれる度少しずつ前によろけ、壁際まで追い詰められてしまった。左手と額を冷たい壁にあてて身体を支える。尻を突き出す格好になったのは降伏を表したかったのかもしれない。仰る通りにいたします、この通りですから許してください、と。





 目を覚ました飯田は、自分が達すると同時に気を失ったと理解した。冷たい床に熱を奪われて体が凍えている。女がまだここに居たのが意外だった。もうグローブは外し膝丈のワンピースを着て、パイプ椅子で脚を組みリラックスしている。意識の戻った飯田を見て「丈夫だな」と呟いた。

 まったくよく死ななかったものだと自分でも思った。あれで女が満足しなかったらどうなっていたことか。今だって、目が覚めなかったら凍死は確実だ。むしろそうなるのを期待して見ていたのではないか?

 飯田の前に厚みのある封筒が投げて寄こされた。今回の報酬だ。


「数えたら?」

「……いえ……大丈夫……です……」

「そう。それじゃ、また」


 再会を仄めかして、女は軽やかな足取りで去っていった。痛みを我慢して起き上がり、冷えて感覚のない指でどうにか服を身に着けた。歯の根が合わないのは寒さのせいだけではない。一人の自由で無骨な男が死に、女王に諂う僕が生まれた夜だった。







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