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狼の章
まほろば4
しおりを挟む「おかえり」
「た、ただいま」
玄関を開けると奥から昢覧が出てきて出迎えてくれた。慣れない会話がこそばゆい。そのときふと昢覧から、濃厚な絢次の匂いが漂ってきた。一足早く帰った絢次がすることをしたのだ。
「もうあいつと寝るな。男に興味ないんだろ? 断れよ」
「断る……」
意表を突かれた昢覧の視線があちこち彷徨った。何を困ることがあるのか。ただやめろと言うだけでいい。
「断れないなら俺も同じように扱え」
「えっ、でも知悠だって男と寝るのは……」
「それはあいつがしてることだろ。昢覧が絢次にしてることを俺にもしろ。あいつだけ特別扱いは狡い」
俺を撫でて、散歩させて、遊ばせて、飯を食わせて、ブラシをかけて、俺を枕にして眠れ。今まで昢覧にさせなかったことを、今度はやれと言う。自分の我儘に彼は気付いていなかった。
そのまま二人は散歩に出た。隣を歩く知悠の視線に気付くと、昢覧はいつも微笑みを返してくれる。かわいい女を見つけたので自宅まで案内させた。先に知悠がやって、昢覧が軽食を摂るのを見ながら自分も食事をした。外に出た二人は深夜の公園でキャッチボールをした。昢覧はわざと変な方に投げる。まるでボール投げだ。
気が済むまで運動したら家に帰った。シャワーを浴びて狼型になって、昢覧に全身をブラッシングされる。途中で絢次が闖入してきて騒々しかった。主寝室の大きなベッドも三人並ぶと余裕がない。両側から狼にくっつかれて昢覧は満足そうだ。腕枕をしてくれる昢覧の肩に顎を乗せると、幼い子供を寝かしつけるように繰り返し背中を叩いてくれる。軽い振動が心地よくて身体の力が抜けていく。満足気に鼻からふーんと息を吐いたら意識が薄れ、いつの間にか眠りに落ちていた。
目が覚めると昢覧が楽しそうに耳や髭を触っている。向こう側から絢次が睨んでいるのは無視だ。
「おはよ。よく寝てたな。もう起きる?」
「ああ……あ!?」
にやりと笑った昢覧は両手を身体の下に差し込むと、八十キロ超の知悠をすいっと持ち上げて、まるでぬいぐるみのようにふわりふわりと空中に放り上げた。投げられる度に知悠はちょっとずつ姿勢を変えられて、最後は向き合うように抱き留められた。
「ははは!」
昢覧はただ笑っている。俺もとせがむ絢次に、昢覧は同じようにしてやった。それからまた知悠をふわふわ投げて、絢次もふわふわして、最後にもう一度一人ずつふわふわした。三人で笑った。
日が暮れて三人で散歩に出掛けた。女を捕まえて、絢次と二人で犯して引き裂いた。昢覧が死体に精液をぶっかける。絢次は出したばかりの昢覧の股間をべろべろ舐めて怒られていた。知悠はそれを見て笑いながら、まだ温かい内臓を味わった。
家に帰ると人型絢次が昢覧を抱いた。昢覧を独占されるのは面白くないが羨ましくはない。あれは昢覧を使った自慰だ。そんなことは望んでいない。
知悠は終わった頃を見計らって寝室に行き昢覧に身体を寄せた。昢覧はすぐにぎゅっとしてくる。いつでも手が届けば撫でてくれる。目が合えば微笑んでくれる。何かしたら褒めてくれるし、何もしなくても可愛いねって撫でてくれる。きっと遠くにいるときも心がこっちを向いている。だから少しくらい離れていても不安じゃない。
毎日三人で遊んで食べて寝た。何もしないで寝ているだけの日もあったし、絢次と喧嘩して怒られる日もあった。どんな日も、昢覧は真っ直ぐに瞳を見詰めてくる。その奥にある何か楽しい物を見つけてやろうとするみたいに。知悠は少し困る。奥まで覗かなくても、知悠の楽しいは目の前にあるのだから。
「そろそろ生まれたかな。見に行こう」
それは騒々しくも穏やかな日々の終了を告げる合図だった。二頭に昢覧を止めることはできなかった。力では吸血鬼に敵わず、魅力においてはまだ見ぬ仔狼に負ける。特に知悠にとって、昢覧の大橋家訪問は終焉を意味する。あそこには先日恵と入籍を済ませた依頼主も同居しているのだ。吸血鬼が訪問すれば仕事の失敗を責められる。昢覧の眼前で糾弾され、嘘が暴かれてしまう。
知悠は処刑場へ引っ立てられる罪人の気分だった。吸血鬼の逆鱗に触れれば死。よしんば命が助かっても五体満足でいられるかどうか。同じくらい、昢覧に見放されるのが怖かった。気高い狼ではなく汚くて卑しい野良犬だと知れたら、もう二度とあの温もりを向けられることはなくなってしまう。
逃げようと思えば逃げられた。一緒に行かないと言えばいい。昢覧たちが出掛けている間に何処へでも行ける。それでも知悠は同行した。昢覧から逃げて独りになるくらいなら命を差し出す。死んだように生きるのは御免だ。
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